表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ママみたいな小学生と、俺。  作者: 成瀬
第一部
5/38

第五話 鍋焼きうどん


「どうしてこんなになるまで放っておいたんですか」


 結局、彼女は台所を二時間もかけてキレイにしてくれたのだ。


「その、色々、忙しくて……」

「全くお休みがないわけじゃないですよね?」

「休みは、ずっと眠ってるんだ」

「関係ありませんよ。ゴミの中で生活するなんて、考えられません。一之瀬さん、本当に大人なんですか?」


 ぐさり。

 返す言葉が全くなかった。

 彼女の呆れた顔を見るのは、今日一日だけで一体何回目だろう。

 俺は項垂れるしかできなかった。


「もういいです。これからは、ちゃんとしてくださいね」

「はい」

「特にごみは、ちゃんと分けてください。皆が迷惑するんですから」

「うん。わかった」

「……本当に分かってるんですか? まあ、いいですけど」


 美菜ちゃんは、じろりと俺の部屋を見る。


「――ここも、ちゃんと掃除してくださいね。さすがに、一之瀬さんの部屋まで掃除する気はないですから」

「ああ、うん。勿論」


 ここも台所に負けず劣らず汚かった。衣類が散乱し、雑誌や食べかすなんかが床にあちこち見えた。


「で、ちゃんと、これからは自炊してくださいね……今日は風邪をひいていますから、私が作ってあげましたけど」

「え? 本当に作ってくれたの?」

「さすがに病人に料理を作れとはいえませんよ。コンロに、調理済みの鍋がありますから。そこにうどんを入れて熱してくれれば完成します。鍋焼きうどんです」

「あ! お金、払わないと、おかゆとか……」

「いいです。いらないです」

「でも……」


 俺がベッドから起き上がろうとすると、彼女は、かるく、とん、と押してきた。それだけで俺はベッド

に再び倒れる。


「いいから! とにかく! 今日はそのうどんを食べて、ポカリ飲んで、あったかくして寝てください! ……分かりました?」

「はい」


 としか言いようがない彼女の勢いがあった。


「……それじゃあ、私は帰ります。さようなら。あ、お鍋は出来れば洗ってほしいですけど。無理なら別にいいので。明日、取りに来ます」

「うん……ありがとう。美菜ちゃん」


 その夜、俺は彼女に言われた通りに鍋焼きうどんを食べて、ポカリを飲んで、寝た。

 うとうとしながら、何で彼女はこんなに優しいのかを考える――


『要するに、お前のことを何でも認めてくれて、悪いことをしたら叱ってくれる人間が居ればいいんだろ』


 あのホームレスのおっさんの言葉が蘇ってくる。

 彼女が神様から遣わされたって?

 俺が母親が欲しいとか言ったから?

 まさか。

 だって、彼女は小学生だし。小学生に甘えたいとか……いやいや、さすがに俺も、そこまで堕ちていない。


「……こーいう発想が出てくること自体、おかしいんだ」


 外で挨拶をしたら、返してはくれるだろう。そういう関係にしか、なるわけがない。

 俺がこのおっさんの戯言を思い出すのは、それからずっと先のことだった。それまで、すっかり忘れていたのだ。それ位馬鹿馬鹿しいことだった。


 眠い。

 寝よう。

 いつものような、押しつぶされるように意識を失うようなことにはならなかった。

 なんだか、明日はいいことがおこりそうな……そんな気がしたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ