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ママみたいな小学生と、俺。  作者: 成瀬
第一部
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第八話 ハンバーグとオムライス

「なんてこった……」


 その日、俺に信じられないことが起こった。

 午前中だけで、契約が7件もとれてしまったのだ。

 訪問する家、訪問する家、全てが契約をしてくれたのである。


 こんなこと、この会社で働いてから初めてのことだった。

 さすがに上司も俺のことを褒めてくれる可能性が、少なからず存在する……かもしれない

 まあ、とはいえ、ノルマまでいっきに加速した。


 この調子で、午後も頑張ろう……

 そう思っていたところで、新調したスマートフォンに着信が入った。上司からだ。


「もしもし――契約なら、」

『一之瀬、すまないが、すぐに会社へ帰ってくれないか』

「? あ、はい」


 珍しく、神妙な声だった。

 いつもなら罵声か怒声かが入るのに。

 しかも、要件はそれだけ。


「何だか不気味だなぁ……」


 嫌な感じがするけど、上司の命令なら、帰らなければいけない。


 会社へと帰ってくると、早速奇妙な光景がそこにあった。

 パトカーが二台、駐車場に並んでいるのだ。


「なにがあったんです?」


 丁度、近くを通りかかったバイトのおばちゃんに尋ねてみた。


「何でも、泥棒に入られたんだって」

「ええ!? 本当ですか?」

「社長室の金庫から、一千万円が盗み出されたんだとか」


 一千万!?

 全然想像もつかない金額だ。

 一年は寝て暮らせるお金だなあ、くらいしか感想が出てこない。

 上司が帰ってこい、と言ったのは、このことか。


 売り上げが足りなくなって……ノルマとか増やされるのかな……上手くいってると思ったらこれだよ。……憂鬱だ。

 そんなことを思いながら、営業部の部屋へと入る。

 中では、社長と、警察官数名、そして、この会社の社員全てが集められていた。

 社長がこちらに気付き、ずんずんと歩いてくる。


「すいません、遅くなりました」


 ――あれ? なんだかどんどん早足になっているぞ。いや、駆けだしている。何で?


「うぉぉぉおまええええかあああ!!!!」


 獣のような咆哮をしながら、社長は俺に向かって――拳を突き出してくる……!?


「えっ……」


 咄嗟のことで、全く反応が出来なかった。

 社長が助走をつけて突き出された拳が、俺の右頬に綺麗に決まってしまった。

 俺はその勢いで突き飛ばされ、後頭部を強かに打ち付けられた。


「ちょっと、なにやってるんですか!?」


 慌てたように、警官が社長を取り押さえる。


「お前が! お前がとったんだろう! わしの一千万円!」

「え、ええ!?」


 後頭部と、殴られた頬っぺたが、しこたま痛い。

 そんな痛みを訴える暇もなく、俺は社長の言い分に反論した。


「そ、そんな馬鹿な! 取りませんよ!」


 俺は、助けを求めるべく、周囲に視線を配った。

 しかし、周囲の反応は思った以上に冷ややかだった。


「だって、なあ?」

「いつも最後に会社を出るのは一之瀬君だもの」

「そうそう。ずっと、一之瀬が会社に最後まで残ってるんだよな」

「怪しすぎるんだよ」


 そ、そんな。何で全員信じてくれないんだ。


「絶対返してもらうからな! どんなことをしても!」


 社長が顔を真っ赤にして、激昂している。


「ち、違います! 濡れ衣ですよ!」


 と俺がいくら説明しようとも、分かってくれない。


「一之瀬さん、とりあえず、署まで同行してください」


 警官が俺に手を差し伸べる。

 け、警官の人まで俺を疑ってるのか……?


「お、俺はやってませんよ! 絶対に!」

「いいから、そこらへんは署で聞きますので。とにかく、事情聴取をしないといけないんですよ」


 そう言われて、俺はパトカーに乗せられてしまった。


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