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第55話 出発


 京へ行く日がいよいよやってきた。

 厩橋城の城下には滝川一益を始め滝川軍の武士が多く集まっていた。

 

 「意外と大人数で行くんだな」


 「ああ、滝川殿からしても一大事だからな。これからの天下の情勢を見極めるためにも動いているんじゃないか?」


 本当にそうだろうか。

 竜也の言葉を聞いてもあんまりピンと来ていなかった。


 「そういうもんか?」


 「きっと考えているに違いないさ」


 「うーん」


 なんか、俺は納得しなかったが竜也が言うからまあそうなんだろうと自分を無理やり納得させてみた。


 「まあまあ、この時代の人たちの考えていることは現代に生きている私達とは違ったものだからあんまり深刻に考えてもダメだよ。小田君。だから、野村君の言うとおりにしておきましょう」


 佳奈美にも言われてしまった。


 「まあ、佳奈美が言うなら……」


 「貴殿らが小田殿に歌川殿に野村殿か」


 「ええ」


 「そうですけど」


 俺ら3人の会話に1人の武士が入り込んできた。


 「拙者は菊川安房。滝川様の家臣です。あなた達の警護を任せられました」


 「それはそれはどうもありがとうございます」


 佳奈美が丁寧にお礼をする。

 菊川と名乗った武士は優男というイメージであった。屈強な男というイメージを持てるような体つきは少なくともしていなかった。


 「菊川安房、知っているか?」


 「いや、そんな武士俺は知らない。おそらく足軽とかそのレベルの武士だろう。後世の歴史にまで伝わることのなかった武士もこの時代には生きている。その武士を見ることができて俺はある意味感動している」


 「へえ」


 菊川安房という人物について竜也は知らないようだ。歴史、歴史学というのは文字情報によって残ったものを根拠に説を立てていく学問である。当時の史料に残ることのなければ一生日の目に当たることはない。菊川安房という人物は後世の俺らの時代に伝わることなかった武士だということだ。しかし、残らなくてもその人は確実に生きていた。そんな人物が歴史上にいたということを俺は改めて思い出させられる。

 歴史を研究するというのはこういうことだったということを。


 「それでは行きましょうか」


 滝川一益らが京へ進みだしたことに続いて俺らも菊川の言葉で動き始める。俺らは特に立場のある武士という訳でもないので歩いて進む。現代人の俺らからしてみると京まで400キロぐらい? ある道を歩いて全部進むっているのはかなりハードな所業だ。本当に京までたどり着けるのかちょっと怪しく思う。でも、俺らは行くともう行ってしまった以上歩いて進むしかないんだ。自分を励まして進むしかない。


 「しかし、これ何日ぐらいかかるのか?」


 「うーん。この時代に中山道は整備されていないからな。でも、そのルートでおそらく行くはずだからそれなりにはかかるだろう。遠江は混乱しているから通らない方がいいだろう」


 「遠江が混乱している? それってどういう意味?」


 俺は、竜也の言っていることが分からなかったので聞いてみる。


 「遠江がまずどこの県だっていうことは分かるか?」


 「それぐらいなら静岡の西部だろう。静岡県は遠江国とおとうみのくに伊豆国いずのくにの2つから構成されていることぐらい知っているさ」


 「じゃあ、そこの戦国大名は誰だった?」


 「今川義元。さすがに戦国に疎くてもこれは小学校の知識だ」


 「そうだ。今川義元が桶狭間の戦いで織田信長に敗れてからも今川氏は氏真が当主となり遠江を治めていたんだが、家臣が今川家を見限り織田、徳河へと寝返ったんだ。その結果、徳川の領地になると思いきや、東の北條、北の武田も遠江を狙った。だから、遠江が混乱したんだ。武田が滅びて北からの影響が減ったとはいえ遠江はまだ混乱している。井伊家が大変だったのはそういうこともあるんだ。大河で見ただろ」


 「まあ、ちょっとね」


 大河はほんのちょっとしか見ていないため内容はうろ覚えどころのレベルではない。だが、少しだけでも見た部分の内容はしっかりと覚えている。遠江が混乱しているあたりの話はしっかりと覚えている関係でちょっと背後関係については詳しくなれた。助かった。


 「だから、信濃、そして美濃のルートで行くことになるだろう。信濃も少し危険であるが武蔵は北条領で完全に敵の地だからここを通るわけにはいかない。木曽とかに人質を出させたり、出したりして安全に通るしか方法はないのかもしれんな」


 「そ、そうなのか」


 「まあ、野村君の言うとおりだから。忠志君がちょっと困っているよ。野村君ももう少し背景について教えてあげればいいのに」


 「これぐらいの内容でちょうどいい気がするけど……」


 「はいはい。これぐらいでいいですよ。佳奈美もありがとう」


 「そ、そんなことないよ」


 「はいはい。俺の前でイチャ付かないでくださいお二人さん」


 「「なっ」」


 俺と佳奈美は竜也にもてあそばれていた。

 いいじゃん。佳奈美は俺のことを心配してもっと詳しいことを教えてあげればという提案をしてくれたのだから。だから、イチャついているというわけでは決してないと思うんだが。竜也はどうしてイチャついていると解釈をするんだ。納得がいかないな。


 「納得いかん」


 「ははっ。まあまあ俺だって羨ましいと思う気持ちはあるんだ。リア充に対する。当てつけを少しぐらいしてもいいだろう」


 竜也が悪びれずに言う。

 何か、追及する気がうせてしまった。仕方ない。


 「まあ、いいや。それで今日はどこまで進むんだろうか?」


 「えぇっと」


 竜也が答えに困ったところに助け舟が来た。


 「本日は碓氷まで進行いたします」


 菊川が代わりに答えた。


 「碓氷か。妥当な場所だな」


 「そうだね。ここから先は山になるから碓氷近くがいいよね」


 碓氷は群馬と長野の県境の碓氷峠のことである。信越線のアプトがあったことで鉄道遺産となっているため有名な場所だ。


 「しかし、遅いと計画が変わりますので急いでくださいませ」


 菊川はそう言い俺らも足を速めた。


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