第31話 告白し候
すみません。遅れました。ですが、いつもよりは長くなっております。
翌日。
今日は、6月13日ごろらしい。
らしいというのは、俺がほかの人から聞いた話で会って本当にこの日付が正しいのかどうかの判断ができないからだ。
この日にちの話を歌川と竜也に話してみた。
「今日は、6月13日? 少しゆとりがあるのね」
「それは油断できないぞ。なぜかわからないが、北条軍の本隊はいないが先遣隊はすでに俺らの対岸にいる。そのことを考えると戦の開戦が少し早まっているのかもしれない」
本来の神流川の戦いよりも流れが少し早いそうだ。
それは、歴史が少し変わってしまったということなのか。それとも俺らが歴史を変えようとすることを妨害するための帳尻なのか。まだ、戦が始まっていないので何とも言えない。ただ、ひとつだけ今の俺には文句を言いたいことがある。
よく考えてくれ。
俺にとって昨日1つ気に食わないことがあったのではないか。それは、告白がうやむやにされたことだ。誰かさんのせいで告白をすることができなかった。ああ、これも歴史の修正力なのか?
「はぁ~」
「どうした、ため息をついて」
「竜也に言われると腹が立つ」
「何の話だ……ああ、そのことか。それならすまんな」
「わかって言っているのか?」
「まあまあ、神流川の戦いが終われば好きにすればいいと思うぞ」
「戦いで死んだら終わりだと何とかお前言ってなかったっけ?」
「そうだな。俺らみたいな現代人がこの世界で生きるのは大変だ。だから、そうならないように気を付けていこう」
「ん? 2人とも最初の方の話はどういう意味だったの?」
そういえば、歌川もいたのだった。
最初の方の話の内容についてよくわかっていないようだったのでセーフかな。告白の前にバレてしまったらおしまいだからな。
でも、なぜか歌川の顔は赤かった。
口ではわかっていないと言いながら実はわかっていたりして……そんなことないか。うん、ないにきまっている。
俺は自分に言い聞かせるのだった。
「べ、別に何でもないよな、竜也」
「そうだな。何でもない……いや、歌川何の話をしていたのか聞きたいか?」
「あっ! こいつ」
俺は、とっさに竜也に裏切られたので怒ってこいつ呼ばわりをついしてしまった。
「気になるね」
歌川はもちろんのこと気になると答える。
このままだと竜也に俺が歌川に告白をしようとしていたという話を聞かれてしまう。
やばい、やばいぞ。
「まあ、気になるだろうけど。今回はお預けだ。俺達には時間的余裕がないからな。さっそく、動くことにするぞ」
「……けち」
「まあまあ、そんなこと言うな」
竜也はぎりぎりのところで黙ってくれた。それに関して歌川が文句を言ったが竜也の言い分は正しく俺達には時間的余裕というものが残されていないのは事実であったので反弄をすることができず、頬をぷくーと膨らませていた。
その姿は少し可愛かった……いやいや、無駄なことを考えるな。こんなやましい感情をしていたら絶対にバレる。特に、そこでにやにやと俺を見ている竜也とかに。
「そうだな。俺達には時間がない。今すぐにでも上野の国衆たちの説得に行かないと」
「ぶー。小田君もそうやって話を変えて」
「あはは、ごめんな。でも、時間がないのは事実だろ。よっしゃ! とりあえず誰から話しに行くんだ?」
俺は、やる気を出し上野の国衆の説得に今すぐにでも行こうと2人に声をかける。歌川は俺の態度というか空回りしているとも思っているだろうやるきに呆れていた。そして、竜也はそんな俺を止めた。
「まあ、待て。まず、話をする相手は上野の国衆ではない」
「じゃあ、誰なんだ?」
「滝川一益にだ」
「滝川一益に? どうして?」
「歌川。お前、滝川一益に自分が未来からやってきたこと伝えたか?」
「いえ、伝えてないわ。本能寺の変のことは、風のうわさで聞いた程度の情報通だという設定で通したから私の正体までには教えてない」
「そうな、やっぱりそうなると滝川一益に話をするのが一番だな」
「なんでだ?」
「こっちの事情をそろそろ伝えたほうがいいんじゃないかと思ってな」
「でも、この時代の人がその話をそう簡単に受け入れてくれるとは思わないんだけどな。現に、俺は村の人に神様だって崇められ……あっ!」
「どうしたの、急に叫んだりしちゃって」
俺が、急に叫んだので歌川が驚いた。
「いや、俺村人になる気で完全にいたのにどうしてこんな武士らしいことをしているんだと思ってさ。それにキクに行かないでって言われているのに……どうしたものか」
「へえー。そのキクって子のことが気になるんだぁ~。へえ~」
俺の言葉に対して急に歌川は冷たくなった。興味なさそうに冷たくあしらわれた。
どうしてか?
まさか、キクっていう女の子の名前を出してしまったことで嫉妬をしたのか? いや、それは俺が思っている妄想だ。そんなことがあるわけがない。
そもそも俺が好きなのは歌川だし、それに……
「……歌川、好きだ」
「え?」
「……え?」
最初の「え?」は、歌川の発した言葉だ。そして、次の「え?」は俺が発した言葉だ。何で、自分で言ったことなので自分が驚いているのかというと自分でも告白をするつもりは全くなくつい滑って言ってしまったからだ。
自分がまさかこんな場面で告白をするとは……やべえ、今すぐこの場から逃げ出したい。
「ふゅ~」
横にいた竜也が下手な口笛をしている。
いや、口笛をするぐらいでしたらこの場の空気を読み取ってさっさと退散をしてほしいものだが……ここにいてくれた方が、若干俺が落ち着くことができるということも考えるとまだいてもらえると嬉しい。
そこらのことを竜也はしっかりと考えているのだろうか。
「あ、そ、その、え、えぇっと」
俺は、何を言えばいいのかわからなくなってしまっていた。それは、歌川も同じだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙が続く。
嫌な沈黙だ。
その沈黙に耐えられなくなったのは、竜也であった。
「2人ともいい加減に素直になれよ。っていうか、俺は邪魔ものだから別の場所に行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
「何がだ? 小田」
「いや、そ、そのな」
「はっきりと言えよ。俺は、この告白劇を横で見ていられるほど寛容ではないんだ。はっきりとしろ。告白をしたのなら堂々としろ。これが現代であればべつに文句は言わないが、ここは戦国時代。俺達にはゆっくりと学校生活を送っていた日々のようにラブコメができないんだぞ」
竜也の言うとおりだ。
ここは、戦国時代。今俺達がやらないといけないことは神流川の戦いを滝川勝利で終わらせることだ。そのためならこんなことをしている暇はない。
だから……
「ごめん。歌川、変なこと言っちゃって。さあ、滝川一益のところへと行くか」
俺は、そう言って滝川一益のところへと向かおうとする。
すると、俺の服の袖を歌川に捕まれた。
「待って。私からも言いたいことがあるの。戦国時代でラブコメは確かにするほどの余裕があるとは限らないと思うの。でも、生きていられるかわからない世の中ということはつまり私の気持ちを伝えることができなくなっちゃうかもしれないということに繋がるかもしれない。だから、言うよ。私も好きよ、小田君」
俺達は、この時両思いであることを確認した。そして、付き合うことになった……今は事情が事情なので神流川の戦いが終わるまでは付き合うのは待とうということになった。
まずは、滝川一益のところだ。




