第92話 騙された
「さっさと行くぞ」
柴田勝家との話し合いが終わった後、すぐさま京に向けて出発した。
まさかこんなにもすぐさま京に出発するとは思ってもいなかった。その行動の速さにかなり驚いていた。一般に言うような柴田勝家のイメージというのは決断力がない。そんなイメージを持っていたが、この行動は予想外であった。
「すごい行動が早いな」
「そうね。驚いたわ」
俺だけでなく佳奈美も驚いていた。
「ところで、佳奈美」
「ん? どうしたの忠志君」
「金森長近って誰?」
俺は、ずっと気になっていたことがある。
柴田勝家との話し合いをした時に俺達を案内してきた男がいた。彼の名前は金森長近であるそうだが、その名前に佳奈美は聞き覚えがあったようだ。俺は全く知らない。
そんなに有名な人物なのだろうか。そのことが気になっていた。
「え、ああね。金森長近は、飛騨高山の初代藩主で飛騨の国主よ。飛騨地方の鉱山に目をつけて発展させた人物よ」
「なるほどな。そんな人物だったのか」
俺は、佳奈美の話を聞いて金森長近が後の藩主であることを知った。藩主つまりは大名ということは戦もそして政治も上手だということだ。
……まあ、今のところ俺らへの態度を見る限りそんなことを感じられないんだが。
「さて、京へ行きましょう」
そう言って俺らは京へ向かった。
今日は、清須会議が終わってから2週間後らしい。
「さっさと行くぞ」
柴田勝家は、とても雑であった。
「おらおら」
柴田勝家だけじゃなかった。彼の部下もみんな雑だった。雑というか俺達を完全に見下しているようだった。
京へ行くまでの我慢だ。
本当に。
「京へ行くまでこんな感じなのかずっと」
「そうなるね」
俺は、京へ行く旅について不安がよぎった。
しかし、不安などすぐにどうにかなった。
清須から京はそんなに遠くはなかった。1週間ほどで俺達は無事に京に着いたのであった。
俺はようやく京について野菜の情報を手に入れることができる。佳奈美も京でいろいろな武将に会うことができる。どっちにとってもメリットだ。すばらしい。
「京に着いたぞ。さあ、約束を果たしてもらおう」
京に着くと柴田勝家が急にこんなことを言ってきた。
約束? 一体何のことだ。俺にはまったく分からないぞ。滝川一益の情報を与えるということだろうか。それならばこの旅の途中に何度も教えた。それなのにこれ以上何を教えればいいんだ。
「約束って何だよ?」
「……私が秀吉のスパイをすればいいんでしょ」
「え?」
そんな話まったく聞いてもいなかった。
「忠志君、ごめんね。実は柴田勝家とこんな約束をしていたの。京へ連れて行く条件として秀吉側に付いている武将から情報を仕入れることが条件だったの。京に行けば秀吉側の武将なんて何人もいるでしょ」
佳奈美は素直に柴田勝家としていた約束をする。
どうしてだ。どうしてそんな約束を勝手にしたんだ。
俺は佳奈美に対して怒鳴ろうとする。
「どうして! どうしてそんな約束を」
「私にはこのやり方しかなかったの。ごめんね」
「だったら、俺も一緒に秀吉側の武将と話をするから」
俺は佳奈美1人に押し付けたくはなかったので一緒にすると話す。
「それはありがたいけど……忠志君、この時代のこと詳しくはないでしょ。うまくできないかもよ」
「それでも、佳奈美1人に押し付けたくないんだ」
「そう、ありがとね」
佳奈美は感謝の言葉を言う。
だが、俺らの話に割り込むやつがいた。
「約束はその女とだけだ。お前が関わることは許さない」
柴田勝家だ。
「いいだろ! ぐちぐちうるせえぞ!」
俺は怒りのあまり柴田勝家を怒鳴りつける。俺の怒りは人生で最も大きいレベルのものだった。
「貴様、御屋形樣に何てことを言うんだ!」
「そうだそうだ!」
「やっちまえ!」
俺の言葉に柴田勝家の家来が怒り、俺に対して暴力をふるってくる。
「い、痛て」
暴力反対!
ふざけんなよ。
武力しかとりえのない奴らめ。
俺は暴力を振るわれている中でも武士に対する怒りが増大する一方であった。
「こいつのことは任せた。歌川。行くぞ」
「……はい」
「おい、待てや!」
俺のことなど放置して柴田勝家は佳奈美を連れて行った。佳奈美は、何か言いたそうな感じであったが素直に応じて付いて行った。
「おいっ! ふっざけんなよ! おい、待ってや! 待てや!」
俺は怒鳴る。
しかし、まったくもって言うことを聞かない。
俺は武士らを振り払おうとするも力で無理やり押さえつけられる。
俺は、そのあとどれぐらいの時間だろうかずっと武士になぐられ、蹴られ、そして京の町の外へとぽいっと捨てられたのだった。
ちなみにですが、あえて正確な日にちは設定していません。
細かくやりすぎると史料を読み込み、それに合わせて武将を配置しないといけないからです。ある程度自由幅をきかせたオリジナルストーリーだと思ってください。
次回は、12日18時です。




