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村人A  作者: ヌー
第1章
2/3

村人Aは狩人A

見つけた。兎だ。よもや昨日逃がした、いや逃げた兎だろうか。きっとそうに違いない。自分からノコノコ現れるとは。


狙いをつけようと静かに息を吸う。そして止める。





早すぎた。もう少し近づく。


既にベスは近くの岩に腰掛け、本を読んでいる。視線はその本にしか向いてない。全く期待の欠片もない。当然逃がすと思い込んでるとしか思えない行為だ。


決定的瞬間を見ることが出来ないとはなんと哀れか。




少しづつ近づき射程距離圏内に入る。見事な忍び足だ。



弓を手に取り狙いをつける。相手は気づいていない。一発勝負だ。この緊張感が止められない。農業に一発勝負というか、こういう緊張感が無いのが残念で仕方ない。



引き絞り、息を止める。そして、矢を放つ。




矢は兎の遥か頭上をいった。



「昨日と同じじゃねぇか!」



後ろからクスクス笑い声が聞こえるが気にしない。振り向いてやるものか。次だ次。



その後も獲物を見つけては外しまくった。最初は弓が悪い、矢が悪いと思っていたが、日々改良しているうちに弓矢はまともな物に近づいていることに気がついた。腕が悪いことにしたくないので黙っておく。


少し休憩だ。焦っては何も産まれない。



ベス「今日はもう終わり?いつもより早いわね」



散々人の事を笑いやがって。許さん。あっと言わせたいものだ。マグレではなくしっかりと獲物を捕らえたところを見せてやりたい。



「まだまだこれからだよ。今日は調子がいいんだ。」



なんだその目は。呆れたようなその目をほぼ毎日見ている気がする。


持ってきた飲み物を飲んでいると何かが蠢いているのに気づいた。


近くに何かがいる気配はなかったのだが、確かにそこにいる。目を凝らして見てもまだ分からない。近づくとそれは青い丸みを帯びた生物だった。無論生きてきてそんな生き物は見たことがない。



その生き物はこちらを振り向いた。目と口しかないが確かに生きている。なんだこいつは。もしかするとあれこそが。




魔物




ベスにちらりと目をやるとまだ気がついていない。ここは一刻も早く逃げた方がいいのだろうか。しかし自分の膝下にも及ばない魔物なら何とかなるのではないかという淡い期待が目覚めた。


今日は1体も仕留めていない。だがあれを仕留めれば殊勲となるだろう。


弓を構えようとした時にその青い魔物はこちらに跳ねながら近づいてきた。なんだ可愛いじゃないか。ペットにしてやっても構わない。そう思えた。敵意も感じない。



と思いたかったがそいつは俺の腹に突撃してきた。



吹っ飛ぶ。腹部に体当たりでこんな、こんなに人間を軽々しく飛ばせるのか魔物とやらは。急所は外れていたが、痛みが走った。



ベス「アル!何その生き物…」



すぐに駆け寄ってきたベスに支えられながら立ち上がる。もう少し体を鍛えておくべきだった。畑を耕すのが億劫でいつも父親に任せていたがどうやらツケがまさかここで回ってくるとは。野菜に回ってこれば良かったのに。


一撃入れて満足してくれる様子もなくそいつはこちらをうかがっている。感じるのは敵意ではなくそれを超えた殺意だ。


何とかベスだけでも逃がさなくてはならない。何かあればベスの両親への申し訳なさでこの先潰れてしまいそうだ。


ベスへと逃げるよう仕草を送る。向こうへいけ、村に帰れ、と。こちらには弓もある。上手く躱しながらいけば時間は稼げるはずだ。


ベス「1人で逃げるなんて無理よ…。」


いつも気丈な癖にこういう時だけそういう顔をするのは卑怯だ。年下は好みではないと言っているのに。


「大丈夫だ。今日の俺は狩人だからな。」



恐れる気持ちを心に押さえつけて足の震えを感じさせないように努める。精一杯なのだから早く行ってほしい。



ベス「すぐ助けに来るから!」



泣きそうな顔で走っていく。俺も逃げたい。でもどちらも襲われるくらいなら俺が残った方がいいに決まっている。


魔物に向かって弓を構える。逃げてくれる気配はなくこちらに向かって放ってみろと言いたげな様子で目を離さない。



今日の俺は調子がいいんだ。



そう心に言い聞かせながら矢を放つ。



上手く弓を引けなかったために魔物の手前で矢は地面に刺さった。青い魔物はこちらの力量を測り終えた様で、また近づいてくる。殺意を持ったまま。



世の中上手くいかない事ばかりだ。今朝だってもう少し寝ていたかったし、朝からあんな仕事をしたくなどなかった。



ここで人生が終わる。そう感じると不思議と頭は冷静だった。



最後に思ったことは






年上の美人な女性と結婚したかった、それだけだ。


そして俺は腹部への衝撃と共に気を失った。














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