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第23話 北条(きたじょう)

 「やあああああああああああああああああ」


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 「ていやああああああああああああああああ」


 「とりゃああああああああああああ」


 俺の目の前ではむさくるしい男達が大声を上げていた。命がけの大声であった。

 うん。現状を把握していこう。

 今、俺がいるのは神流川の群馬側の河辺である。俺がいる場所には陣が敷いてあり、織田家の家紋が描かれた軍旗が風に揺れていた。それと滝川一益の旗も風になびいていた。

 滝川軍の兵士は20000ぐらいだろうか。多くの兵士が神流川の群馬側に集結していた。

 一方川岸の方を見る。北条軍がいた。ただ、その兵力は滝川軍の倍以上に見えた。川岸にぎっしりと兵士がいる。こんな戦力差で勝てるのだろうか。

 俺は、隣にいる歌川にどうしてこんな場所に連れてきたのかその理由について聞いてみる。


 「歌川、どうして俺をこんなところに?」


 「小田君に神流川の戦いを見てほしかったから」


 「神流川の戦い……これが、この戦の名前なのか」


 「ええ、そうよ。この神流川の戦いで滝川軍は北条軍に敗れて、滝川一益は本国である伊勢国に逃げ帰るの。そして、群馬は北条のものになるわ」


 「負け戦に俺を呼ぶとか……というか、だったらこんな場所にいたら俺らの命は大丈夫なのか。死んだりしないのか?」


 「私は、負けるつもりはないわ。私は、この時代に来た理由があると思うの。小田君は、農村で歴史を変えようとしているでしょ。新たな農具を開発しようとしているのは知っているからね」


 「どうしてそれを……」


 「だったら、私も歴史を、自分が今仕えている滝川一益の歴史を変えたい。そして、織田家内で四天王の一角であったのに豊臣秀吉の台頭とともに力を失う未来を送ってほしくはない。だから、そのためにもこの神流川の戦いで勝利をしなくてはいけないの」


 歌川は、自分が滝川一益の歴史を変えることを表明する。俺は、その言葉を聞いて本当にそんなことができるのか、いや、やっていいのかと思った。


 「この国の歴史を変えていいのか?」


 「歴史修正力という話が、よくタイムスリップものでは出てくるよね。そのことは、あながち間違いではないと思う。でも、私はやってみたいの。歴史を変えてみたい。だから、やることにしたの」


 「……」


 俺は、歌川の覚悟を聞いた。

 俺はどうすべきなのか。歌川がそう決めたから俺もお前の言うとおりだ。とか、言えばいいのか。俺にできることは歌川の背中を押すことぐらいだと思う。だったら、素直に歌川にやればいいと言えばいい。

 しかし、俺にはそれを言うことができなかった。まず、歴史的に負けると決まっている戦をどうやったら勝たせることができるのか。そこからが問題だ。もしもこれが、本能寺の変後すぐだとかこの戦──歌川に聞いたら神流川の戦いというらしいが、戦が始まるだいぶ前の時点であったら対策を練ることができた。だって、俺は神流川の戦いがどういったものか知らないのだから。歌川なら嫌というほど知っているはずだ。俺は、この戦にどのような人がいるのかも知らない。

 そんな基本的なことも知らない奴に何ができる。もちろん、何もできないはずだ。だから、俺は根拠もなく歌川の背中を押していいのか。その不安でいっぱいだ。


 「小田君?」


 「俺は、歌川がそう決めたなら応援したい。でも、俺に聞いて一体どうしたいんだ?」


 俺は、尋ねる。

 歌川は別に俺に自分の決意を述べなくてもいいと思った。わざわざ俺に何で尋ねてきたんだ。そのことについて気になる。

 不思議に思う。

 だから聞いてみた。

 歌川は、一瞬困惑した表情をした。顔も少し赤くなっていた。


 「そうね、どうしてだろうね」


 歌川は、俺に答えてくれなかった。心なしか照れているように見えたが、どうしてなのか。だが、その照れている表情の歌川を見て俺は若干ドキッとしてしまった。

 歌川はかわいいからな。もしも、彼女にできれば最高だと思ったこともあるが、こんなに照れた表情がかわいいと惚れてしまってもいいと思う。ていうか、俺は歌川のことが友人とは思っているが彼女にしたいと何回も思ったこともあるし、好意を抱いていると自分でも思っている。


 「う、歌川……」


 「はい。まあ、そういうことだから。小田君にもしっかりと働いてもらうからね。じゃあ!」


 歌川は、そのまま別の場所へと行ってしまった。

 照れ隠しなのか、純粋に別の場所に用事があったのかどうかわからないが、この時俺は完全に歌川に対する思いが強くなった気がした。


 「いい思いをしているな、小僧」


 俺が、歌川が向かった方を微動だにせず見ていると1人の男から声をかけられた。


 「あなたは?」


 俺は、その男のことを知らないので尋ねる。

 

 「ああ、俺か。上野国衆が1人安芸入道芳林だ。出家前の名前は北条高広といった。上野国厩橋城城主である。まあ、今は滝川左近将監殿が厩橋城を拠点としているので城主なのか怪しいがな。城代といったところか」


 「北条高広きたじょう たかひろ殿ですか」


 その名前を俺はどこかで聞いたことがあった。

 ……どこでだっけ? ……あっ! そういえば、前に商人が来た時にこの村の領主は誰かという話をした時に北条高広であったと聞いたな。

 歌川であればこの男のことを知っているのだろう。 

 しかし、北条高広はかなり男前だ。優秀そうな武士に見えるし、さぞやすごい人なのだろう。ただ、思ったことは北条きたじょうなんですね。北条ほうじょうと間違いそうでややこしいわ。


 「さて、小僧。あの女に惚れているのであれば、早く契りを結んだ方がいいぞ。この乱世の世。明日も良きれるかどうか怪しいのだから、思い立ったらしっかりと気持ちを伝えることは大事だ」


 「ご意見ありがとうございます」


 俺は、北条高広の適切な言葉に少し思い立ち、歌川を追いかけたのだった。


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