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ixte  作者: 琴尾望奈
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ixte -8月19日

 8月19日


 すがすがしい朝である! 私は、とても心地よい日の光に包まれながら目を覚ました。

 ……得体の知れない、このノートとともに。

 なぜか、いきなり枕元に置いてあったそれは、私の全く見覚えのないものだった。

 だけど、どういうわけか、その4ページ目には、私の文字で、見覚えのない言葉が書いてあった。


 すがすがしい朝である! 私は、とて   よい日の光に包まれ   目を覚ました。

 ……得体   ない、こ   トとともに。

 なぜか、い   枕元に置いてあったそれは、私の全   えのないものだった。

 だけど、ど   わけか、その3ページ目には、私の文字で、見覚えの   葉が書いてあった。


 すがす    である! 私は、とても心地よい日の    れなが    ました。

 ……得体    い、このノー    に。

 なぜか、い    元に置いてあ    は、私の全く    ないものだった。

 だけ    いうわけか、その2ページ目には、私    、見覚えの    が書いてあった。


 す     朝である! 私     心地よい日の光     が     した。

 ……得     い     ト

 な     なり枕     あったそ     全く見     ものだった。

 だけど、ど     か、その1     は、私の文     えのない     てあった。


      ✳


 8月19日


 私にとって、みんなの存在とは、何だったのか。

 相沢さんの、私を見つめる眼差しは、私の心にどんな炎を灯したのか。庭下さんの、そよ風のような軽やかさは、私の中のどんな重みを浮き彫りにしたのか。

 ……思い出せない。みんなからは、確かにたくさんの贈り物をもらったはずなのに、そのどれもが私の中に根を下ろさず、定着せず、通り過ぎて行ってしまった。

 きっと、私が取りこぼしてしまったんだ。彼女たちの想いを、温もりを。共に弱さを共有しようとする意図を。どんな不純も、至らなさも、全て肯定してしまえるような優しさを。

 私は、今まで一体何を見てきたんだろう?

 何でも出来るつもりになって、何でも手に入ると勘違いして。結局は、自分が本当は何をしたいのか、何を求めているのか、そんなことさえ、分かっていなかったんだ。

 私にとって、事実は、波打ち際を歩く足跡のように、現れるそばから波に洗われ、消え去ってしまう。後ろを振り返ってみても、波に均された砂地は、幾年も変わらずにそこにあるようななだらかさを広げて、私の居場所を、歩いてきた記憶を、不明瞭にする。私がそれを掬い上げようとしても、水に濡れた砂は、思いがけないような冷たさの感触だけを掌に残して、指先からこぼれ落ちていってしまう。

 私にとって、相沢さんや庭下さんの記憶も、同じようなものだ。相沢さんのは、私にとっては      なものだった。庭下さんの      も、私は      できなかった。2人が私の中に残した      な感触は、私の思いもよらぬもので、だからこそその      を、私は受け止めることができなかった。彼女たちの      な感触は、私の中に残らず、留まらず、どこかへと消え去って行ってしまったんだ。

 だけど、その時は取り逃がしてしまった      な感覚は、今の私にはとても      なもののように思える。どうしても分からなかったことが、どうしても定義できなかったもどかしさが、私の本当の      のような気がする。その      のような不思議な感覚が、私にとってのみんなの      なような気がする。みんなが、私の中に残してくれた、どうしても分からない      が、みんなの本当の      のようなな気がする。

 だから、私は      しなきゃ、いけなかったんだ。それを、何としてでも         しなければいけなかった。そして、みんなのを、      で、      で、私      から      に、      だったんだ。


      ✳


 8月19日

















      ✳


 8月19日


 わーい! 今日も楽しい一日の始まりだー!


 今日はすごく早く目が覚めて、枕元の時計を見てみると偶然5時55分! わー、すごーい! こんなちっぽけなことだけど、なんか幸先がいいぞー!


 ……だけど、私      なんだ。あいざ      が      きゃ、私、      だ。


 それから、朝ごはん食べながらテレビを見ていたら、今日の占いカウントダウンで、おひつじ座が1位だった! しかも、チャンネルを変えてみたら、裏番組の血液型占いでもO型が1位だった! すごーい! 今日は絶対ハッピーな一日になるぞー!


 ……でも、そんな         も      だ。

               だから、         だし、

                     あるわけがないんだ。


 お昼過ぎに、買い物に行く途中、突然のにわか雨に見舞われて、商店の軒下で雨宿りしてたら、結構すぐ止んでくれて、その後空に大きな虹が掛かった! きれいー! こんな虹が思いがけず見られるなんて、ラッキーだなー!


 ……でも、            あいざ

                  だ。


 公園のベンチで一休みしていたら、よく見かける、ワンちゃんのお散歩している人に話しかけられて、ワンちゃんとも仲良くなれて、指先をペロペロ舐められちゃった。くすぐったーい! 私って結構動物になつかれるタイプなのかな?


 ……         か

                     で      。


 喉が渇いたので、自販機でジュースを買ったら、何と大当たり! もう一本貰えちゃった! ツイてるー!

 ……。

 家に帰る長い一本道の横断歩道で、一度も赤信号につかまることなく歩ききれました! やったー!

 ……                     。

 家のお掃除をしていたら、押入れの奥から、昔なくしたキティちゃんストラップが出てきた! こんなところにあったのかー! 見つかってよかったー!

 ……                     。

 テレビをつけてみたら、ちょうど芸人さんが、今テレビつけた人何やってるかわかんないでしょ!? とか突っ込んでた。わー、これ私のことじゃん! なんかよくわかんないけどラッキーだなー!

 ……                     。


 ……いやー、今日も楽しい一日だったなー! 私の妄想力の奔放さも、なかなか捨てたものじゃないぞー。こんな楽しい毎日を、今日も、明日も続けていければ、私はきっと幸せなのになー!


 ……うん? 幸せ、なのかな、私?

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