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第97話 黒田のスパイ


 「あなたのことはずっと前から知っていましたよ。彼女を通してね」


 黒田官兵衛はそう言うと、奥の襖から1人の女性が出てきた。その女性は俺がよく知っている人物であった。

 一度会った、いや一時期お世話になっていた人物だ。

 その人物というのは──


 「きく?」


 「お久しぶりですね。小田様」


 俺の目の前に現れたのは、俺が戦国時代に来た時にお世話になった村にいたきくだった。きくは村長の娘であった。その彼女がどうしてここにいるんだ。

 俺の頭にはすごい疑問があった。


 「私の父はあの村の村長になったのは実は最近なんですよ。その前に小寺家に仕えていました。その時から黒田様にはお世話になっていてその関係で東国の情勢を日々伝えていたんです」


 小寺家? 俺にはわからない話であった。でも、ようは黒田官兵衛と知り合いでその関係で東国の情報を伝えていたということなのだろう。そこだけは分かった。


 「小田先輩」


 「ん? どうした河合」


 「今の話どれぐらい理解しましたか?」


 ぎ、ギク


 俺は今の話の前半部分を理解していなかった。そのことを必死に隠していたはずなんだが、どうやらバレていたようだ。だが、俺は後輩にそのことを指摘されることにプライドが傷ついた。何とかして誤魔化しきる。


 「も、もちろん全部理解したよ」


 嘘だ。

 というか、自分でも思うが下手すぎだった。完全にばれているな。俺はそんなことを思った。


 「嘘ですね」


 「……」


 「……」


 「……」


 「……」


 俺と河合の間で沈黙の時間が続く。

 河合がまっすぐ俺を見つめている。いや、にらみつけているか。こ、怖い。怖すぎる。

 そして、ついに俺は圧力に屈した。


 「はい。理解していませんでした」


 「よろしい」


 俺、先輩なんだけど。

 今の言葉に対して俺はそう思ったが、今はぐっとこらえる。


 「小寺氏というのは黒田官兵衛が織田の家臣になる前に仕えていた播磨の大名だよ。大名というかその地域の領主みたいな存在だな。小寺政職こでら まさもとに黒田官兵衛は元々使えていて小寺家の娘ももらっていることから親族で会ったんだけど、織田家に付くかそれとも毛利家に付くか意見が割れた時、黒田官兵衛は織田家に小寺は毛利について小寺家は衰退しました。さっきの話ですが、小寺はまあまあの勢力だったのでその村長さんというのはある程度力のあった人物なのでしょうね」


 「ええ、その通りですよ。河合様。私の父は山脇六郎左衛門です」


 「え?」


 「え?」


 きくの言葉に河合と水上の2人がかなり驚いていた。

 ん? どうしてだ。


 「何で、2人ともそんなに驚いているんだ?」


 俺は2人がすごい驚いている理由が分からなかったので、理由を聞く。


 「ええ! 知らないんですかあ?」


 どこかのCMのような言い方であった。

 その言い方かなりいら立つな。だが、今はそんなことよりも2人が驚いた理由の方が気になる。


 「山脇六郎左衛門っていうのは、黒田官兵衛の暗殺された小寺家の家臣ですよ!」


 横に黒田官兵衛がいるというのに大声で水上が興奮しながら言った。

 俺は黒田官兵衛の方をそっと見る。しかし、本人は目を閉じたまま動いていなかった。

 ふぅ。


 「山脇六郎左衛門は、小寺家の中でも親織田派の家臣であったけど、それに反発した者から黒田官兵衛に暗殺しろという命令が下り、暗殺した。当時の黒田官兵衛は特に親織田派というわけでもなかったからすんなり暗殺しているんだ」


 河合が説明してくれた。

 その話によると山脇という人物は暗殺されてとっくに死んでいるはずだ。なのに、どうして生きているんだ。矛盾が起きている。それこそが2人が驚いた理由になるのだろう。

 このことについて知っているのは黒田官兵衛だけだ。

 俺ら3人は黒田官兵衛を見る。

 ずっと目をつむっていた黒田官兵衛はようやく目を開いた。


 「知りたいか」


 「ええ」


 「知りたいです」


 俺よりも2人の方がそのことについて興味があるようだ。

 かという俺もまったく興味がないという訳ではない。

 

 「わかった。では、語るとしよう。どうしてきくの父親山脇六郎左衛門が生きているのかを」


 黒田官兵衛は話を始めるのだった。


 次回は変則的に31日木曜日更新です。

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