DAY AFTER #7
すがすがしい朝である! 私はとても心地いい疲労感に包まれながら目が覚めた。昨日のライブは、まあいろいろあって大変だったんだけど、なんとかやり遂げることができたし。どういうわけか、遠い過去の記憶でも思い出したような、懐かしさに胸の奥を突かれるようなくすぐったい痛みを感じていたけれど、それでも私は達成感と満足感で胸がいっぱいだった。
テレビをつけてみると、懐かしのスーパーサイヤ人がクリリンことかー! とかクリリンのことじゃないのかー! とか言って大騒ぎしていた。もちろん私は速攻でHDMI入力モードに変更して、ゲーム機の電源を入れようとして……。
ゲーム機の横に、小さな青い表紙のノートが落ちているのを見つけた。うん? なんだろう、このノートは? それは私の持ち物ではなかった。だけど、なぜか、確かに見覚えがあった。
私はそのノートをそっと拾い上げ、ページをめくってみる。明らかに私の字ではない、小さな丸文字で、丁寧にびっしりと書かれた文章が目に入ってきた。
7月20日 金曜日
最後に、依緒ちゃんに会えて、良かった。
これは……、そうだ、思い出した。これは絵奈のノートだ。昨日のライブが始まる直前に、彼女がなぜか私に持っていてほしいと言って、私に預けてきたノートだ。
そのノートの最後のページは、なぜかとても意味深な言葉で始まっていた。私は、このまま続きを読んでしまっていいものかどうか、わからなかった。私の名前で始まっているその文章が、私への呼びかけの言葉ではなく、絵奈自身の心情の吐露のように思えたからだ。
――最後に、私に会えて、良かった……?
なぜだろう? なぜ絵奈はこんなことを書いたんだろう? なんで「最後」だなんて思ったんだろう? 私たちはいつだってまた会えるのに。電話してくれれば、今すぐにでも会いに行くのに。
私がそんなことを考えていると、会いたくもないのに勝手に会いに来る例のバカが、また私の部屋のドアをいきなりドカン! と景気良く蹴飛ばして、
「やあ、やあ、これはこれは。国民的スーパーアイドルの、おねえちゃんじゃないですかー。ぼんじゅーる、おねえちゃーん。うっしっしw」
と、意味不明なことをほざきながら、なぜかフランス語で挨拶をしてくるのだった。こいつ、国民的と国際的の違いもわからないのか? っていうか、なんで私が国民的アイドルなのよ?
「いやー、世界を股にかける国民的スーパーアイドルのおねえちゃんは、今日もライブのリハーサルで大忙しなんだよねー。まっ、大変だろうけど、せいぜい頑張ってねw ぷぷぷっw」
――なんなのこいつ? どうしてバカのくせに、こんな人をバカにしたような態度をとれるの? ガッチむかつくんですけど。その蔑むように覗かせた前歯に、緑色の極細油性マジックで青のり描いてやろうかしら?
私はもうこんなバカのことなんかガン無視することにした。ゲーム機を立ち上げ、コントローラーを握る。
「ちょっと、おねえちゃん。ゲームなんかしている時間ないよ? リハーサル行かなきゃ、リハーサル!」
「なによ、リハーサルって? 昨日ライブ終わったばかりなんだから、まだ何の予定も立ってないわよ?」
「えー? だっておねえちゃん、昨日の夜、あんたのせいでまたライブやる羽目になったじゃない! とか言って、私のほっぺ、ぎゅーっとつねってきたじゃん。ちょー痛かったんだよ? 私がおねえちゃんの向こう脛蹴っ飛ばすまで、やめてくれないんだもん」
な、なんだと……? と思って見てみると、私の脛の、皮膚から骨までの距離が一番浅いポイント、要するに、一番痛いところに、何か硬い物が正確にクリーンヒットしたような青あざができていた。……ちょ、ちょっと待って。ほっぺつねるのをやめさせた、と言うよりも、ダウンを奪った、と言った方が正確なんじゃないの? こ、このバカ、私のことスーパーアイドル呼ばわりする割には、その生命線とも言える脚に、なかなか手荒な真似してくれるじゃねーか……。
――ポコポッコポン♪
「ほら、おねえちゃん、ケータイ鳴ってるよ? きっと他のメンバーの人からだよ」
妹の指差す先で、私のiPhoneが間抜けな木琴の音をポコポコ奏で始めていた。なんか、ケータイにまでバカにされている気がした。
「はい、もしもし?」
「あ、相沢さん?」
受話口から聞こえてきたのは、椎香の声だった。
「相沢さん、今日から練習開始するんでしょ? 遅れないように来て」
抑揚のない話し方で、それだけ言うと、電話はぶちっと切れてしまった。
「ほらほらー、おねえちゃん、メンバーの子も待ってるし、これは練習に行かなきゃいけませんねーw 今日はゲームできなくて、残念でしたーw ベロベロ」
――ピキッ! その時私は、今日は一日中ダラダラと過ごそうとしていた予定を狂わされたことによる苛立ちと、このバカの無駄に挑発的な態度への怒りとで、我を忘れてしまっていた。こめかみの毛細血管が鋭く破裂音を立てるのと、私の指先が妹のほっぺを思い切りつねりあげるのが同時だった。
「いはい(痛い)、いはい、いはい、おへえひゃん(おねえちゃん)、はへへほー(やめてよー)」
こんの、くっそバカが! いつもいつもムカつく態度とりやがって! 今更そんな、ほっぺつねられながらハ行で喋る萌えアピールしたって、許してやらないんだからな! やっべ、妹、まじ萌えるわーw キュン死すんわーw とか、思わないんだからな……
「はへへっへば(やめてってば)!」
――バキッ!
私の脛骨が鈍い破壊音を立てるのと、唇が床に口づけをするのが同時だった。何が起きたのか一瞬わからなかったが、ダウンを奪われたことだけはわかった。ね、ねえ、今、バキっていわなかった? なんか嫌な音したよね、ねえ?
「もー、おねえちゃんのろくでなし! ほっぺつねるなんてサイテーだよ! 家族に対して暴力を振るうなんて、脛に傷のある人のするような行為だよ!」
このバカは、皮肉ではなくまっすぐにこういうことを言えるからすごい。もはや尊敬に値する。実際により激しい暴力を振るわれたのは私の方だし、それによって私の脛にはフィジカルな傷ができているかもしれないのだった。
「おねえちゃんのばーか! ベロベロベー」
私をさんざんバカにしくさった妹が、最後にオシリペンペンしながら廊下を逃げていく。私はとっさにそばに落ちていた何かを掴んで、
「……この、バカ妹がーー!」
渾身の力を込めて妹に投げつけようとして、ふと何かに気づいて、その手を引っ込めた。
私が手に掴んでいたものは、絵奈から預かったあのノートだった。
私は、そのノートを、思わず両手でしっかりと抱えていた。絵奈のように小さくて、おとなしくて目立たない見た目のそのノートが、まるで彼女自身のように思えたからだった。私は、絵奈がそのノートに何かを一生懸命に書き込んでいる姿を思い出していた。きっと彼女にとって、このノートはとても大切なものにちがいない、そう思った。
――返さなくちゃ。
私は、急いで、椎香の待つ学校に向かうことにした。そこに、みんなが、そして絵奈がいることは、間違いない。
集合時間の20分も前に待ち合わせ場所である学校の中庭に着くと、椎香はもうそこにいた。彼女は窓ガラスに映る自分の姿を確認しながら、ライブでうまく踊れなかった難しい振り付けを、何度も何度も、たった一人で繰り返し練習していた。
「あ、相沢さん! 来てくれたんだね!」
反射する窓ガラスの中に私の姿を見つけた彼女がこちらを振り返り、喜びに弾み出しそうな声で話しかけてくる。もう汗でびっしょり濡れている彼女の顔は、昨日のライブの失敗のことなんか入り込む隙間もないほどの、満面の笑顔だった。
「相沢さんが来てくれると、めっちゃ嬉しいよ!」
「うん。私も、椎香に会いたかったし。……椎香、集合時間前なのに、もう練習してたんだね」
「……………」
「椎香?」
「……ん? ああ、相沢さん! びっくりした……、いつの間にいたんだ。そっか、来てくれたんだね!」
「え? いつの間に、って? さっき、挨拶したじゃない?」
「……………」
「椎香?」
「……あれ? 相沢さん? いたの?」
「椎香! どうしちゃったのよ?」
「……………」
「椎香!」
「……相沢さん、何か用?」
椎香はさんざんトンチンカンな受け答えを繰り返し、その度になぜかその表情から彼女らしい、太陽のように輝く笑みを消していった。最後に残ったのは、その視線の持つ仄暗さで、周囲に飽和する光の渦を溶かしていってしまいそうな、そんな不気味な双眸だけだった。誰かが彼女に投げかける、あるいは彼女の内面が誰かに向けて放射する感情の束を、全て吸い込んで、いや、全て中和して無に帰していってしまいそうな、そんな底知れぬ闇のような瞳だった。
「椎香! 私は、集合時間前なのにもう練習していたんだね、って言ったんだよ!」
何か得体の知れない不安感に襲われながらも、それでも私は会話を続けようとした。すると彼女は、私の不安を打ち消すかのように、急にぱあっと本来の笑顔を取り戻すと、
「うん! 早く踊りたくて、踊りたくて、予定より前に来ちゃった!」
そう言って彼女は、その場でくるりと素早くターンしながら、足を前後に交差するようにしてステップを踏んで見せた。
「次にライブをやる時には、ここを完璧に踊れるようにしておきたいんだよね。この前は、うまくできなくて悔しかったからさ」
彼女はそう言って、めげずにもう一度同じ箇所を踊ってみせる。
「あ、なんとなくコツがつかめたかも。見てて。右足の軸に意識を集中させて……っと。ほら!」
彼女は力強く足を踏み出した。重心を意識することにより体幹がまっすぐに伸びて、さっきよりもずっと美しいフォームを保ったままステップを踏むことができていた。
「ねっ! 少し上達したでしょ?」
すごく嬉しそうな微笑みを浮かべながら、椎香はそう言うのだ。彼女は、一度コツをつかむと、決して忘れないのだった。
「すごいじゃない、椎香! 見違えるように上手になったよ!」
「……………」
「椎香?」
「何が?」
「え?」
「何が、見違えるように、上手になったの?」
「な、何が、って……? 足を交差してステップするところだよ。たった今、椎香が踊ってみせたじゃない」
「???」
椎香は不思議そうな表情を隠さないまま、もう一度さっきのステップのところを踊ってみた。昨日のライブのように、ぎこちない、体幹のぶれたような姿勢のステップだった。
「あれ? 椎香、さっきはすごく上手に踊れていたのに、どうして……」
「右足の軸を意識」
「――へ?」
「右足の軸を意識、ってところまで、覚えてる」
そう言うと彼女は、また力強く足を踏み出した。彼女の体は、再びさっきの綺麗なフォームを思い出したかのように、全く同じ姿勢で踊ることができていた。
「えへへ、どう? うまく踊れてるかな?」
椎香はそう言いながら、少し嬉しそうにはにかんで見せた。
「そう、それだよ、それ! すごいじゃん、椎香! やっぱり、椎香は、一度覚えたコツは忘れないね」
「……………」
「椎香?」
「何?」
「え?」
「コツって、何?」
「な、何、って……? 今、上手に出来てたじゃない。足を交差してステップするところを、うまく踊るコツだよ」
「???」
椎香は、再び頭に疑問符を浮かべながらきょとんとしていた。いや、きょとんとしていたというよりも、ぼーっとしていた。不思議そうに顔をしかめることすらせずに、一切の表情筋を動かしていなかった。話せば話すほど、彼女の顔から感情が抜け落ちていくような気がした。
彼女は、集合住宅の中にぽつんと立っている給水塔のように、ぬーっとした無表情のまま、またステップを踏んで見せた。やっぱり、姿勢の崩れた、綺麗とは言えないステップだった。
「し、椎香……。どうしちゃったのよ……?」
「右足の軸を意識」
「椎香……」
「右足の軸を意識」
椎香はそうブツブツつぶやきながら、ステップを踏んでみた。
また彼女の体は、先ほどのような流麗なフォームで踊ることができていた。しかし、その顔は、扁桃体を切除したかのように無表情で、まるで、コンピューターに制御されているロボットが、先ほどの椎香の動きをミリ単位でトレースしたみたいに見えた。
「……………」
「椎香……」
彼女は上手にステップを踏むことができたというのに、まるで少しも嬉しくないかのように、表情をぴくりとも変えなかった。
「もっと、上手くできる」
「……え?」
「もっと、上手くできる」
椎香は、ぼそっとそう言うと、もう一度同じステップを踏んだ。今度は、彼女は先ほどつかんだコツを忘れていなかった。先ほどと同じように、体の軸が、空からロープでぴんと引っ張られたようにまっすぐ伸びた綺麗な姿勢のまま、さらに今度の彼女は、左右の空間に足をバランスよく膨らませて、より動的で迫力のあるステップを披露してみせた。手足のすらりと伸びた彼女の体は、もっともその美しさが映えるような、彼女に似つかわしいステップを踏んでいた。そして、その整った綺麗な顔は、もっとも似つかわしくない空白のような無表情を貼り付けていた。
「椎香……どうして……?」
「もっと、上手くできる」
椎香はまたも一人でステップを踏んだ。今度はそのフォームの美しさや力強さに加え、足元の刻むリズムの正確さまで増したように見えた。そしてその口元は、やはり少しも笑っていなかった。
彼女は私の眼の前で、どんどんそのダンスの完成度を上げていった。それでも、そんな彼女の姿を見ていた私は、ちっとも嬉しくなんかなかった。それどころか、まるで原子炉の監視室内で、核分裂の連鎖反応が制御を失ってどんどんと拡大していくさまをただ見ているような、そんな為す術ない恐怖感をすら覚えていた。
ただひたすらに、狂ったようにダンスを踊り続けて、私ににこりと微笑もうともしない彼女の姿を見て、私は思った。今の椎香は、椎香の記憶は、感情の伴わない断片から構築されているのだ。ちょうど、高度な科学理論がそうであるように、彼女を構成する要素からは、世界の事実に関する純粋な概念以外のものが、ことごとく排除されているのだ。私に会えたことの喜びも、ダンスが上達する楽しさも、どういうわけか彼女の記憶からこぼれ落ちてしまっていた。
私は、そんな椎香のことをみて、すっかり怖気付いてしまっていた。できることなら、その場から逃げ出してしまいたかった。だけど、彼女を置いて私がどこかにいってしまうわけにはいかないことも、わかっていた。私が目を離したら、彼女は一体どうなってしまうか、想像もつかなかった。彼女から逃げるわけにはいかない。逃げていちゃ、きっと、ダメなんだ――。
「うん、あたしもそう思う」
「わー! た、妙有、いたの!?」
毛先をくるくるにカールした派手めな茶髪の間から、キラキラのラメ入りメイクをした桃色のチークを覗かせながら、妙有が私の横に立っていた。
「あたしも、逃げてばっかいないで、これからはちゃんと自分に向き合うことにするよ」
「? 逃げている? 妙有が?」
「うん。相沢さんが今考えていたこと、あたしにもよくわかった。だからこれからは、他の人の真似ばかりするの、止めることにするよ」
……なんか、ちょっとパラドキシカルに矛盾してるような気もするけど。
「この前の練習のとき、例のBメロのパート、あたし、みんなの動きの真似しちゃってうまく踊れなかったからさー。これからはちゃんと自分で考えて行動することにするよ。そのパートのところだって、あたし、今朝一人で練習してきたんだ」
「そ、そう。偉いじゃない、妙有」
……っていうか、この子、私の心の中を読んでいるの……? ぞわ……。
「そ、それじゃあ、そのパートは、みんなお互いの動きの真似をしないように工夫して練習することにしよっか?」
「わー、偉いじゃん、相沢さん!」
「え?」
「相沢さん、みんなの真似しないで、ちゃんと自分で考えて行動しようって、思ってるんだ。偉いじゃん! あたしも見習わないと!」
「ちょっと、何言ってんのよ、妙有? 今さっき、妙有の方からそう言ってきたんじゃない?」
「えー? あたしはさっきから、相沢さん偉いなー、って思いながら、聞いていただけだよ?」
「???」
妙有は、相も変わらず、今日もへんてこりんだった。
「ま、いいや。とにかく、妙有は、練習してきたって言う成果を見せてよ。例のBメロのパート」
「え? 違うよ。あたしが一人で練習してきたのは、足を前後に交差してステップを踏むところだよ?」
「え? そうだったの?」
この子、さっきそんなこと、一っ言も言わなかったじゃんか。
「そうだよー。相沢さんが言ってたBメロのパートってのは、楠田さんがたった今何度も練習していたところじゃないかー。あたし、楠田さんすごいなー、どんどん上達していくなー、って思いながら見ていたんだから」
「???? ええっ?」
「ちょっとちょっとー。相沢さんってば、記憶だいじょぶー? なんかもしかして、健忘症にでもなっちゃったんじゃないー?」
そう妙有に指摘された私は、どこかのちびっこ名探偵みたいに、あれれーおかしいなー? とか言って曖昧に笑ってみせたけれど、心の中では、バーロー、それはお前の方だろ! と思っていた。今日の彼女は、普段にも増しておかしかったのだ。他人の記憶の内容を、まるでそれを自分のことのように記憶し、自分の取った行動を、まるでそれを他人が行うのを側から見ていたかのように勘違いする。彼女は、「自分」に関する記憶を綺麗さっぱりなくしてしまっているみたいに見えた。そして、そのぽっかり空いた記憶のドメインに、他人の記憶を自分のものとして、まるっとインストールしているみたいだった。
「ちょっと、練習、始めるよ?」
ふと見ると、椎香がそう言って、作り物のような瞳でこちらを睨んでいた。
「そうだねー。これであたしたち全員揃ったしさー。次のライブに向けて、練習を……」
「ちょっと! 椎香も、妙有も、何言ってんの?」
私は、言外に、そんな冗談はよくないよ! と言う厳しさを込めた口調で、2人に突っ込みを入れた。
「もう一人、大切な仲間が、まだ来ていないじゃない」
「「大切な、仲間?」」
2人は、明らかにしらばっくれたような顔をして聞き返してきた。こいつら、いつからこんなに性格悪くなったんだろう? 私をからかうだけならいいけど、彼女を傷つけるかもしれない悪い冗談だ、ってことに気がつかないのだろうか?
私は、カバンの中から例の青いノートを取り出して2人に見せた。
「ほら、私、このノート返しにきたんだ。きっと、これ、絵奈のだから」
「「えな?」」
「そうだよ。絵奈。飯田絵奈。まさか、下の名前、忘れちゃったの?」
2人は、困ったようにお互いを見つめあっていた。おもむろに口を開いたのは、椎香の方だった。
「ごめんなさい、相沢さん。私、しばらく学校休んでいたから、よく知らなくて」
私は、椎香が何を言っているのか、わからなかった。
「――飯田さん、って、誰?」




