第95話 計画への関与
俺は、柴田勝家との間であったことを話す。
佳奈美が柴田勝家によって無理やりスパイをさせられている。秀吉の動向を探るためのことを。
俺は河合と水上の2人に話す。
2人はしんみりと聞いていた。
もちろん、秀吉も横にいた。
秀吉に聞かれて問題のあることではない。佳奈美が秀吉のスパイをしていることを言ってもいいと思っていた。俺は彼女を助けたいという話をしているのでいまさら言っても問題がないと判断したからだ。
「……っていうことなんだ」
話を終える。
2人は黙っていた。
俺の話を聞いて少しの間沈黙がこの部屋を支配した。2人は何か考えているのだろうか。俺も神妙な空気になる。
「わかった。その話儂がのろう」
最初に話しを始めたのは豊臣秀吉だった。
「話に乗るってどういうことですか、秀吉様」
河合が言う。
「簡単だ。儂と勝家は今敵対している。どの道、勝家は儂の敵だ。そして、小田殿は勝家と敵対している。つまり、勝家は共通の敵である。共通の敵を倒すなら儂は喜んで協力しよう」
「きょ、共通の敵……」
俺は、その言葉を聞いて秀吉を頼もしくも思ったし、怖くも思った。この後、起きることが柴田勝家の滅亡した賤ヶ岳の戦いだということを俺は知っている。もちろん、一緒にいる水上と河合もそのことを知っている。
「小田殿も柴田勝家が憎いだろう? だったら、儂に力を貸してくれないか? 水上殿と河合殿が今うちの官兵衛と一緒になって軍略を立てているが、小田殿にも協力を仰ぎたい」
「そ、それは光栄ですが、俺には何もできない、ですよ」
「そんなことないですよ、先輩。先輩は近代史が強いので近代史での出来事をこの戦国時代で実現しましょうよ」
「そうですよ。軍略とか近代の方がもっと緻密じゃないですか? あと、政治も導入しちゃいましょうよ」
水上と河合の2人は俺にすごい期待をしている。
「お、おう」
だが、実は俺の専門は近代政治史だ。軍事にはそこまで詳しくはない。ボロがないぐらいに頑張ることが果たしてできるだろうか。いや、やるしかないのかもしれない。
「ま、任せてくれ」
後輩の前で無駄に虚栄を張りたいだめな先輩がここにいた。そう、俺のことである。
残念なことだ。だが、この虚栄を何とか最後まで突き通すことにしよう。
「では、小田殿よろしく頼むぞ」
こうして、俺は秀吉と共に佳奈美を救うためにも柴田勝家を倒す計画に関わることになってしまったのだ。
京に来て農民として活躍しようとしていた目標からまた離れてしまったのだった──




