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第29話 神流川の戦いについて考えよう

 「俺達は神流川の戦いの結果をどうするかという話をしよう」


 「つまり、北条ではなく滝川が勝つという選択をするということか」


 「ああ、そういうことになる」


 「そんなこと簡単にできるの? 北条と滝川のこの戦いの勝因と敗因について竜也はわかっているの?」


 「歌川の疑問はわかる。この時代の戦の勝因、敗因について考えることは大事だ。でも、やはり神流川の戦いの主な勝因、敗因は数の差だと思う。一説に依ると北条軍は5万、滝川軍は2万だそうだ。3万の差というのはよほどのことがないと逆転は難しい」


 「5万対3万ねえ。滝川に勝ち目がないじゃないか」


 「小田君。まだあきらめるのは早いよ。戦国時代には数の差を奇襲攻撃によって逆転した例はいくつもあるのだから。例えば、織田信長の桶狭間の戦いのように」


 「まあ、そういうもんか」


 「だから、逆転の手段もある。この土地に詳しければの話だが……」


 「そういえば、ここって群馬でしょ? だったら神流川周辺ということは神流町とか藤岡市とかあの辺に詳しい奴おらんの?」


 「俺は、高崎市だけど神流川の周辺には住んでいなかったからちょっとわからんわ」


 「私は渋川市だからわからないわ。それにね小田君あなたも前橋市だから知らないと思うけど、それ以前に一つあなたは勘違いしているわよ」


 「勘違い?」


 「ああ、お前はここを群馬県と言ったな。神流川の戦いは実は群馬ではないんだぞ」


 「へ?」


 俺から間抜けな声が出た。


 「神流川の戦いは、この時代で言うと武蔵国つまりは現代でいうところの埼玉県の上里町付近の戦だよ」


 「上里ってあれか群馬出て最初のSAがある上里か?」


 「ええ、関越道で群馬を出て最初にある上里SAの上里よ」


 「な、何だと!?」


 俺は驚きを隠すことができなかった。

 ずっと神流川の戦いであると言っていたので戦いの舞台は群馬だと思っていた。しかし、この戦国時代に詳しい2人に聞いたところの依ると神流川の戦いの舞台は埼玉県だそうだ。上里は、群馬と埼玉の県境の町であるのでほぼ群馬であるといってもいいと言ったら埼玉県民や上里町民に怒られてしまうが、まあそんな認識を持っていたので仕方ない。


 「やはり、神流川の戦いの舞台を群馬だと思っていたか」


 「まあ、竜也君。埼玉の方が何かと戦で有名なものは多いしね。川越野戦とか有名どこだよね」


 「あー、あれな。あれも確か北条が関わっていたよな。大きな戦国大名がいる周辺はやはり戦が多いな。北条ってあんまり戦をしているイメージはないけど」


 「それは、北条が豊臣秀吉の小田原攻めの時に小田原城に籠城していたということからイメージしているんじゃない? 北条も関東一円を治めるまで5代にわたって領土を拡大してきているからその過程で戦があるのは当然でしょ」


 「まあ、確かにそうだな」


 「……2人とも戦国について詳しいから話が分かって進むのはいいが、戦国がほとんどわからない俺のこともしっかりと考えてほしいのだが……」


 「ああ、ごめん」


 「ごめんね、小田君」


 俺抜きで話を進めていた2人に俺が声をかけると2人は謝ってきた。

 いや、謝罪が欲しいのではなくてだな。俺が求めていたものは説明だった。戦国があまりわからない俺にも今の状況をわかりやすく説明してくれるということをしてほしかった。


 「いやさあ、俺は謝罪ではなくて説明が欲しくてだな」


 「説明ねえ。北条は関東の王者となるために群馬こうずけに攻めてきている。それが今の状況だ」


 「簡潔でわかりやすいな、コノヤロー」


 皮肉的に竜也に答えてやった。


 「で、そんなことよりもどうするの?」


 「ああ、神流川の戦いをどうするっかって話か」


 「ええ、私は滝川軍にいるけど」


 「俺は、北条軍だな」


 「え、ええっと俺は……一応滝川軍?」


 「何だ、その微妙な返事」


 「ちょっとな、俺にもいろいろと事情があって」


 農民になろうと思ったら、なぜだか歌川にこんな戦場に連れて来られた。ほかの滝川軍の兵士云わく俺は歌川の客将扱いらしい。いつから俺は滝川軍にもなったし武士にもなったんだ。

 そんな微妙なこともあり今の俺の立場というものを自分でもよく理解していないのだった。


 「この時代の農民は足軽兵として戦に駆り出されることがあるの。小田君は足軽大将をしているようなもんだと思って」


 足軽大将と言われてもな。

 俺には、それがどんな立場なのかよくわかっていない。戦国に詳しくないからだ。授業でも細かい部分までやらないのでわからない。


 「2人が滝川軍だとしたら、俺もそっちにつくことにするか」


 「え? 北条には付かないのか?」


 「まあ、元々そこまで北条に思い入れというものがあったわけではなしな。北条に拾われた時に偶然北条氏直にあったけどあれはだめだ。何だろう、臆病というか武士としても器をあまり感じ取れなかった。まあ、俺の武士のイメージが高すぎたという可能性もあるが、さすがは北条家5代目という皮肉が思い浮かんだもんだ」


 北条家の当主をそこまでディスっていいものなのだろうか……竜也がすごいのか、それとも北条の5代目がそこまでひどいのか。どっちなのかわからないが、まあ、戦国が好きな人にはわかる話なのだろう。


 「じゃあ、竜也君も一緒に考えていこう。滝川が勝つ方法を」


 「ああ。考えるとするか」


 「あ、あのぉ、俺はどうすれば」


 「適当にその辺にいて」


 竜也からの言葉はきついものだった。

 俺に対する戦力外通告であった。

 ああ、俺には話し合いに参加しても意味ないということですか、そうですか。

 とりあえず、俺は近くの木の側で体育すわりをして落ち込むこととなったのだった。


 「……ちゃんと、俺にも話をしてくれるよな?」


 そこだけがやはり心配であった。


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