表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/105

第8話 娘

 村民が密集していた集会所をどうにか抜ける。


 「はあ!」


 息ができなかった。あれだ。これはきっと酸欠なんだろう。大勢の人ごみの中を歩くと酸欠になってしまうのか。初めて知ったわ。きっと元の世界のコ〇ケとかも大勢の人ごみの中を歩き回るから酸欠で倒れる人がたくさんいたんだろうね……はい、きっとそんなことないですよね。俺がただ単に体力がないだけなんだよな。

 っていうのはどうでもいい話だ。今はそんなことを考えたりしている場合じゃない。商人に会わなくてはいけないんだ。

 酸欠で意識が少しもうろうとする。頭が痛い。

 これほどつらいのか。よく部活とかでスポーツをやっている人は生きていられるな。あと、世の中のサラリーマン。あんな真夏の密集している満員電車で毎日通学・通勤とか人間業じゃないわ。

 いろいろと他の人に対して尊敬の念がなぜか生まれていたが、それはきっと酸欠で頭がおかしいからだ。うん、そうに違いない。

 俺は、ゾンビのように歩いて少し離れた建屋にいるらしい商人の元へと向かう。ゾンビのようなので手は前に出し体勢は低くなっている。もちろん顔は下を向いている。前なんかまったく向いていなかった。どうせ人がそんなにいないのだからどうでもいいだろう。そう思っていたのだ。しかし、そんな考えは実に甘かった。


 むにゅ


 「ん?」


 なんか柔らかいものに手が当たったぞ。

 何だろこのやわらかいもの。

 俺はその柔らかいものをもう少し触ってみる。


 むにゅむにゅ


 柔らかい。何だろう本当にこれ。柔らかくて気持ちいい。少し人のようなぬくもりが……って人!

 俺は顔をあげてみる。

 すると、そこで見たものは目の前に女の人がいた。年齢は俺よりも少し上ぐらいの人だろう。戦国時代の日本人ということもあり黒髪で後ろの髪は1つに縛っている。いわゆるポニーテールってやつだ。でも、確か女の人の髪って切って売れば高くなるはずだ。つまりそのためにこの髪を伸ばしているのだとすれはもう少ししたら切っちゃうと思うともったいない。服装はマツと同じように麻でできた服であった。

 そして、かわいい。とてもきれいな人であって。

 ん? そんなことはどうでもいいよな。そう、俺が先ほどから感じていた感触が何であったのか知りたいはずだよな。

 俺も知りたい。

 恐る恐る何となく嫌な気がした。目線を徐々に下げていく。顔から首、首から胸に……胸に。

 俺の右手はどうも胸を触っていたようだ。いや、触っていたどころではない。揉んでいたのだ。人生初の女性の胸を触っていや、揉んでしまった。とてもラッキースケベな展開だ。これはうれしい……なんて思っていられるのは第三者だけだ。本人からしてみれば全く知らない男にいきなり胸を触られている。とても嫌な展開だ。

 また恐る恐る顔をあげていく。胸から首、首から顔。

 その女性の顔色は特に変わったところはなかった。


 「あ、あのすみません」


 「あなたはこの村の人ではありませんね」


 謝ってみた。とりあえずそれが優先すべきことだと思ったから。しかし、帰ってきた返事は俺がこの村の人ではないということだ。

 えっと、俺が胸を触っていたことについてはスルーなのですか。ラッキーなのか、それともこの時代の人にとってそれほど貞操観というものがなかったのか、はたまた胸を触るという行為がなかったのかわからないが俺はどうやら助かったらしい。

 そこで話を彼女の方に合わせることにする。


 「ええ、先ほど村長さんに連れてきてもらいました。小田忠志と言います。よろしく」


 俺はきちんと自分がこの村の人ではないということを伝える。彼女は俺の言葉を聞くとどうやら納得したようだ。

 意外と排他的な人ではないようだ。俺がよそ者だと知って襲ってくるのだとつい思ってしまった。

 そして、彼女も律儀に自己紹介をする。


 「私の名前はきくです。父はこの村の村長です」


 どうやら彼女は村長の娘だったようだ。

 どうしよう。もし、娘に手を出したなんて知られたら怒られるんじゃ。それだけじゃなくって殺されるかも。いや、胸だけだから村からの追放になるだけかも。

 いろいろと俺の頭の中に不安が宿ってきた。

 きくにさっきのことをもう一度謝ろうと思ったが、俺が考え事をしている一瞬のうちにどっかに言ってしまった。

 え、ええっと。これってどうすればいいんだ。

 悩み事を抱えながら仕方なく例の商人を探すことにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ