8 思い出した過去
それは、セピア色に彩られた世界だった。
それが、私の前世の一つであり、全ての原因だったのだと思う。
超科学の世界で、私は異能を持っていた。
庶民だったが、将来を期待され貴族の通う学校へ特待生で入った。
そこで、身分違いの恋をした。
優しいあの人は、庶民の私を見初めて恋に落ちた。
けれど、私達の秘めた恋は子供が産まれても認められず。
引き裂かれる。
私は、あの人の前で殺された。
言われなき罪で。
子供がどうなったか分からないが、生きて居ても不幸な未来だったかもしれない。
一度目の前世の息子は、私の死の後で夫の家族達に虐待された。
しかし、私と夫の能力を受け継いだ為か、傷はすぐ治るし、戦闘力も強い者へと成長して行った。
そこに、狂気を孕んで。
まず、末端の者達を誘導し貴族を襲撃させ金品を奪い、貧しい庶民へとバラまく。
義賊と呼ばれ、仲間の数を増やし。
最後は貴族を滅ぼした。
長く貴族は獣人で構成され、人族は弱く虐げられて居た。
しかし、繁殖力が異様に高く。
純血しか作れ無い獣人と違い、混血児を作れるのだ。
簡単に労働者を確保できる為。
獣人からしたら、牧場主気分だったのだ。
しかし、人族からしたら溜まったものでは無かった。
完全に奴隷かペット扱いなのだから。
いや、事によったら、子種や産む道具なのだから。
特に見目麗しい者達は悲惨で、自我すら希薄にされてしまう。
そこに、人権など無く。
碌な末裔が無かった。
だからこそ、息子がやらなくても他の誰かかいずれやったとは思う。
だが、その後が不味かった。
他の都市を襲い。
他種族を従え。
獣人と同じ事を始めたのだ。
息子は復讐しか考えておらず、使用禁止の武器まで使い始め。
各地を壊滅させた。
彼についていけなくなった者達が、彼を暗殺したそうだ。
二度目の前世は、地球の平和な日本と言う国に産まれた。
一度目や三度目と違い、完全に人しか居ない世界だった。
魔法異能精霊も、ほとんど無い世界だった。
なのに神々の気配が色濃く残る、不思議な環境でもあったと思う。
神々が、直接手を下す時代も太古に有ったらしいが。
ほぼ人に丸投げ環境が出来上がったいる。
もしかしたら、地球の神々はめんどく下がりなのだろうか?
日本人の事なかれ主義みたいな感じで。
そこで、平均的な庶民の家庭で産まれた。
日本の独特の歴史に心惹かれ、歴史学者になった時。
同じ歴史学者の同級生で、幼馴染のあの人と結婚した。
とてもとても穏やかで、優しい日々だった。
子供も10歳程の時、事故で亡くなってしまった‥事になっているが、違うのだ。
夫は古い神の末裔で、記憶を喪失してから幼子の頃に養子になっており。
記憶を喪失した原因の、彼の天敵との戦闘になり。
巻き込まれた私ごと死んだのだ。
私を助ける為に、残りの力を振り絞って魂を異世界転生させて逃がしてくれた。
その代わり、あの人は魂ごと消滅してしまった。
魂の消滅は、蘇生が難しく。
数千数万年かけて蘇生しても、同じ魂のありようとは限らないのだ。
私は、あの人と消滅したかったのかもしれない。
一度目も二度目も、私は子供を置き去りに死んでしまう。
酷い女なのかも知れない。
漂っていた魂が、異世界の神に補足された。
年若い彼は、まだ新しい神々なのだと思う。
彼は私を記憶有りで転生させてくれようとしたが、私は断った。
二人の前世、二人の愛しい人、二人の息子。
全てが愛しいく、そして思い出すには悲し過ぎた。
過去に囚われたく無かったのだ。
迷う彼に、もう一人の女神が取り成してくれて、私はクレアとして転生したのだ。
うん?
何故思い出したの?
「母さん…取り込まれるよ。
そこは危険だから、こっちにおいで。」
溜息交じりで、息子の声がする。
息子は、もう少し幼く。
キーが高い声だった。
だが聞こえたのは、成長期を終えた男の声。
それでも魂が告げる。
血を分けた息子だと。
薄っすらと目を開けると、あの人そっくりな青年が私を抱え。
その側にこの世界の神様、パニマ様が居たのです。
「良かった、時空の乱れに巻き込まれたから焦ったよ。
無事で良かった…。」
「いえやす?大きくなって…。」
パニマと家康が顔を見合わせる。
「記憶の封印が解けてしまったんだね。」
「はい…全て思い出しました。
夫信長の事も、もう一つの前世の息子…。
人族史上主義者となったロストの事も。」
唇を噛みしめる。
「それよりも、家康?何故ファーブラに?」
家康は、少し困ったような微笑を浮かべる。
「俺は父さんの血が覚醒してね。
今は神様なんだよ。」
ビックリして目を見開く。
「で、ではその神の力で、私を助けに来てくれたの?」
「うん、まぁそうなるね。
パニマは俺の親友でね、転生させた時に教えてくれたんだよ。
こっちに俺の死んだ母さんの魂が流れ着いたから、転生させたよって。
ビックリしたけど、新しい人生幸せになって欲しいからね。
助けるに決まってるだろ?」
照れ臭いのか、耳を赤らめる。
変な仕草まで夫とそっくりだった。
「まぁ、懐かしい会話は後でゆっくりしてくれよ。
クレアちゃん、この時空嵐から出ないと。
もう時渡りの魔法は分かるでしょ?」
「はい。」
記憶の封印が解けると使える時渡りの魔法。
私はその力を手にいれた時、使う必要性を感じなかった。
けれど、こうして覚醒すると、いかに自分がアンバランスだったのか分かる。
魔法を紡ぐ。
祝詞は無く、音域を歌い上げるように声を上げた。
ぱりん!
カチコチカチコチカチコチ。
カチャッ。
リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン。
時計塔の音がする。
巻戻る時計の秒針。
空の色がクルクル変わり、私は船の上にストンと立った。
凍り付いた世界が溶け出すように動き出す。
船ごと飛ばされたのは、過去だった。
「ここは…。」
「多分、君のもう一人の息子ロストがこちらに転生して暴れてた時代…かな?」
パニマ様が呟く。
パニマ様が気に入った家康も、天敵となったロストも、私の息子だ。
「そっか…馬鹿やった子は、親がちゃんと叱ってあげなきゃ、ね。」
私の言葉に二人は肩を竦めただけだった。
「あれ?家康先輩にパニマ様?
俺たち助かったの?」
マサムネさんが、不思議そうにこちらを眺めて居た。
「うっせー、このドジっ子!
時空の乱れくらい捉えておけ。」
「無茶言わんで下さいよ。
管轄外っス。」
「異世界は地球と違うんだから、もっと慎重になっとけ。」
アイアンクローで頭グリグリされている。
ああやってみると、マサムネさんは家康よりも年下なのだと分かる。
「つーか母さん覚醒してなかったら、時空嵐に取り残されてたんだぞ、おまえら。」
「ううっ、でも家康先輩母さんって?」
「あー、クレアちゃんな、前世俺の死んだ母さんな。」
「さ、さっき思い出したです。」
固まる一堂。
「神産みの母かよ!すごいね!」
空気読まないパルーニャちゃんが、ズザッとカットイン。
これ絶対船止まってるからの余裕だね。
「取り敢えず、この時期だとまだロストは暴れてないから。
歴史修正出来るが…どうする?」
パニマの言葉に皆頷くと、船をロストの故郷アドゼンスへと向かった。