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「ううっ、ぎもじばるゔぃ。」
あんなに無駄に元気そうだったパルーニャちゃんは、現在絶賛船酔中。
私はと言うと、水の都で移動手段が基本ゴンドラや船だったからか。
水の上の独特な感覚には慣れっこで、全く平気でした。
パニマ様の船は、戦艦とか豪華客船のような巨大さでは無いが、フェリーよりはやや大きめな割に、神の加護が効いて居るとかで揺れも少ない。
にも関わらず船酔いしてるのは、多分気分の問題だろう。
私は、あの小舟の上独特な静寂と、水の音と遠くの人々の喧騒。
風と木々のせせらぎを聞きながら昼寝をするのが好きだ。
寂しい時は、更なる孤独感も覚えるが。
世界に自分が溶けて行くような、時間からも世界からも取り残されるような、切り取られるような感覚がして、色んなごちゃっとした感情とか遠くなる。
だから、皆から少し離れた甲板で、海の向こうを眺めた後、目を閉じた。
川と違う潮の香り。
浜辺や港の生臭さは無いが、不思議な匂いがする。
「大地は廃れ、人は争う。
海は荒れ、魚が濁る。
空は怒り、神は嘆く。
古の神は我らを見捨てた。
新たな神は我らを守りまもうや?
巡れ廻れ、時を巡れ。
この世の理を巡れ廻れ。
それでも、我らを捨てずに居てくりゃれ。」
波の音に紛れて、不思議な歌声が遠くから聞こえた気がした。
「呪詩?」
ズシン!
歌の後に、少し遅れて振動が来る。
慌てて甲板に居た皆に声を掛け、一緒に船内に戻る。
マサムネ君を探すと、船長室で青ざめた顔で操作パネルを操って居た。
「原因は分からないけど、時空の歪みが発生している!
何処か別の時に飛ばされるみたいだ。
皆何処かにしっかり捕まって!
衝撃が来る!」
バシン!バシン!
彼等には、衝撃音しか聞こえ無い。
カチコチカチコチ。
ゴーンゴーンゴーンゴーン。
けれど私には、私にしか聞こえ無い懐かしい刻の塔の鐘の音が耳に響く。
「ク、クレア?」
異変に気付いたジン君が私を見た。
その声に反応して、一同の視線が此方へと向く。
フワリと空中に浮かんだ私は、柔らかな金色の光を纏い始めた。
しかし、私の意識は既に無く。
カチコチカチコチと、時計の歯車の様な魔法陣が私の身体にまとわりついた。
それは、私を鍵とした、時を渡る魔法陣。
ただし、私の管理下に無い。
「クレア?クレア!しっかり!
嘘、意識無いの?」
「いかん!クレアが魔力暴走してる⁈」
一同が慌てるが、既に魔法陣が発動した彼女に近寄るすべはなかった。
「かつての同胞よ。
お願い、我らを助けて…。
あいつらを止めて。」
小さな声は、心の悲鳴を上げて居た。
最後の力を振り絞ったのか、その声の力はどんどんか弱くなって、消滅した。
私は薄れる意識の底で、とてもとても哀しくなった。
それも一瞬で、私の意識はそこで途絶えた。