第90話 柴田勝家との話し合い1
ついに柴田勝家と対面する時がやってきた。
かなり緊張する。
佳奈美も緊張していた。
柴田勝家は俺でも知っている。まあ、日本史が専門であるから戦国時代の知識に疎い俺でも教科書に出てくる人物であるのできちんと覚えている。
「こっちだ」
柴田勝家の家臣らしき人物に乱暴に案内される。
「乱暴だな」
俺は、ついムカついて言葉に出してしまう。
「いいから、こっちにこい」
その言葉を聞き、武士も怒ったのかますます雑になる。そもそも俺の方がムカつく態度をされたのにどうしてそっちが逆ギレするんだか。いい加減にしてもらいたい。表情には今出ているかもしれないが、今回は言葉としては言わないでおく。これ以上、面倒くさいことになりたくないからだ。
「……」
「今度は我慢したんだね」
佳奈美が俺に言ってくる。
「俺だって我慢する時はするさ」
「ふふふ、そうだね」
なぜだか分からないが佳奈美に笑われた。俺は何かおかしなことを言ったか? 変なことを言ったつもりは全くないんだが。まったく、不思議だ。
「この部屋で待っていろ」
武士は俺達をある部屋に案内しそこまで待っているように言う。
「わかった」
俺は素直に言うことを聞く。
「この部屋、監視されていないか?」
俺は、佳奈美に言う。
「まあ、されているんじゃない? 柴田勝家もいきなり滝川一益側についている人間がやってくる。そんなことあったら普通は疑うじゃない? どんなことを考えているのだろうかって」
「まあ、そうだな。俺達が滝川一益のスパイであると思われても仕方ないか」
俺と佳奈美は監視が入っていること前提で今の状況について話し合う。話し合う内容については柴田勝家側に聞かれても問題がないことばかりだ。こそこそ話もしない。それをすれば絶対に怪しまれるからだ。今の俺達がすることは柴田勝家の信頼を得ることだ。
「そうだよ」
俺達は、スパイではない。
そのことをわかってもらえるため、いろいろな雑談をする。
柴田勝家に京に連れて行ってもらいたい。そのことも俺達は話題にする。俺達の目的は京に行くことだ。それを伝わるように話をする。
「おい」
俺達が話に夢中になって盛り上がってきたところ先ほどのムカつく武士がやってきた。相変らず態度が偉そうでムカつく。
「何だよ」
「柴田様がお会いになってもいいよとおっしゃっている」
そう言って、その武士は俺達を本当の柴田勝家のいる場所に案内する。本当のというと先ほどまで偽物がいたみたいな言い方になるが、別に誰にも会っていない。誰もいない部屋にただ案内されただけであった。
俺達が次に案内された部屋は2個横の部屋であった。
「柴田様、入ります」
「おう、いいぞ」
そう言って、俺達は部屋に入る。
「し、失礼します」
「失礼します」
俺達は、頭を下げ部屋の中に入る。
「お前たちが、俺に会いたいと言っている者か」
堂々とした男がいた。
毛むくじゃらでひげが長い。山男と言ってもいいような顔をしている。いかつい。目の圧が強い。野性の男だ。
何だかイメージしていた柴田勝家その人だった。
「俺が柴田勝家だ。さあ、俺に何の話があるのかしてみろ」
柴田勝家との話し合いが今始まろうとしていた。




