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第69話 弓削重蔵

 忠志と佳奈美の2人が野菜探しもといイチャイチャしたデートをしていた頃のこと。


 「滝川殿、諏訪氏の再興についてお願いしたく来ました」


 俺、野村竜也は忠志と歌川の2人とは別行動をとっていた。

 諏訪氏を再興させ滝川の影響下に入れることを提案していたのだ。


 「諏訪? ああ、いたな。そんな武家が」


 「諏訪氏はこの諏訪地域における神官と武家を兼ね備えた特別な存在。信長様の行った甲州征伐の際に諏訪大社と当時の諏訪氏の当主親子を処刑してしまいましたが、諏訪大社という神社はこの地域ではかなり大きな影響力を持つ神社です。ですので、滝川殿の力を増すためにも諏訪氏を再興させ恩を売ることはかなり大きいかと」


 俺は、滝川一益に諏訪氏の再興がいかに利益になるのか語る。

 最初、滝川一益の表情は苦かったが、俺が熱く諏訪氏再興の意義を説いているうちに表情が徐々に変わって行った。

 だが、まだ悩んでいるようには思えた。


 「うーん。しかし……」


 滝川一益が何を悩んでいるのか。その理由は、何となくだが俺にはわかっていた。


 「もしや、この諏訪郡の領主である河尻殿、そしてその代官である弓削殿への遠慮でしょうか?」


 「そうだ。ここはすでに織田家の所領。河尻肥前守が甲斐の国主と同時に封じられた地である。だから、この地の旧主を再興させることにはすんなりと容認することはできぬ」


 河尻肥前守。すなわち河尻秀隆のことである。甲州征伐の折に甲斐国主と諏訪郡を拝領した武士である。ただ、正史ではこの後旧武田家の遺臣らによって一揆をおこされ自害している。その背後にいたのは徳川家康ともいわれている。

 弓削殿。弓削重蔵。諏訪郡を同時に拝領した河尻であったが甲斐の方が重要であったのか諏訪には代官を派遣するだけで自ら統治した形跡は残っていない。弓削はこの後諏訪氏が再興をかけ反乱を起こした時に打ち取られている。


 「ならば、河尻殿に話しをしましょう。この諏訪は代官を派遣しているはずなので直接統治していない諏訪は甲斐国主という地位に比べては安いはずです」


 「……武士がそうやすやすと土地を手放すとは思えないんだが……」


 「そこは言葉で巧に説得していかなくては」


 こうしてとりあえず滝川一益の説得を渋々であったがどうにかできた。

 次はここの代官である弓削重蔵の説得となった。


 「菊川」


 「何です?」


 「諏訪の代官はどこにいるか知っているか?」


 「諏訪大社のふもとではないかと」


 「ここから諏訪大社ってまあまあな距離があったよな」


 「そうですな。なら、向こうを呼んでしまいましょう」


 「それはそうだが。それでも向こうが来るには結構な距離があるはずだぞ」


 「それなら問題はないかと」


 「ん?」


 俺は菊川の言っている意味が分からなかった。

 問題がないとはどういうことなのか。

 しかし、すぐに理由は分かった。


 「殿、高島城より弓削殿が殿に拝謁したいと申し出てこられました」


 「ん。中に通せ」


 弓削重蔵がここに来ることをどうやら菊川は知っていたようで問題がないと言ったようだ。

 そういえば、高島城の城代でもあったなと俺は弓削重蔵について思い出す。しかし、弓削重蔵の史料というのはあまりにも残っていないからどんな人物なのだろうか。


 「失礼いたしまする」


 1人の男が入ってきた。

 かなりガタイのいい男であった。

 声もかなり低い。

 いかつい人物だという印象だ。

 そして、話の流れからして考えられることは彼が弓削重蔵だろう。


 「高島城代弓削だ。滝川左近将監殿はこちらに御座りますか?」


 「滝川左近将監だ。本来ならば河尻肥前守に伝え申したいことであるが、至急の用のため弓削殿に参内してもらった次第である」


 「ほお、至急のようでございますか」


 弓削重蔵はふざけたかのような返事をする。

 とぼけているのか。

 この男実は賢いのか。

 俺は、この人物についての情報をほとんど知らないため推測をする。

 この男の表情を見る。

 いかつい顔だという印象だった。しかし、いかついイコール頭が悪いということはない。なので、この男がどんな人物であるのかしっかりと観察する。


 「諏訪殿のことはご存知か」


 滝川一益は、単刀直入に諏訪氏のことを言う。いや、諏訪氏の復活について聞くのであるからまだ単刀直入はしていない。

 言葉の使い方がおかしかった。


 「諏訪殿……とは、諏訪越中守殿のことだろうか? 彼は息子ともども処刑されたはずでは?」


 諏訪越中守─諏訪頼豊のことだ。

 織田信長の甲州征伐の際に諏訪氏を攻撃し処刑された諏訪氏当主の名前である。


 「ええ、その諏訪氏です。確か、越中守殿には弟がいたはずだ。その弟を諏訪氏の当主として迎え再興させたいのだが、協力してもらえるだろうか?」


 「……それは、せっかく諏訪を滅ぼした我々に敵対するということであるか?」


 弓削重蔵はそう簡単にうんとは言わなかった。

 やはり、難しいのか。

 この作戦は。


 「まあ、そうなるな。だからこそ、きちんと話をした次第だ。なに、河尻肥前守にもこの話を伝えるがいい」


 「……わかりました。が、1つだけ言わせていただきます。諏訪氏は諏訪大社の神官も兼ねていました。しかし、その諏訪大社も信長様の攻撃により焼失。そのため、諏訪氏はそのまま行方知らずとなっています。そうとわかって諏訪氏を再興させるつもりなのですか?」


 「……忠告は聞き入れておく」


 「ふん」


 弓削重蔵は、そう言ってそのまま帰って行った。

 ……再興させようと考えていたはずの人物がいないってどういうことだ?

 もしかしてこの策って心配だったのだろうか。

 ここにきて俺の考えた策が暗礁に乗り上げてしまったのだった。

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