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第41話 国繁・妙印尼親子


 さて、由良の陣に着いた。

 本来の目的は由良家の当主である由良国繁と話をすることであった。そう、それが本来・・の目的であったのだ。しかし、今となっては目的がどうやら変わってしまったようだ。

 竜也がすべて悪い。

 竜也の行動に従っている俺達からすればそれは仕方のないことかもしれないが、やっぱり一つぐらい文句をつけたくなるだろ。まあ、文句を言いたいのであれば自分でやれと言われても仕方のないということはわかっているんだが。


 「さあ、早く会いに行くぞ」


 そんな俺と歌川の気持ちも知らずに一人竜也だけテンションが上がっている。

 呆れてしまった。

 竜也が今回に限っては自分勝手すぎるんだが……。まあ、仕方ない。俺達は竜也に付いて行くしかないのだから。


 「行くか、俺達も」


 「そうだね」


 俺と歌川も竜也の後に付いて由良の陣にへと入って行った。


 「すみません。妙印尼殿はどこにおられるかわかりますか?」


 竜也は、由良の陣の中にいた少し立派そうな甲胄を身に着けた一人の武士にそう問いかけた。


 「ああ、大方様ですね。大方様は殿と一緒に茶でも飲んでいますよ」


 「ありがとうございます」


 「でしたら、私が殿と大方様のところまで連れていきましょうか?」


 「いいですか! ありがとうございます。ちなみに私達は滝川左近将監殿の使者です」


 「そうですか。滝川殿の使者ですか。あ、私は由良家家臣由良掃部介(成高)です。殿、由良信濃守とはいとこ関係にある由良家一門衆の一人です」


 この男どうやら由良家の一門だったみたいだ。

 少し立派な甲胄と言ったが、それは由良家一門だからなのか。しかし、1つ気になったことはかなりのイケメンだった。この時代の武士って何、こんなに格好いい人いるの。それぐらいのイケメンだったとは言えよう。


 「か、格好いい」


 隣で乙女な表情をしている歌川がいたので俺の感性は間違ってはいない、はずだ。

 しかし、気に食わないな。

 ちょっと、嫉妬してしまった。歌川にそんな思いをさせるとは。格好いいイケメンは罪だぞ。おい。


 「野村竜也です。どうぞ、よろしく」


 竜也は軽く挨拶をするとそのまま由良掃部介かもんのすけに付いて陣の奥へと向かった。奥には緑で生えていた立派な一本の大木があり、その下で優雅にお茶を飲んでいる2人の男女がいた。一人は、30代半ばに見えるぐらいの男武士、そしてもう一人が結構年のいったおばあさんだった。

 おそらくこれまで得た情報から考えられることは男の方が由良家当主由良国繫、女の方が女傑妙印尼だといえる。

 俺達が2人に近づいていくと、2人は楽しくお茶を飲んでいたみたいだが、俺達に気が付いて表情を曇らせた。

 警戒でもしているのだろうか。


 「成高。その4人はどなたです?」


 「少なくとも由良家の中でのその者たちを見た記憶がないな。特に女だったら俺が顔を見忘れる自信はないが」


 「国繁。お前の女好きもいい加減にしなさい」


 「いえ、失礼しました。で、そなたらは?」


 「私達は滝川左近将監様の使者として参りました野村竜也です。隣の男が小田忠志、女が歌川佳奈美、そして最後の一人が弥介といいます。実は滝川殿より由良様方へお話があり参りました」


 「話だと」


 「国繁、話を聞くことにしましょう。おそらく私達に何らかの形で滝川殿は助力を求めているのでしょう。話を聞くのは悪いことではないと思いますよ」


 「そうですね、母上。では、話というのを聞かせてくれ」


 竜也が話をする。

 この戦で勝つには由良の力がどうしても必要だと。このままでは兵力的にも滝川は完全に負ける。上野の国衆達の力をまとめ上げないと北条に勝つことができないということ。

 もちろん、もし滝川が北条に負けたとなれば北条の魔の手は上野の国全般に及ぶことになるから今のうちに北条の勢いを削ぐためにもこの戦はかなり大事であるということを訴えた。

 竜也の熱のこもった弁はどれだけの時間続いたかわからないがかなり長かったとだけは言っておこう。それこそ中学校の卒業式などにおける校長先生の話ぐらい……このたとえわかりづらいか。まあ、でもそれぐらい長かったのだ。

 よくもまあそんな長い時間熱弁ふるうことができるなと思った。俺にはそんなことはできない。やっぱり竜也はすごい奴なんだなと改めても思った。


 「なろほど。そなたらの考えが分かった。しかし、こっちとてただで協力をするとは確約をすることができない。それはもちろんわかっているだろうな?」


 由良が俺達を脅すかのように条件を提示しようとしてきた。

 そりゃあ、無条件で俺達の話を受け入れてくれるわけはないだろうな。それぐらいの度胸を俺らも見せなければならない。

 でも、俺らは勝手に条件を決めていいのか。滝川一益の名代であるのでそのようなことをしてはいいとは思えないのだが。

 まあ、竜也よ。どうにかしてくれ。

 他人任せな俺であった。


 「わかりました。では、あなた方から預かっています人質について返還をします」


 「え!?」


 俺は、竜也のその言葉に驚いた。

 そんな大事なこと勝手に決めていいのか。しかも、人質だぞ。人質。人質と言えば戦国時代の戦略上かなり大事なものになるのではないのか。そんな大事なものを勝手に返しちゃっていいのか。


 「それは、我らの成姫を返すという言葉で嘘偽りはないのだな」


 「国繁。人質を返す話までするとはただ事ではないようじゃな。母としても成姫が帰ってくることはうれしいことです。なので、この話しっかりと受けましょう」


 妙印尼が竜也の言葉に頷いて話がまとまりそうな流れへと進んでいた。

 だが、やはり俺として不安なこととしては滝川一益の許可なくして勝手に人質を返還することをしていいのかということだ。そんな大事なことを勝手にやって後でもしも由良が反抗したらどうするのだろうか。竜也にはその責任を取ることが果たしてできるのだろうか。俺としてはそんなことができるとは全く思っていない。

 だから、こんなことをしていいのか不安が俺の頭の中に残っていた。

 俺と同じ不安を歌川も感じているだろうと俺は思って歌川の顔を見てみる。しかし、歌川は俺と違って不安そうな表情をしていなかった。どうしてだろうか。


 「歌川は竜也のやっていることの意味わかっているのか?」


 俺は聞いてみる。

 歌川は俺が心配そうな表情をしていることを察すると「ああー、なるほどね。小田君は知らないから心配しているんだー」と俺をからかうような発言をした。いや、さすがに神祐の心配ぐらいするよ。普段散々にいじられているとしてもな。

 

 「そうね。小田君は知らないからきちんと説明しておくけど史実においてこの神流川の戦いの直前に信長が死んだあと滝川一益は上野の国衆達にうそ偽りなく信長の死去のことを伝えるの。そして、その際に国衆達から預かっていた人質を返還しているの。それは、その後滝川一益に従っていく恩を作るためという政治的な狙いがあったとしても実際に滝川一益がやっている以上竜也もそれを真似したのだと思う」


 「そっか、史実においてやっているのであれば竜也がこの行動をとった理由も納得いくな」


 どうやら竜也はその史実を知っていたからこそ滝川一益から許可をもらわなくても認めてもらえるだろうという目論見でやったのだろう。

 それに、多分……


 「野村殿。殿からしっかりと許可をもらいましたぞ」


 弥介が知らないうちに消えていたと思ったらすぐさま戻ってきて竜也にそのように報告をしていた。やっぱり、弥介に事前にこのような話になると流れを踏んで頼んでいたな。

 俺は、竜也のその用意の周到さに驚いていた。


 「あと、妙印尼殿にお願いがあります」


 「はい?」


 「あなた様にはぜひとも軍を1つ指揮してもらいたいです」


 竜也はそれから妙印尼にまでお願いをした。

 その話を聞いて一番驚いたのは妙印尼……ではなくその息子である当主国繁だった。


 「どうして母を戦に出そうとするのだ! 戦で指揮をするのは当主である俺だ!」


 「信濃守殿。実は、私は思っているのです。妙印尼殿には相当な戦の才がある。その才を活用してもらいたいのです」


 この時点でまだ妙印尼は戦には出ていないみたいだ。

 さっきの戦国最強のババアの話を聞いた時にいつの話か聞いたがこれから2年後の話らしい。だから、まだ周りがこの人の才能について気づていなくても仕方のないことだ。


 「お願いします」


 竜也は妙印尼にお願いをしたのだった。

 果たして答えは──


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