第51話 1つの食べ物
お待たせしました。ついに更新です。
「ある」
竜也は、自信満々に言ってきた。
「本当か? 俺らには農法には詳しくないぞ」
「同じく、私もあんまり知識ないよ」
俺と佳奈美は農業についてあんまり詳しくはなかった。
じゃあ、何で俺が農家になろうと思ったのか。それは、武士として生きるよりも生き残れる可能性が俺的には高いと思ったからだ。戦国の知識はないが、作物の知識の方が戦国の知識よりもあると判断したためだった。でも、意外と農業に挑戦してみるとその考えがとても甘いということを思い知らされた。
俺が、今やっている農業というのもこの時代の人に尋ねてそのやり方をしているだけであって、何も技術革新など起こせないでいた。
ああ、俺は愚かだった。
もっと、農業について詳しく現代で調べておくべきだったと今になってかなり反省していた。
じいちゃんにしっかり聞いておくべきだったなと思った。
じいちゃんは農家だったので、その見様見真似でここまで来てみたがうまくはいかないもんだなあ。
「俺らにはわからないから、竜也教えてくれないか? その方法というものを」
「うん、教えてほしいな」
俺と佳奈美は竜也の知恵を頼ることにした。
「あー、それはだな……」
「それは?」
「それはだな」
「それは?」
「それはだな……」
ん?
こいつどうしてこんなにためているんだ? まさか、何も実は意見などありませんでしたーっていうオチとかじゃないだろうな。俺は何となくだが心配になってきてしまった。佳奈美も俺と同じく竜也を怪しんでジト目で見ていた。
「なあ、竜也」
「野村君」
「「実は何も思い浮かんでいないんじゃないか?」」
ギクッ
うん。完全に漫画みたいな反応が竜也の方から返ってきた。
ああ、これは確信犯だ。
竜也に意見など何一つとしてなかった。
それをしっかりと今ここで確認をすることができた。ああ、竜也を頼ったのはミスだった。それがしっかりとわかった。
「おいおい、やめてくれよ。そんな目で見るのは。いや、お、俺だってもちろん考えがあるぞ。そうだ、こんにゃく芋、こんにゃく芋を育てよう!」
「確かにこんにゃく芋は群馬が全国シェアの92%で育てやすい環境にあるのは間違いないが……でも、問題ないか?」
「ええ、こんにゃく芋を育てるにしても種はどこにあるの? そもそもこんにゃくってカロリーが低くて健康食品で人気だけどこの時代の人だったらむしろダメじゃないの? カロリーがもっと必要だからこんにゃく芋は少し場違いな気がするけど」
竜也の意見に対して俺と佳奈美が文句を言う。
竜也は珍しく自分の意見に対してかなり文句を言われたことに腹を立てたのかムキになって返答してきた。
「いや、確かにこの時代の人に対するカロリーとかで考えるとこんにゃくはまずいかもしれないが、とにかく食糧確保の考えからいくとこんにゃくがこの群馬の地にふさわしいだろ」
竜也は、自信満々に俺達に対して反論してきた。
まあ、カロリーとか言ってもそもそもものを食べられなければカロリーを摂取することすらできないから少しでも摂取できるのであれば群馬ならでは食材として選択は正しいのか。
でも、こんにゃくってこの時代にあるのか?
俺はそれが一番の疑問だった。
農作をしていて気が付いたことが意外とこの時代の野菜って今食べている野菜の中でもないものとかあった。西欧と南蛮貿易をしていた時に来た野菜とか授業で習ったので育てられているかなあと思ったが、ここは群馬。いや、上野国。関東地方。戦国時代においては辺境といわれてもおかしくはないような地であったのでそんな最新の野菜などまったくもって入ってきていなかった。
ああ、それらの野菜を持ってくるというのも策としてはいいと思うんだけどな。滝川一益って織田家の家臣なんだから信長が南蛮貿易していた伝手をたどれるでしょ。そんなことを思うが、竜也があまりに自信満々なのであとにいうことにする。
「そもそも竜也、この時代にこんにゃくってあるの?」
「あー。それなら多分大丈夫だ。こんにゃくは確か奈良時代からあったはず。お坊さんの精進料理の一種として」
「よく知っているな」
「まあ、偶然調べたら見つかっただけだけどな。こんにゃくで小学校の頃自由研究してよかったぜ」
「こんにゃくの自由研究って何をしたのよ……」
俺もそれは気になる。
佳奈美は呆れた目で竜也を見ていた。
こいつのやることはよくわからない。まあ、小学校のころだからさらに何がしたいのかはわからないけど。
でも、まあこんにゃくを育てるのに障害がないことは分かった。
「で、芋の種はあるのか?」
農業をするにしても種がなければ意味がない。
確か、俺らはこのあたりでこんにゃくを育てていた人を見た記憶がない。つまり、群馬にはこんにゃくを育てている人がいない。つまり、種もないということじゃないか。
「でも、鎌倉時代からおやつとして食べられていたという史料は残っているからどこかにあるんじゃないか?」
「そんな適当な」
竜也が適当になった。
でも、鎌倉時代からおやつとして食べられているとなれば款冬でもありそうな気がするけど。
「あ、でも本当に一般的になったのは江戸時代だし、ないかもな」
やっぱり適当だった。
でも、こんにゃく芋は群馬だと育てやすいし探すってのは一つ手としてありそうだし、どうしたものか。
「ねえ、忠志君」
「ん? 佳奈美どうした?」
「こんにゃく芋なら精進料理として食べられていたりおやつになっていたというなら、京にはあるんじゃない?」
「まあ、京ならありそうだね」
「京に行こうよ」
「「へっ!?」」
佳奈美の突然の提案に俺だけでなく竜也も驚いたのであった。




