第14話 準備期間 前半
「キラさんなら魔王のところに転移したみたいですね」
アイツが来ている。俺にオタク要素を振り込ませたアイツが。
「なんでアイツまで召喚する必要があったんですか?」
「それはあの人がテンペストブレインを初めて討伐した訳ではないですが、調教に成功し、そしてドラグナーの愛騎にまで育てた。この結果は私も予想できませんでした。だから私は賭けてみたいと思ったのでキラさんいや、菊需明さんを召喚しました。もう朝ですね、私はぼちぼちお暇しましょう」
部屋の小窓から朝日が映りだした。
「雪さん、今から2週間以内にファージ行ってファージの問題を解決してください。あなたが間に合わなかったら街が滅んだといっても過言ではないでしょう。では次に会う時まで」
「待ってください」
俺がそう言った時には既にメフィスは光となって消えた。
「宿主よ。奴は人任せの女神だ。それも神の中でも一番たちの悪い神だ。信用するのはあまりお勧めしないよ」
「今ので十分わかったよ」
「では、我も消えるとするかな。とその前に宿主よ、ファージには我の友であり、黒の英雄の守護龍だった奴がおる。何かあったらそいつに頼るがよい」
「分かったアトラス。ありがとう」
「あと、宿主。我がこのように形を成しているのは宿主の膨大な魔力を借りているからだ。だから今から魔力切れを起こすと思う・・・すまん!!」
アトラスは言い切るとすごい勢いで青い光となって首輪に吸い込まれた。
魔力切れ?
俺が疑問に思うと同時にすごい眠気が俺を襲った。
「・き、雪。起きて、起きてってば!!」
俺はしぶしぶ目を開ける。
「よかった、目を覚ましてくれて。二日も眠りっぱなしだったから心配したんだよ」
そこにはとても心配そうな表情をした修羅姫がいた。
「ごめん心配かけて。・・・今、二日も眠ってたって言った?」
「うん、言った。君がこの街に着いた日から二日たっても眠りっぱなしだったんだよ」
マジか。魔力切れとても恐ろしいな。
「そういえば修羅姫ファージっていう街分かる?」
「分かるよ。ファージは僕たち軍に武器を提供してくれるからね。そうそう別名は職人の街ともいうよ」
職人の街か。ドワーフ街かな?おっとそれよりも聞かないといけないことがあったな。
「この街からファージまでどのくらいある?」
「そうだね。馬の足で二日くらいかな」
二日か。早めについて損することはないな。明日、冒険者ギルドに行ってファージの街の問題を調べてみよう。あと12日しかないし。
「そういえば。どうしてファージのことを聞いたんだい?」
「近々アスラの街を出ようと思ってね」
「そっか」
修羅姫はどこか寂しそうに見えた。
「どうした?」
「いや少しね。あ、お腹空いてるよね。パパとママに何かもらってくるよ」
「ありがとう」
修羅姫は部屋を出ていくと、入れ替わりでキツナとツバサが入ってきた。
「雪様、お体は大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫だよ。少し無理をして魔力切れになっただけだから」
「そうですか。良かった」
安心してキツナが胸をなでおろした。
「ほんとに大丈夫ですか雪?」
「まぁ、今日一晩寝たら完治すると思うよ」
質問してきたツバサにそう返す。
「それよりも、二人とも近々アスラの街を出てファージっていう街に行こうと思う」
「職人の街ですか」
「よく知ってるね。ツバサ」
「これでも一応、この世界のことは本で一通り知っていますから」
「そうだったな」
「ファージ、武器やガラス様々な分野に関わる職人が集まってできた街です」
「だから職人の街と言われているんですね」
「それで雪。いつ出発するんですか?」
「・・・二日後の朝だ」
「二日後の朝!?」
「また急ですね雪」
「明日買い出しに行くぞ」
と明日の予定を決めていると修羅姫がパンとシチューを持ってきてくれた。
「話は聞いたよ。ならまずは足から買っておいた方がいいよ」
「足?」
「乗り物だよ。ヒュドラ討伐の報酬がたくさんあるよね」
「ああ。かなりあるな」
確か、冷やかしの時に見た出店の商品でも高くても4000ゼニーを超える品物は少なかった。
ついでに修羅の宿は修羅姫の客人として扱われているため宿泊料はただである。
結局のところ所持金は2000万ゼニーある。
「それじゃ、明日はまず騎獣屋に行こう。騎獣は早めに手懐けておいた方が後が楽だからね」
そしてこの日は解散となり、みんな明日に向けて睡眠をとった。
四日目の朝、明日俺たちはこの街を旅立つため必要な物の買い出しに来ていた。
城壁近くの店はヤマタノオロチの被害を受けてしまっていたので、被害が少ない内部の店だ。
もちろん、案内してくれているのはこの街もどこにでも顔が利く修羅姫だ。
「長旅になるんだったら馬じゃなくてカラジシの方を僕はお勧めするよ。少し高いけど・・・」
「カラジシ?」
「うん、カラジシ。懐かせるのは少し大変だけど懐いてくれたら主思いの奴になるらしいよ。それに荷物とかも馬より運べるし、馬よりもスタミナがあるからお金に余裕がある商人とかは馬よりもカラジシの方を買うよ」
カラジシか。
漢字に直すと唐獅子この世界はアジア文化が強い気がする。
「どんな見た目なんだ?」
「そうだねえ~、獰猛そうに見えるんだけど毛並みとかがモフモフしてて、とても気持ちいいんだ。あと、一匹いれば二人は乗れるかな」
修羅姫はジェスチャーをつけてカラジシのモフモフ感を伝えてきた。
その際にとてもいい笑顔をしていた。
「ここだよ。おーい蔵鬼さん」
修羅姫は店の中に入ると店主の名前を呼んだ。
「誰だ?こんな朝から俺の名前を呼ぶのは?」
出てきた店主は体長およそ2メートルの眠そうな姿をした鬼だった。
「こんにちわ。蔵鬼さん」
「おお、こいつは珍しいお客が来たもんだ。こんにちわ修羅の嬢ちゃん」
巫女服の女と鬼この組み合わせは日本の昔話に出てきそうな組み合わせだ。
「今回はどうしたんだ?馬か?蜥蜴か?それともカラジシか?」
「うーんとね。今回のお客さんは僕じゃないよ」
「ほう、じゃあ後ろにいる嬢ちゃんたちか?」
修羅姫は俺に自己紹介するように促す。
「初めまして、蔵鬼さん。私は雪と申すものです」
正直あまり年上と話したことないから言葉が片言になってしまう。
「おう、雪の嬢ちゃんか。その黒い鎧は、もしかして城門で修羅の嬢ちゃんをぶち負かした嬢ちゃんか」
「そうだよ。彼女が僕をぶち負かした子だよ」
「そして何をお求めで?」
「カラジシを三頭ほどお願いします」
「三頭もか。金はあるんだろうな」
「はい。2000万ほど」
「いいぜ。こっちに来な」
俺たちは馬鹿でかい納屋に案内された。
「ここにいる騎獣たちはみんな俺が世話してるんだ」
騎獣はみんな蔵鬼さんを見ると尻尾を振ったり、顔をこすりつけたりして甘えだした。
「カラジシは懐かせるまでは難だが懐かせると、とても主思いのいい奴になる」
来る途中修羅姫の言っていたことを蔵鬼さんがいう。
修羅姫はカラジシのことをここで知ったのだろう。
「さぁ、ここがカラジシ飼育小屋だ。最初は目を合わせないでゆっくり優しく撫でてやってくれ」
「何故を目を合わせたらだめなんですか?」
「カラジシの人に慣れていない奴は臆病だ。人に慣れていないから自己防衛のつもりで噛んでくる。つまり、目を合わせると噛まれる可能性があるからだ」
「なるほど」
「蔵鬼さん。マーシャル触ってきてもいい?」
修羅姫が目を輝かせて言う。
「いいぞ。アイツも修羅の嬢ちゃんのことを気に入ってるから喜ぶだろうよ」
なんだろう。明の奴と昔ペットショップに出かけたときの気分だ。ついでに、カラジシの見た目だが受験勉強の時、お世話になった愛読書、歴史の教科書に出てくる唐獅子にそっくりだ。
「雪。この子、人懐っこいですね」
いつの間にかツバサが黄色いカラジシとじゃれあっていた。
「おお、嬢ちゃんすごいな。少し目を離していた隙にそこまでカラジシが懐くなんて」
「雪。私この子にします」
「分かった。キツナはどうする・・・ってあれ?」
「雪様できれば少し手を貸していただけるなら幸いです。ってこら少し離れなさい!!」
キツナの周りには7匹のカラジシが集まっていた。
「カラジシがこんなに集まるなんて。しかも人慣れしていない、警戒心の強いカラジシが・・・。もしかしてお嬢ちゃん半獣か?」
「半獣とは何ですか?」
「稀にいるんだよ。大抵の獣人族は獣寄りの顔つきなんだが、ほんとに稀でな顔が人間よりの獣人族が生まれるんだ。俺も100年と少し生きてきたが見たのは初めてだ」
人間寄りの顔を持つ獣人か。あながち間違っていないがキツナに関しては少し違う気もする。てか、蔵鬼さん100超えてたの?種族の差って半端ないな。
「何故、彼女だけあんなに集まるんですか?」
「基本的に、獣人族は獣と同じにおいを発するという。だから、獣のカラジシが仲間として認識したのだろう。朝から驚くことが多いな」
カラジシ、こんな見た目なのに魔物ではないのか。獣なんだ。てか魔物と獣の違いってなんだ?
「カラジシは魔物ではないのですか?」
「また面白いことを聞くな。獣と魔物か。もともとは同じ獣だ。だが何らかの影響により魔力を浴びてしまい自我を保てなくなってしまった獣を魔物という。魔物は獣と違い凶暴性が高い、60年程前にとある強大な魔物が街一つ壊した記録が残っているぞ」
会いたくねえな。そんな化け物。
「まぁ、安心しろ。そんな化け物はそう簡単に出現したりしない」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「簡単だ。そんな化け物を出現させるには獣がかなり強力な魔力を浴びることが必要になる。そんな魔力を持ったかなんて魔族の中のトップ魔王クラス奴しかできないだろう」
「なるほど」
それなら安心だ。
「雪様、私はこの子にしようと思うのですが」
キツナが連れてきた子は真っ白なカラジシだった。
「きれいな色をしているな」
「はい、この子だけ私の言うことを理解いしているらしく、言う通りに動いてくれるのです」
キツナは普段顔に出さないが、選んだカラジシをなでている時は少し微笑んでいた。
さてと、俺も選びますか。
「そういえば嬢ちゃんにぴったりの奴がいるんだが見てみないか?」
俺にぴったりのカラジシ?
「ぜひ、お願いします」
「こいつを扱えるのは最低でもレベル400は必要だろうからな。懐くとしたら、修羅の嬢ちゃんを負かした雪の嬢ちゃんになら懐くだろう。・・・強さを証明する必要があるが」
「き、凶暴なのですか?」
「いや、大丈夫のはずだ。・・・多分」
ちょっと不安になるようなこと言わないでくださいよ!!
「さぁここだ」
俺が案内されたのは先ほどのカラジシたちがいた場所よりも厳重な鉄の檻の前だった。
「この中にいるんですか?」
「あぁ、いるぞ」
緊張が走る。暗くて何も見えない。
「さっき、魔物と獣の違いの話をしただろ」
唐突に蔵鬼さんが語りだす。
「魔力に耐えられなくて自我を失ってしまった獣を魔物と俺は言ったな」
「はい、そう言いましたね」
「実はな例外が一つだけあるんだ」
「例外ですか?」
「外部から体に負荷のかかる量の魔力を浴びてしまうと、普通の獣なら魔物落ちだ。だが、外部からの魔力を稀に自分の魔力として制御できる獣がいる。俺たち騎獣屋はそいつらのことを魔獣と呼ぶ」
「魔獣ですか」
「ああ、しかも今からお嬢ちゃんに会ってもらうのは魔獣だ。しかも普通のカラジシより、知能も高い」
「どうやって、そんな危険な獣をつかまえたんですか?」
「企業秘密だ」
蔵鬼さんはにやけながら言った。
この人はほんとに何者なんだ?あっ人じゃないか。
「まぁこいつに本当に合うのか、最後の確認をさせてくれ」
魔獣、ドラキラの世界にもそんな動物はいたが体力と攻撃力が高いだけのモンスターだった。
だが、この世界のモンスターはドラキラに登場するモンスターと少し違う。
このことはヤマタノオロチの件で分かった。
ドラキラに出てくるヤマタノオロチは岩石魔法じゃなく水魔法を使用してくるからだ。
特徴がわからない敵は非常に厄介だ。
それに、蔵鬼さんも只者じゃない。
レベル400のモンスターを討伐するためには500から600はいるだろう。
多少、種族差があるかもしれないが。
まぁ俺は人間にとっては最強の存在だろうし、称号のスキル効果によってブーストされているから例外的だろうが。
てか、この世界のレベル設定高すぎじゃないか?一応俺の知る限り俺が会ってきた人の中で、一番低いレベルが102だった。
「雪、行ってきなよ」
俺の考えが脱線していると、いきなり現れた修羅姫に背中を押された。
いや、正確には軽く俺は空を飛んだ。これも種族の差だろう。
「ちょっ!?修羅の嬢ちゃん何してるの!?」
「うーん、雪は強いから大丈夫だと思うよ」
「んな、あいまいな。雪の嬢ちゃーん、中にいる奴はほんとに危険だ!!危なくなったら俺を呼べ―!!」
遠くから心配してくれる蔵鬼さんの声が聞こえる。
まぁ400程度なら何とかなるか。
「ガルルル。女ごときが我に挑んでくるとは我も舐められたものよ」
後ろから突然声が聞こえた。
「今回はしかも人族。最弱の種族じゃないか」
暗闇の中から突如、赤い玉が出てきた。
俺はその玉に向けて鑑定スキルを使用する。
name:カラジシ(魔獣)
abilities:魔封じの瞳 自強化
title:魔術師の天敵
冒険者ギルドで聞いたことなのだがこの世界の人間というのは最弱の種族らしい。
だが、それは肉体的な面での話。
人間という種族は肉体的な面より頭脳的な部分が発達している。
この世界で言う頭脳的な部分、つまり魔法が発達している。
魔法は魔族の方が発達しているが、実用的な魔法のスクロールなどの技術の面では魔族より、人間の方が優れているらしい。
だから、蔵鬼さんは俺が修羅姫との戦いで魔法具を使用して勝った思ったのだろう。
まぁ、そうなのだが。
種族の差は戦いの中では重要になる。
それで蔵鬼さんは俺のことを心配してくれたんだろう。
でもね、蔵鬼さん。俺の身体能力はこの体になって飛躍的に上がってるんですよ。もうチート並みにね。
「最初に言っておこう。我に魔法の力は通じないぞ」
ま封じの瞳というアビリティは魔法や魔法具の効果を無効にするアビリティらしい。
確かにこれなら称号の意味も分かる。
まぁ俺には関係ないが。
「ふん、声も出ないか。どうするか人間の女。今なら逃げても目を瞑っておくが」
「心配無用。俺の方が多分強いから」
「そうか、ならば敬意をもって相手をしよう。我が名はヒョウ。この者に負けたのなら我はこの者に従おう」
「それじゃあ、俺がこの勝負に負けたら君に一生服従するよ。その際は三食昼寝付きでお願いします」
「命が懸かっているというのに、冗談を言うとは呆れる。それほど我のことを下と思っているのか!!」
カラジシの魔獣が大きな口を開けて俺に噛みついてきた。
俺はそれを避ける
「残念だけど、君に食われる気はないよ」
「ふん、その冗談が言えなくなるように喉を切り裂いてやるわっ」
ヒョウの体から赤いオーラが溢れ出てる。
そして、2メートルだった体長が4メートルもある巨大な怪物になった。しかも4足歩行から2足歩行に変わった。
十分に恐ろしい化け物のはずなのだが・・・
「ヤマタノオロチ視た後だといまいちかな」
大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
先週の雨の時になった雷で家のブレーカーが4回も落ちてしまって、しかもその際まだ保存していなかった小説も共に・・・。
作「サンダーさん止めてください。自分のPCのライフはもう0です!!」
雷「できるっできるっ君ならできる。ゴロゴロどっかーーん」
pc「プツンっ」
作「いやあああああああああ」