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第22話 帰ってきた

 天正10年6月7日。

 ついに本能寺の変の情報がこの村にも来た。

 情報を伝えてくれた者によると、京にある本能寺にて織田家家臣の明智光秀が謀反を起こし、主君織田信長を自害に追い込んだとのことだ。京周辺にて数人の家臣と見物をしていた徳川家康は命からがら自分の領国である三河国に逃げることができたみたいだ。丹羽長秀は、四国の長曾我部征伐のために兵を集めている状況で、羽柴秀吉は毛利ら中国征討の真っ最中であるとの情報も書かれていた。そして、肝心の滝川一益であったが、何と本能寺に向かうことができておらずいまだに木曽にいるそうだ。何でも現地の豪族木曽氏に宴会に誘われて断ることができずに数日が経ってしまったという何とも間抜けな話が情報には書かれていた。

 歌川がいたのに、何をしているんだ。

 正直俺が思ったことはこれだ。

 でも、それと同時に一つ思い当たることがあった。本能寺の変は無事に起きた。無事という言い方はどうかと思うが、ともかく俺が知っている本来の歴史の通りに起きた。滝川一益を早く動かそうとしたはずだったのに史実通り本能寺の変が起きた後も京から遠い場所にいる。これが、いわゆる歴史の修正力とかいうものか。よく、歴史ものの創作において過去にタイムスリップしても歴史の本来の姿に戻す力とか言って、主人公が過去を変えようとしても無駄なことがある。もちろん、成功するものもあるが、実際過去にタイムスリップしたところで歴史を変えてしまったらどうなるかと言えば、じゃあ、俺が習った歴史は一体何なんだということになる。

 聖徳太子はいなかったとか、源頼朝だと思われていた肖像画は実は平重盛だったとか最近になって別の説が出ているものがあるが、基本的には後世の人がいろいろな解釈をしているだけの話だ。本能寺の変はなかった。さすがにここまで踏み込んだことを言える人はいないはずだ。だから、本能寺の変自体を打ち消すことがどれだけ困難なことなのか。

 歌川もきっとどうにかして歴史を変えようとしたのだろう。しかし、この世界に神がいるのかわからないがそれに準じる存在によってその企てを失敗に終わらされてしまった。

 

 「大丈夫かな、歌川は……」


 本能寺の変を回避することができなかった歌川のことが心配になる。

 どうして心配なのかって? だって、本能寺の変が起きてしまい、滝川一益一行が信濃にいる限りこの世界において俺たちの知っている歴史と同じ流れになってしまっているから、滝川一益と一緒にいても満足いく未来がないということだ。

 少しでも滝川一益に運があれば変わっていたかもしれないが、まあ、木曽氏がすべて悪い。

 ともかく、俺は本能寺の変が終わったことを聞いた。さて、この後の群馬ってどうなるんだっけ?


 それから5日が経った。6月12日。

 朝起きると村が騒がしかった。

 何が起きたのかと思い、家の外に出る。すると、外には多くの武士が村にいた。武士が持っていた旗を見ると織田軍のものであるとわかった。そして、大勢の武士の中には見知った顔があった。


 「歌川っ!」


 俺は、その知った顔の女子の名前を大きな声で呼ぶ。

 歌川は名前を呼ばれたことに気づいたみたいで俺の方に近づいてきた。


 「歌川、久しぶりだな」


 「小田君、久しぶりだね」


 「それで、どうしてここに?」


 俺は、さっそく挨拶を軽く済ませてからどうしてこの村に来たのか理由を聞くことにした。


 「結局、本能寺の変を防ぐことも本能寺の変に間に合うこともできなかった。私は何もできなかった。でも、そこで終わりじゃない。この後、滝川一益に待っている歴史というのを私は知っている。その歴史のために群馬に戻ってきたのよ」


 「その歴史?」


 「いい、小田君。ここは、群馬のまあ正確言うとこの時代では上野国の厩橋城の近くなの。現在で言うと前橋市だね。で、滝川軍の群馬支配の拠点であった厩橋城において戦の準備をするために戻って、今周辺の村々に協力を要請しているところ」


 「戦の準備?」


 俺は、歌川の言葉のある部分について聞いた。

 戦の準備ということは、この後どこかと戦をするということだ。だから、どうして戦をするのか、誰とするのか気になったので聞いてみた。


 「小田君は、そのあたりのことはあまり詳しくないんだね。えぇっとね、本能寺の変が起きた後に織田家内でかなり動揺が起きるんだけど、その中でも滝川一益は織田家最東端である上野国を治めているから周辺のほかの大名からしたら格好の餌食なの。特に関東と言えば、関東支配をもくろむある大名家がいたでしょう?」


 歌川は俺にさあ、答えてと問題形式のように言う。

 まあ、この程度の事俺でも知っている。関東支配をもくろむ戦国大名。そんな、あの家しかないでしょう。


 「小田家か……」


 「そうそう、小田家って、そんなわけないでしょう! っていうよりも戦国に詳しくないんじゃなかったの? 何で小さい方の小田氏を知ってるのよ」


 歌川はいい乗り突っ込みをした。元気だな、おい。

 まあ、俺は悪ふざけしたのが悪いんだが。ちなみに小さい方の小田氏は常陸国現在で言う茨城県にいた戦国大名でその最後の当主小田氏治はこの界隈ではかなり有名な人だ。主に負け組として……


 「それは、俺と同じ苗字だから気になって調べてみただけだ」


 「まったく、そんなところで自分の知識を披露しようとしなくていいから。で、答えは?」


 「北条だろ」


 俺の正解の発言に歌川は呆れた顔をする。


 「わかっているなら、最初から答えなさいよ」


 「まあまあ、そんな顔をしなくてもいいだろ」


 「まあ、いいとするわ。で、北条氏がこっちに攻めてくるからその前に何とかしようと思い戻ってきたわけなの」


 「なるほどな」


 北条と言えば、関東最大の戦国大名であり豊臣秀吉による天下統一の最後の障害となった人物だ。正確にはこの時点で伊達とかは秀吉に従っていなかったが、北条攻めがきっかけで奥羽の多くの大名は秀吉に下ることになる。その点で北条というのは、最後まで残った大名という印象だ。

 北条の力が強大なのは俺でも知っている。滝川一益は果たして勝てるのだろうか。

 俺は、神妙な顔をすると、歌川がちょっといらないことを言う。


 「で、小田君。あなたも一緒に来てもらうよ」


 「はい? どこにだよ」


 「もちろん、北条との戦場に」


 「……」


 俺は、歌川が言っていることがまったくわからなくてフリーズをしてしまったのだった。


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