DAY AFTER #3
すがすがしい朝である! 私はとても心地いい疲労感に包まれながら目が覚めた。昨日のライブは、まあいろいろあって大変だったんだけど、なんとかやり遂げることができたし、体の疲れも、筋肉痛も全くなく、私は達成感と満足感で胸がいっぱいだった。
テレビをつけてみると、日本一の適当男が街をぶらぶらねり歩き、通行人を呼び止めては、どう見てもクソババァなのに、お嬢さん綺麗だね〜、とか言ってヘラヘラしていた。私はもちろん速攻でHDMI入力モードに変更して、ゲーム機の電源を入れる。昨日まであんなに一生懸命頑張ってきたんだ。今日ぐらい、一日中だらだらとゲームをプレイして過ごしたっていいでしょ? 外は嵐が過ぎ去った後のような晴天で、路上には吹き飛ばされたゴミや砂つぶが散乱している。こんな日は清潔な室内でゲームをするに限るね。
と、その時、また妹が勝手に私の部屋のドアを開いて現れ、
「もう、すっかり元のぐうたらおねえちゃんに戻っちゃたね。ライブでのカッコいいおねえちゃんは、どこに行っちゃったの? 今のおねえちゃん、ほんっと、カッコ悪い! おねえちゃんのばーか!」
――ん? なにを言っているんだ、こいつ? ライブやってから、まだたったの一晩しか経ってないのに。
「まじで、しょうがないおねえちゃんだなー。今日こそおかあさんに言いつけてやる!」
ご自由にどうぞ。私は、誰になんて言われようと、一日中引きこもることに決めたんだ。今日の私から自由を奪い取れる人なんて、いないのだ。
そう、私は自由なんだ! とても晴れやかな気分で、私はそう確信した。自由とは、無限の可能性に開かれているということ。今日一日、私の予定はまっさらな空白で、何が起こるかは誰にもわからない。言い換えると、私は何だってできるんだ。誰にも縛られることなく、何事にも規定されることなく、私は私の行動を自分で自由に選択できるんだ!
溢れる期待感に突き動かされるように、私はコントローラーを握る。画面の中には、久しぶりに目にする『破壊する者』の姿。おお、会いたかったぜー、かかってこいや☆ 厳しいダンスのトレーニングに耐え抜いた私の姿を、日々成長し進化し続ける私の力を、とくと見るがいい。『破壊する者』が吐き出した炎が私に襲いかかる。私は横に滑り込んでそれから華麗に身をかわす。ふふん、かわり映えのしない攻撃方法だな。全く進歩していない。所詮お前はゲームのプログラムに過ぎないのだ。『破壊する者』が雄叫びを上げると同時に、地面から鉱石の結晶がにょきにょきと突き出てくる。な、なに? 私は剣の先から稲妻を繰り出して、それを破壊する。こいつ、こんな攻撃してきたっけ? 最近アップデートあったのかな? 『破壊する者』が鋼鉄のような尾を振り回して私を襲う。私はそれを避けきれずに、倒されてしまった。ゲームオーバー。くっそ、またやられた! 私はリセットボタンを押す。次こそ勝ってみせるぞ! 敗北の度に、私は一歩ずつ勝利へと近づくのだ。たかがゲームだ。相手の攻撃パターンを覚えれば、必ず勝てるんだ。
気がついたら、泥や砂つぶで薄汚れていた窓ガラス越しに、街灯の明かりが差していた。結局ゲームオーバーを繰り返しているうちに、夜になってしまっていたのだ。うーん、勝負はまた明日に持ち越しだな。覚悟して待っているがいい、破壊する者よ。ビリギャルだって、慶應に受かればインテリ! 勝負は最後までわからないのだ。
晩御飯を食べて、お風呂に入り、窓ガラスを簡単に拭き掃除すると、今日はもう早めにベッドに入ることにした。そういえば、今日は椎香から、何も連絡がなかった。さすがにライブが終わった次の日なので、彼女も思いっきり遊び歩いていたのだろうか? まあ、それでもあの椎香のことだ。すぐにまた、次のライブに向けて合宿だ! とか言って、みんなを集合させることだろう。明日にでも、きっと連絡してくるにちがいない。
ベッドの中で、私は考えた。当初の予定では、ライブを一度やったら、もう私はダンスをきっぱりと辞めようと思っていた。だけど……
昨日のダンスのことはあんまり覚えていなかった。失敗続きで、ボロボロだったような気がするけれど、よく思い出せなかった。それよりも、私は、とても楽しかったことを、鮮明に覚えている。ちょっとだけつらかったことなんかより、苦しかったことなんかより、その何倍も何十倍も嬉しかったことを、活き活きと思い出せる。
「よーし! もう一度、またみんなと一緒にライブやるんだ!」
そうひとりごちながら、私は瞼がだんだんと重たくなってくるのを感じていた。心地よい眠気がそっと私を包み、身体がその活動を休めようとしながらも、なぜか私の胸はちょっとドキドキしていた。
明日、椎香に言おう。
もう一度、踊ろうって。
私たち4人で手を取り合って、次こそ、絶対、最高のライブをやろうって。




