十話 ボール遊び
天気の良いある日、トナカイとリリーは暇を持て余していた。
「トナカイー」
「どしたんリリー?」
「暇!」
「ふむー、そんなら何かして遊ぶのよーん」
「うんっ!」
「どんなことしたいのん?」
「何でもいいよ!」
「リリー、何でもっていうのが一番難しいのよ?」
「確かに……うーん、それじゃ何かを使う遊びで」
「ふむふむ、しばらくそこで悟りを開きながら待つのよっ!」
「わかった!」
「……」
「お待たせなのよーん」
「……」
「リリー?」
「……」
「リリーが悟りを開こうとしてるのよ」
「……」
「なーんて、トナカイの目はごまかせないのよ。これただ寝てるだけなのよ」
「……すやぁ」
「仕方ないから起きるまで待つのよーん」
「……すぴー」
「……あれから三日ほど経つのよ。そろそろ起こしたほうがいい気がしてきたのよ」
「……んふふ、トナカイったらもうっ」
「寝言を言い出したのよ。リリー、起きるのよー?」
「むにゃ? あれ、トナカイおはよう」
「うむ、よく寝てたのよーん」
「んーっ、今日もいい天気だねぇ」
「むふー、そんじゃこの前言ってた何かを使う遊び、するのよーん」
「えっ? ……あぁ、うん!」
「完全に忘れてたんねぇ」
「そんなことないよーう?」
「今日はこれを使って遊ぶのよ!」
「これは……ボール?」
「うむ、トナカイ特製の動くボールなのよっ!」
「何だか昔見たことがあるような」
「むふー、きっと気のせいなのよーん。このボールは、トナカイとリリーに向かって永遠に飛んでくるのよ」
「ふむふむ」
「ちなみに、すんごく頑丈なのよ!」
「いつも通りだね」
「二人でこれを避け続けて、先に当たったほうが負けなのよっ!」
「なるほど、面白そうだね!」
「そんじゃさっそく始める……のよーっ!」
「あぶなっ!? ちょっと、いきなり投げつけてくるのは反則だと思うよ!」
「むふー、勝負は油断禁物なのよーん。とか言ってる間にボールがこっちに向かってきてるのよっ!」
「あっ、普通に避けた。これ勝負つかなさそうだけど……」
「ちなみにこのボールは、しばらくしたら」
「うえっ!? ボールが分裂した!」
「ボールがどんどん増えるのよーん」
「これは面白いかもしれないっ!」
「だいぶ増えてきたね」
「ボールの数は今十六個なのよ。まだまだ増えるのよーん」
「これ、倍々に増えていくんだね」
「あと、ボールがどんどん早くなるのよーん」
「何だかテンションが上がってきたよトナカイ!」
「それはよかったのよー」
「ふあっ!? くっ……今のは危なかった」
「ボールの数が五百十二個になったのよーん。あっ、ボールの跳ねた場所にクレーターができたのよ」
「と、トナカイ? これものすごい威力になってない?」
「むふー、想定外の出来事なのよーん」
「だと思ったよトナカイぃぃ!」
「当たったらかなり痛いと思うのよ。頑張って避けるのよーん」
「もぉぉ! あっ、分裂して倍に……」
「もう避けるとか言ってられない……ボールを止めないと」
「むふー、トナカイ特製のボールは簡単に止まらないのよ!」
「そのおかげでピンチだよトナカイ!」
「これを止める方法はただ一つ、消し飛ばすしかないのよっ!」
「遊びから戦闘に発展するとは思わなかったよ」
「そんじゃ頑張ってボールを倒すのよっ!」
「わかった!」
「ちなみにボールの数は今、一万六千三百八十四個なのよ」
「そこらの国とかこのボールたちで滅ぼせそうだよ」
「すうっ……--!!」
「ほいっ、よいっしょーっ!」
「はぁ、はぁ……結構な数を消し飛ばしたよ」
「うむ、やっと三桁に……今分裂して四桁になったのよ」
「もおおお……さすがに疲れたよ!」
「そんじゃ後はトナカイがなんとかしておくのよーん」
「えっ、まさか一気にボールを止める裏技が……!? トナカイが分裂した!」
「終わったのよ」
「なるほど……トナカイ自身が分裂して一気に消すってことだったんだね」
「うむ? 頑張って一個ずつ消したのよ?」
「えっ……それじゃさっきのは「そんなことより、そろそろご飯にするのよ!」わーい! 今日もお肉大盛りでよろしく!」
「まかせるのよー!」
ちなみにこの後、奇跡的に生き残ったボールが知恵をつけ、十二分に増加してから再びトナカイたちを襲うことになるのだが、この時の二人はそれを知る由もなかった。