第28話 竜也の仮説
竜也は、2つの選択肢を提示した。
1つ目は、本来の歴史の通りに滝川が負け北条が勝つ神流川の戦い。
2つ目は、本来の歴史に抗い滝川が勝ち北条が負ける神流川の戦い。
俺達の行動だけで果たして歴史というものは変わるのか?
「それは、どういう意味だ?」
「そうよ、歴史を変えることは難しいわ」
「でも、お前らもやろうとは考えていただろう。歌川。どうしてお前は滝川軍にいるんだ。滝川が負けるという歴史を知っておきながら。それにお前のことだから本能寺の変に間に合わせるために早めに動いたりしたのだろう」
「うっ、確かにそうだけど……それは失敗したわ」
「そうだな。普通にやればうまくいくはずがない。歴史には修正力というものがある。よく、タイムトラベルものではそういう言葉が出てくる。よほどのことをしない限りギャルゲー的に言うルート分岐というものは起きない」
「ギャルゲー、ね」
俺は、竜也のたとえについてちょこっと思うことがあった。
「……何だよ、小田。言いたいことがあるなら言えよ」
俺は、竜也に対して冷たい目というか呆れた目というかそんな感じの表情をしていたので竜也が俺を不審がる。
「ああ、うん。そ、そうね。ああ、うん」
「いや、ちゃんと言えよ。ああ、とかしか言ってないじゃないか」
「うん。………………」
「いや、今度は黙るなよ」
「2人とも何コントしているのよ」
俺と達也がくだらないような会話をしていると歌川が突っ込みを入れる。
「コントなんかしていない」
「そうだぞ、歌川。俺達の会話のどこにコントの様子があるんだ?」
「いや、十分にあるから。っていうよりも元の時代にいた時から思っていたけど小田君と達也は絶対に仲いいでしょう。いつも喧嘩しているように見えるけど」
「「……」」
「ほら、2人して照れて黙っちゃって」
「いや、照れたんじゃないから」
「そうそう。そもそも俺ら仲が悪いって誰が言っていたんだ? 普通に仲はいいはずだが?」
「……え?」
「いや、だって俺らの諠譁ってそもそもあったか?」
「あれだよ。討論していて熱くなってしまって言葉が汚くなってしまったのを聞いて後輩あたりが、俺らがけんかしているように思えたんじゃないか?」
「まあ、そうだったら仕方ないか」
「おそらく河合あたりがほかの人に言ったんじゃないか?」
「河合ならやりそうだな」
「2人とも後輩にいろいろと責任をなすりつけるというか、いや、違うね。後輩を犯人扱いにするのはどうかと思うな」
歌川の冷静な反応が返ってきた。
いや、だが人を犯人扱いしているのは別に悪いことではないだろう。むしろ俺らは被害者なのだから。俺らの事実無根の話を作りやがったのだから。
「いや、俺らは被害者だ」
「そうだそうだ」
「……仲が確かにいいね、これは」
俺らの息があった主張に歌川も呆れて認めざる得ないという表情だった。
「っていうか、話がだいぶずれすぎるだろう。そろそろ戻したいんだが」
「何の話をしていたっけ? ギャルゲー?」
「ギャルゲーはたとえだ。ギャルゲーの話を別に俺はしたかったわけではない」
「そうなの?」
「いや、そこで俺をあおるのはやめてもらえないか」
俺は、竜也に対して少し絡んでみたが、さすがにもう本題をしたいという顔だったので、あきらめることとする。
「で、本題は?」
「ああ、歴史の修正力の話に戻すぞ」
「歴史の修正力、ね」
「俺達が読み物として読んだり遊んだりしてきたラノベや漫画、アニメ、小説、ゲームなどで過去にタイムスリップして歴史を変えるという話は多くあったと思う。例えば、本能寺の変を回避する話とかあっただろう。小田は確かラノベが好きだったと思うからその話も知っているだろ」
「ああ、織田さんの野望っていうラノベでしょ。信長とか戦国武将が女性になっていた奴だよな」
「ああ、それだ。ラノベというのは結構主人公にご都合主義というのがよくある。だから、あんまり苦労することなくできるはずだ。だから、もしかしたら俺達もどこかの小説の世界で楽に歴史改変をすることがこれからできるかもしれない」
「私たちの人生が小説? そんなことあるの? そもそも私は一回改変に失敗しているのよ」
そうだ。
歌川は実際に歴史改変に挑戦している。本能寺の変を回避するために本来ならば本能寺の変のことを知るのにだいぶかかり信長の後継者としての地位を自分の蚊帳の外で決められてしまうという悲劇を経験するはずの滝川一益を京へと向かわせた。
失敗に終わってしまっているが。
「そうだな。だが、ここがどういった世界なのか小説の中という可能性もあるということを俺は言いたいのだ。歌川が失敗したのは、歌川がこの物語の主人公ではなかったということかもしれない。または、一度失敗してそこから立ち上がっていくという展開にするための要素だったのかもしれない。だから、何とも言えないが、少なくとも1つだけ言えるのは、」俺達はもう現実では起きないことを経験している以上何が起こるのかわからないということをしっかりと理解しておかなくてはいけないということだ。今まで常識だと思っていたことはすでに通じないのだから」
「確かに竜也の言うとおりだな」
現実の常識はすでに通じない。
常識の中に過去の時代にタイムスリップすることなんてものはないのだから。
だから、ここが小説の仲かもしれないという竜也の仮説が面白くもあり嘘っぽいと思う一方で本当のことかもしれないという要素も残っている。
「しっかし、よくそんなこと考えられたな」
「まあな。俺なりにいろいろと考えていたのさ」
竜也は、ちょこっと誇らしげに言った。
「で、これからどうするか。神流川の戦いの話をきちんとしないと。その話に入る前にこの話をしたんだろ?」
「ああ、そうだったな。小田の言うとおりだ。というよりも、こっちが本題だったな。なんで、あっちを本題としてしまったのか」
「まあまあ、勘違いだろ。さあ、本題に入ろうか」




