第16話 再設定
先週分です。今週分と来週分はお休みします。
「ここはどこだ?」
俺は気がつくと真っ黒な空間に立っていた。
ヒョウが眷族に加わって。それから――
「半日ぶりだな。宿主よ」
声がしたほうを見てみると群青色の龍がそこにいた。
「お前はアトラスなのか?」
「ああ、この姿で合うのは初めてだな。宿主よ」
どうやらアトラスで合っていたらしい。
「ここはどこだ?」
「簡単に言うと宿主の夢の中だ。難しく言うと神でさえ介入することができない神聖な空間だ」
夢の中なのか……ん?今、神でさえ介入することが不可能だとアトラスは言った。
じゃあ何故アトラスは俺の夢の中にいる?
「それは我が宿主と首輪が繋がっているからだ」
また心を読まれたみたいだ。
「首輪で繋がっている?」
俺は反射的に手を首にかざすが、首には何もつけていなかった。
「言っただろう。ここは神聖な空間だと。どんな嘘、偽り、魔法もここでは使用できない。よって我も人の姿を維持できていない」
だからアトラスは人の姿ではなく本来の龍の姿に見える訳か。
ん、なら俺はどんな姿にみえているんだ?
「そうだな。身長が少し縮み、髪の色が銀髪から黒になった。そしてなにより、宿主の性別が変わった」
なるほど、アトラスまた心を読んだな。
アトラスの言った見た目から察するに俺は桜坂吹雪に戻っているのだろう。
まぁ、それはそれとして
「俺をここに呼んだのはアトラスなのか?」
俺は先ほどからの疑問をアトラスに聞く。
「それは違う。この空間は眷族や、守護者と言った者たちと契約した際にその者たちの再設定を行う場だ」
どうゆうことだ?
「例えば、我は奴と契約したから人の姿になれたり元の姿に戻る事が出来る。そうだな奴はキャラ設定とか言っていたな」
キャラ設定ね。分かりやすいと言えば分かりやすいけど……黒の英雄ってもう千年位前もの人物だよね。
なんでキャラ設定なんて言葉を知っているのだろう?
「それは我も分からぬ。だが宿主のいた世界とこの世界の時間の流れが違うとするのだとするとあり得るかもしれない」
「なるほどなぁ」
「話を戻すぞ。ここでは先ほど言った通り眷族や守護者の再設定を行う場だ。宿主が先ほど眷族にしたカラジシの姿を頭によく浮かべて欲しい」
俺は目を閉じ集中してヒョウの姿を頭に浮かべる。敵を穿つ牙、魔法を封じる瞳、強者を表す真っ黒なたてがみ――
「もういいぞ宿主よ。再設定の完了だ」
目をあけるとそこには黒い長髪に紅い瞳をした長身の青年が立っていた
「これは――」
「宿主がしたイメージが固まってできたものだ。こいつがあのカラジシだ」
「これが……ヒョウ?」
もはや種族という壁を通り越してしまっている。
「再設定は眷族、守護者はつき一人一度しか行えない。しかも再設定を行うと主の種族に固着してしまう。だが、再設定を受けた眷族は今までより何倍も強い」
「何倍も強くなるね―」
俺は先ほどのヒョウとの戦いを思い出した。
あれでかなり強かったのにあれの何倍となると考えただけでぞっとする。
「再設定が終わったのならぼちぼち目覚めるだろう。だが、目覚める前に二つほど忠告しておく。レベルが鑑定しても不明な敵には関わるな。これはレベル差も関係なく攻撃できる唯一の存在、古き一族だからだ。もう一つが宿主が飼っている龍をこのままこちらの世界には出すな。出した場合、神によって即処分されるだろう。まぁこれは今みたいに再設定でもしておけば問題はないと思うが」
アトラスは早口にそう告げた。
というかアトラスは意外と解説キャラなのかもしれない。
「いまの忠告しっかりと頭に入れておくよ。ありがとうアトラス」
そしてまた意識が飛んだ。
気がつくと俺はヒョウにおぶられて蔵鬼さん達のいるほうへ向かっていた。
「目が覚めたか?主よ」ヒョウが俺が意識を戻したことに気がついたらしい。
「ああ。覚めた。自分で歩くから降ろしてくれ」16にもなっておんぶされるのには変な抵抗がある。それに成行きだったとはいえ勝手に眷族の再設定を行ってしまった。ヒョウの意見も聞かずに……。だから何というか今は後ろめたい気持ちでいっぱいだ。
「顔が暗い。どこか痛めたか?それとも我が眷族になったことが気に入らなかったか?」ヒョウが背中にいる俺に不安げに聞いてきた。
「いや、お前が眷族になってくれたのはとても嬉しい。でも勝手に俺はお前を再設定したから」うまく言葉が出てこない。
「要するに、主は我がこの肉体の事をどう思っているのか知りたいのだな」俺が言おうとしていた事をヒョウが理解してくれた。
「よいか、主よ。眷族の再設定とは主に実力を認められた一部の眷族しか受けられない神聖な儀式だ。その神聖の儀式の中、主はその眷族の特徴をイメージし、形を創造する。そしてその創造には莫大な量の魔力と集中力が必要になる」ここまでは先ほど体験してきたことなので理解できる。
「このように主が負担して作ってくれた肉体に不満を覚える者はいない。むしろ喜ぶ眷族のほうが多い。もちろん、我もその一人だがな」
この言葉はヒョウが気を効かせてくれて放った言葉かもしれない。でも、この言葉のおかげで吹っ切れた。
「ありがとうヒョウ。おかげで吹っ切れた」
「いやいい。眷族として主の世話をしたまでだ」
本当に頼りがいのある奴が仲間になった。俺はそう思いながらヒョウの背中でまた船を漕ぎだした。
主人公は作者と同じで眠ることが好きなんですよ……多分。