表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/105

第72話 少女を追え

 湖の方でバシャバシャと水の音がした。

 明らかに人が水をいじった音であった。

 俺らは湖に向かって走った。向かった。


 「はぁはぁはぁ」


 湖まで全力で走ったのでつらかった。はぁはぁ呼吸をする。


 「そこにいる人よ!」


 俺は息が整っていないで声を出したので何も考えていないあほくさいセリフが出てしまった。


 「そこにいる人よ、って何よ」


 佳奈美が冷静にツッコミを入れている。

 いいだろよ。

 俺だっておかしいということぐらい百も承知なのだから。


 「!?」


 俺らの声に驚いたのは女の子だった。少女だ。

 だが、少女と言ったが、年齢は俺らと同じぐらいだろう。この時代の人は身長が現代いまの人よりもさらに低いから何とも言えない。年齢がよくわからないぜ。

 その少女は俺らの声に気づくと水を取りに来ていたのかすくっていた水を捨ててそのまま逃げだそうとする。


 「あっ! ちょ、ちょっと待って!」


 俺は声をかけるも少女はどんどんと遠くへ行ってしまう。


 「忠志君、追いかけるよ」


 佳奈美は俺よりも先に走り出した。


 「ま、待って俺も追いかける」


 その後に俺も少女を、佳奈美を追いかけ始める。


 「ま、待って」


 「はぁはぁはぁ」


 俺らが待ってと少女に声をかけるも少女は俺らを避けるかのように一切見向きもせず逃げていく。

 足もかなり速い。

 俺らからどうして逃げようとしているのだろうか。

 気になることがいくつかあるがとにかく追いつかないと始まらない。あの子を何としても捕まえなくては。


 「待って」


 いくら待ってと言っても少女は止まらなかった。

 やがて、湖の端に小さな家の姿を確認することができた。

 少女はその家にそのまま逃げ込むようにして入って行った。

 俺らはその様子を見ると家の前までは行ったが、中にいきなり入ろうとはしなかった。冷静になった。


 「この中に人がいるのは確実だ」


 「そうだね。あの女の子がいるのは間違いない。だけど、あの女の子の父親が武士だった場合私達は刀で切り殺されてここで人生を終えてしまう可能性がある」


 佳奈美に言われたことは俺も考えていた。

 俺らが冷静になって家の前に立ち止まったのはそのことへの警戒だった。このまま家の中に入って行って無様に斬られ人生を終わりにしたくはない。

 ここは一段様子を見るという意味で冷静になりこの家の様子を探ることにする。

 窓がある。

 窓といっても空気を通すために開いているだけのものだから窓という言い方が正しいのかどうかは分からない。俺らはそれで中の様子を見る。

 中には少女、そしてやはり武士らしき父親の姿が見えた。


 「父上、外で私の姿を見られてしまいました」


 「何? それは真か。ならば斬り殺すしかない。私達の姿を見られた以上はただでは帰さない」


 ごくり


 中ではかなり俺らにとってはヤバイ話がなされていた。

 このままだと俺らは殺されてしまうようだ。

 どうしよう。どうすればいいんだ。


 「佳奈美、どうしよう?」


 俺は佳奈美に聞く。


 「どうするって、そんなの決まっているでしょ」


 俺は逃げるものだと思っていた。

 てっきり佳奈美はそのように言うと思っていた。

 しかし、佳奈美の返答、いや行動は俺が想定したものとは異なっていた。


 「行くよ」


 「へっ?」


 間抜けな声を出してしまった。

 佳奈美は家の中に突入した。


 「ちょ、ちょっと待って」


 佳奈美、それは自殺行為だ。

 そう言おうとするも遅かった。

 俺は言葉より先に行動をとる。

 佳奈美を追って家の中に入る。


 「ほお、まさか敵の方からのこのこ来るとは思ってもいなかったぜ」


 少女の父親らしき武士は俺らに向けて殺気を放つ。

 刀をしっかりと手に握っていた。

 あれで攻撃されたら俺らの命はここで終わりだ。

 佳奈美。どうしてお前はわざわざ家の中に入ったんだ。その行動の狙いがよくわからない。俺には理解することができないぞ。

 俺は足が震えていた。

 殺される。

 それを思ってしまった以上足が震えて動くことができなくなってしまっていた。

 佳奈美は俺とは異なり堂々としていた。

 不思議と。

 なぜだ。

 佳奈美は武士に向けて言葉を放つ。


 「なるほどね。あなたが私達のお目当ての人物だね。ねえ、あなた諏訪頼忠でしょ?」


 佳奈美の核心をついた言葉が家の中に響いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ