ixte -8月28日
8月11日
お前(=私)は閉じ込められているぞ!
出口を探すんだ。
私たち4人で、出口を探すんだ。
8月22日
……なんだ。こんな簡単なことだったのか。
私の探していたもの、私の知りたいと思っていたものは、あっけないほど簡単にその姿を現した。
明晰な思考能力で問題に向き合えば、私の求めていたものなんて、すぐに見つけることができるんだということが分かった。
8月21日
だけどそれは、あたしの観念の歪みが生んだ、偽りの影像に過ぎなかったんだ。あたしは、そのぐるりを歪んだ自分の像に取り囲まれて、鏡の迷路に迷い込むように身を潜めながら、ただ一人で息をしていただけなんだ。
8月18日
う、うわぁ……。私、同じことを繰り返してる……? なんかそんなのって、すげー寂しいことのような気がする。自身の置かれた境遇がどんなに寂しくて孤独であるかってことを内省的に自覚できないこと、それって本当は究極的に寂しいことではないのか……? ぞっとするほどの荒涼とした孤独感をすら感じるぞ……。
8月18日
……そうかー。あたしは寂しいんだ。この今まで味わったこともないような感覚は、寂しさなんだ。
ぜんぶ、あたしのもんだ。この寂しさは。
寂しさは、あたし自身だ。偽物で、空っぽな存在になることを望んでしまったあたしにとって、その否定は、反証は、あたしらしくないものの発露は、あたしらしさであるはずなんだ。
8月16日
……あれ?
ちょっと待てよ……? 果たしてそんなものが、「私らしさ」と呼べるものなのだろうか? 散らばった断片たちを拾い集めるだけの私の生は、単に世界の「平均値」であることを保ち続けることにすぎないのではないか?
――私らしさとはなんだろう?
そんな問いは、ついぞ意識に上ったことさえもなかった。
本当に空っぽでどうしようもないもの、何者でもないものは、私の方なのかもしれない。
8月24日
だって私、なーんも考えてないもん、そんなんどーでもいいよw でもさ、おねえちゃんに罵倒してもらう時、私のバカさでおねえちゃんの目的を書き換えられたような気がしたんだ。だから……。……だから、私にとっての目的はそれかな? おねえちゃんに、思いっきりバカにしてもらうこと! あと、おねえちゃんのこと思いっきりバカにすることだよーん! やーいこんなノートぐちゃぐちゃに汚してやるー!くぁwせdrftgyふじこlp
8月23日
私のストーリーは、厳密に確定された私らしさだけで成り立っているべきで、だから、私には誰かの助けなんかいらない。そしてこのノートには、他人の手助けによる記述上の発展、修辞、含意が加えられるべきではない。私は、純粋無垢な私らしさだけでそのゴールへとたどり着かなくてはならない。私の目的を達成するために、私を含む世界の諸要素を望むべく形で再配置していかなくてはならない。
8月13日
いやぁーーっ、すっがすがしい朝であるっ! あたしはちょー心地いい日の光に包まれながら目を覚ましたんだよねー! 朝焼けっ! 光芒っ! 太陽のシルエットっ! また、気怠い一日の、始まりだー!
……ありゃ?
……あたし、一体何を書いているんだ?
8月18日
ちょ、ちょっと、どういう意味? なにわけ知り顔でどやぁーっ! って感じで書いてんの? ぜんぜん意味わかんないんだけど。……っていうか誰だよ、こいつ。
8月11日
ほんとはすごく、怖い。自分が、ほんとはどんな人間なのか、周りからどんな風に見えているのか。その真実に少しでも触れることが、すごく怖い。
8月26日
私は、自分の見ようとしたものしか見ていなかった。誰かの存在を、その人の本当の意味を、自分の瞳の中に映し出そうとしたこともなかった。私の視線は私自身、私の内面にのみ注がれていて、見るという行為は私一人の閉じた志向性の中に根を下ろしていた。
8月25日
だから、私が見ていてあげようとしたんだよ!
だっておねえちゃん、見ててあげないとずっと一人で部屋に引きこもっててさ、
今年もまたこの季節がきた! 夏だ! 夏といえば海! 水着! 競泳アニメ!
と! 言うわけで、うひひw 今季私的に最高に胸アツなカプはこれだー!
8月18日
会いたい。妙有に会いたい。その手に触れたい。そのおっぱいに顔を……自粛します。
8月12日
そ、そうだ! そうだよ! 相沢さんがいてくれればいいのに!
そばにいるだけでドキドキしちゃうからそばにいてくれればいいのに!
8月25日
庭下さんはいきなりとんでもないおっぱいで私を……いやはー! 自粛しますねー! と、とにかく、運動も苦手だし、人前に立つのもノーチャンでなしだし、百合属性もなくむしろノンケ(ほんとだよ?)の私にとって、こんな日々は全然いいもんなんかじゃない、早く終わって欲しい、って、そう思ってた。
8月25日
もうすぐ、夏が終わる。
どんなに輝きに満ちた日々も、どんなに愛おしく思っていた熱っぽさにも、必ず終わりが来る。すべては移ろい、過ぎ去って行く。そんな当たり前のことが、今の私には、辛かった。その輝かしさの永続性は、隠し持っていた意外さで私の無垢を裏切り、鮮やかな痛みの感覚だけを残して、手の届かない所へと消え去ってしまうんだ。
8月25日
……あたしなんか、消えてしまえばいいんだ。いつの間にかすっかり高くなっていた青空に、引っ掻き傷みたいな、今にも消えてしまいそうな筋雲が何本も光っているのを見て、ふとそんなことを思った。相沢さんに、もう解散だ、って言われたあの日、あたしはひっそりといなくなってしまえばよかったんだ。互いに忘れて忘れあって、最初から何にもなかったことにして……!
8月14日
つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。つまらない……
8月26日
ベッドの上、無造作に翻るシーツの皺にも、彼女の身体のたおやかな曲線美を感じることができるし、今、まさに私に迫り来る巨大な肌色の壁にも彼女のその豊満なおっぱ……ん? 迫り来る肌色の壁? こ、これは一体な……ばちーん! きゃー!
――あああああああああーーーっ! 突然、あたしの喉がひとりでに叫び始めた。
――あああああああああーーーっ! もう、ほんっと、つまんないんだよ! 私の文章は!
――ぎゃあああああああーーーっ! 殺されるー! やだやだ、怖い怖い死にたくない、やめてやめて誰か助けて、怖い怖いーー!! あたしは! お前のことなんか! 怖くないぞ! 怖くて、怖くて、怖くて怖くて怖くて嫌で嫌で嫌でうわーーっ! ってみんなの前で大声で泣き出してしまいたかった。な、泣いてなんかないもん! 私まじ最強なのだ! あたしは、ここにいる! ちゃんと、見てみろ! 街。公園。親子連れ。コンビニ。郵便ポスト。横断歩道。自販機。広場。私は、とても心地よい日の光に包まれながら目を覚ました。私は、とても心地よい日の光に包まれながら目を覚ました。私は、とても心地よい日の光に包まれながら目を覚ました。私は、とても心 よい 光に包ま がら目 ました。道路工事。駐輪場。消防署。フ ス。電 。小児科 ック。ジ ング。買 物 。花 。日 。モニ ト。私 、と 心地よ 日の れなが を覚ま た。 、とても 日の れ 目 した。私 、とて 日の れ を た。き しね
しね うざい きえろ こっちくんな きもい うせろ
さわらないで なん きもちわる のがいる うわーな か こへんな
うまれ こなけ ばよか たのに てゆー はや しね いい になんで
ま ょ きも しね に しね うざい きえろ こ
きもい うせろ き
たない さわらないで
なんか もっとちゃんと、あたしのことを、見ろーー! もちわる の
がいる うわーな か
こへん におい する
うまれ こなけ ばよか たのに てゆー はや しね いい になんで きて んだろ ま ょ きも しね に しね うざい きえろ こっちくんな きもい うせろ きたない さわらないで なん きもちわる のがいる うわーな か こへんなにおい する うまれ こなけ ばよか たのに てゆー
こんなつまんない、どうしようもない文章をくどくどくどくど書いていないで、みんなと一緒に×××して、×××して、×××して! そしてこんなノートなんかめちゃくちゃにぶっ壊してしまえばいいんだ! しねうざいきえろこっちくんなきもいうせろきたないさわらないでしねうざいきえろこっちくんなきもいうせろきたないさわらないでしねうざいきえろこっちくんなき×××せろきたないさわ×××でしねうざい×××こっちくん×××××せろきた××さわら×いでし×××いきえろ×××くん×××××せろきた××××らない×××うざ××××××××ん×××××××××ない××××××××う×××××××ち××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××相沢さん××××××××××××、私××××××××××××××。相沢さんの××××××××××××××なも××××。相沢さんの×××××××××××、私の××××××××××××××××××××……。相沢さんの肌×××××温も××、私に×××××おし××のなんだ。相沢さんの存×は、私に×××とても×××ものなん×。相沢さんのことを×××××でも、私の胸×××痺れ×××××疼××××ぱいに××……。相沢さんの肌身××れる温も×は、私にはとて×愛おし××のなんだ。相沢さんの存在は、私に×××とても必要な×のなん×。相沢さんのことを想×××つでも、私の胸の中×痺れる××な疼き××っぱい×なる……。相沢さんの肌身に触れる温もりは、私にはとても愛おしいものなんだ。相沢さんの存在は、私にとってとても必要なものなんだ。相沢さんのことを想うといつでも、私の胸の中は痺れるような疼きでいっぱいになる……。いやぁーーっ、すっがすがしい朝であるっ! あたしはちょー心地いい日の光に包まれながら目を覚ましたんだよねー! う、うわああああ、何これ、何これ!? 私、心地いい日の光になんか包まれていないぞ! なんか、白くて、吸湿性があって、バサバサしている謎の物体に包まれているぞ! だから私は、もう一度、今度こそちゃんと見てあげなければいけない。相沢さんのことを、庭下さんのことを。そして――私自身のことを。……得体の知れない、このノートとともにさー! どどど、どーなってるんだ、これ!? 助けてー!! 私自身ほつれになって、意味もわからずにこんがらがって絡み合って、決してほどけないくらいに強く結びつきあって、なぜか、いきなり枕元に置いてあったそれは、あたしの全く見覚えのないものだったんだよねーっ! ……って叫ぼうとしたその声は、目の前を覆う白くて吸湿性があってバサバサしている謎の物体に遮られてうまく出て来ない! はたから見れば無価値で美しくもない、毛玉のような独善性の塊になれればどんなによかっただろう。だけど、どーゆーわけか、その最初のページには、あたしの文字で、見覚えのない言葉が書いてあったんだってばーっ! ……あーらいやだ。ただのノートじゃないの! うわー、私何バグっちゃってんのまじアホやん! 見つめて、見つめられて、みんなで見つめ合って一つになっちゃって、外から眺めても無秩序に混沌としていて意味がわからないけれど、それでもその内部では私たち自身が絶えず見つめ合っていることで、誰にもわからない、確かな意味合いを付与し合えているような、そんな関係性になれればどんなによかっただろう。
✳
8月28日
私なんかが見ていなくたって、相沢さんたちは、あんなにカッコいいダンスを披露していたんだ。だから、誰も私のことなんて必要としていなかったんだろう。私なんかいなくたって、誰も困らなかったんだろう。……っていうか、そもそも私のことなんか見えてすらいなかったんだろうな……。
私は、やっぱり、ただ見ていただけなんだ。誰の意識も届かない暗闇から、光に焦がれて。物事の本質を照らし出すようなその明るみに憧れて。決して触れることのできない、私に届くことのないその輝きは、現在するものではなくあくまで「予感」として私を取り巻いていた。それに近づけば近づくほど、私は私自身から遠ざかっていく感じがした。なぜならそれは、私の本当を照らし出す光、私がこうなりたい! と願っていた姿の予感であり、だからこそ私が決してそれになることができないという事実の開示だったから。これほどまでに、その対象と自分自身との違いを浮き彫りにし、ともに生きている喜びを、予感というショーケースの中に閉じ込めてしまう「見る」という行為は、果たして私を幸せにしてくれたのかな? 何も見ないで、何も知らないでいられたなら、それに焦がれることもなく、手に触れられないことを嘆くこともなく、ただ漫然と日々を過ごせていたんじゃないのかな……?
――だけど……。
だけど、カッコよかったなぁ〜、相沢さんたちのダンス! すごくパワフルで、神々しくて、すべての動作が希望と誇らしさに満ち溢れていて! 一見、動きがバラバラで、息が合ってないように見えても、それは、みんながお互いの力を本当に信じていたから、はやる気持ちもそのままに、どんどん先に進んでいってしまおう! っていう勇壮さの現れだった。美しくなんかなくても、洗練されてなんかいなくても、そこには、もっと泥臭い、もっと根源的な相手の存在に対する信頼感があった。洗練というものが、個々の存在それぞれが持つ特性どうしが時間軸の中で乱雑に錯綜し予期せずして邂逅する、その機宜の到来への不確実で不明瞭な予感なのだとすれば、そんな予感なんて必要としない、予感が訪れる前にお互いの胸の熱さを能動的に感じ取ってしまおうとする、そんな善性に満ちた優しい否定がそこにはあった。だから、誰の期待をも裏切るような、いや、誰の予感をも満たさないような、そんな相沢さんたちだからこその突飛なパフォーマンスを見せつけられて、戸惑うお客さんもいたみたいだけれど、それでも私には分かっていた。その奥底にある輝きさえよく見えていた。その眩しさから目を逸らすことができなかった。
誰にも分からなくても、私には分かっていたんだ。そこには小手先の技術なんかによらない、心の底から湧き出しているような力強さがあった。だから、相沢さんたちがダンスの練習を始めたばっかりの頃から、まだ全然リズムもフォーメーションも取れていないような時から、私はみんなの姿に痺れていたんだ。汗をかいて、息を弾ませながらころころと笑いあっている、子供みたいに手を取り合ってきゃっきゃとはしゃいでいる、ただそれだけなのに、まるでその繋いだ小さな手のひらに、宇宙の運航の舵が握られているような、世の全ての力の源が眠っているような、そんな奔放な純真さの秘されたありように、私は見ほれていたんだ。
私は、そんな相沢さんたちの姿に、みんなが一心不乱にダンスを踊るその姿に、ずっと見とれていたんだ。




