4
修行中
「マサムネさん、よろしくお願いします。」
「ん、そんじゃぁ昨日の復習だ。
意識を集中して、手の平木の棒を、移動したい時刻、そうだな…五分後。
場所は元の手の平の上。
それをイメージして、魔法を発動して。
そう、焦らずに集中するんだ。」
森に逃げ込んだ後、キャンプを張った側の切り株に腰掛けて時魔法の練習を始めた。
冒険者の多いこの世界では、こういった簡易キャンプ場所が森や山や平原などに点在して居る。
余り脅威モンスターが居ない地域なら、冒険者ギルドに登録して居るなら自由に使用出来るログハウスまで有ったりする。
盗賊や浮浪者や不審者が勝手に生活し無いよう、そう言った場所の入り口には冒険者カードを認識する魔石が組込まれた石碑が必ず置いて有る為。
そこを貧乏な冒険者の生活拠点として与え。
過酷な戦闘などへの見返りの保証サポートとして居るのだ。
そういった、保証システムを考えたのも異世界転生者達らしい。
ちなみに、冒険者で土木魔法が使える者が居た場合。
ログハウスや煉瓦小屋などを作ったり修理するクエストなどを用意されて居る。
腕が立てば建築関連の仕事を優先的に斡旋してもらえるようになる為。
建築関連の仕事につきたい者達へのいい登竜門にもなって居たりする。
ともかく、そんな場所を数カ所経由して、幾つか魔法を修行していた。
今やって居るのは時魔法の初期段階だ。
流石に政宗も教える専門ではないが。
時・空間・次元と言う特殊な魔法は、火水木大地風光闇、と言った自然や精霊に直結する物と違い、感覚で分かりずらい。
ただ、時は時間の事なので、クレアが元々持っているスキルを上げる為の基礎訓練ならば何と無く分かる。
魔法はイメージが大事だ。
イメージが直結し無い魔法は、オリジナル魔法すら創り上げられる。
専門外なら学ぶしか無いが。
若者だし、会話をヒントに色々強化して上げる事しか出来無いけれど。
まぁ何もさせないよりはマシだと思っているのは経験上故だ。
亡くなった親御さんから有る程度の基礎は習って居るみたいなので、その辺りは自習させて居る。
問題は、逃亡や簡単な魔法修行より、パニマ様に頼まれた一件だろう。
「過去に飛び現在に戻る…か。
この短期間で覚えさすとか、本当どーしろってんだよ。
無茶言う神様だよ全く。
兄ちゃんの友達でなきゃ断わるっての。」
ブツブツとクレアに聞こえ無いような小声で愚痴る。
クレアには素養は有るから出来るだろう事は疑って居ない。
しかし、期間が短過ぎると思っているのだ。
人族史上主義者の進行が早いのだ。
魔法も科学知識も地球系転生者よりは魂の格が低いそうだ。
ぶっちゃけると、転生世界にも格付けや年齢層的な物があったりする。
人の政宗には、流石に魂のとか格付けとかその辺り良く分からないのだが。
詳しい者が言うには。
ようはどの世界にも勘違い野郎とか選民主義者は存在していて。
人族史上主義者集団の大元の転生者は、能力低い分、集団洗脳とか扇動などと言った精神攻撃が得意で。
まだ若い異世界ファーブラならば、元の世界以上に好き勝手出来る、と有る時思い立ち。
行動を始めた。
地球系転生者には流石にそれは通用しない。
けれど現地出身の年若き魂の持ち主達は、悪影響も善影響も受けやすい幼子の様な状態の為、地球系転生者への逆恨み的な攻撃まで始まっていた。
パニマ神様は地球贔屓と言うか、地球に仲良しの神が居て。
地球文化にもハマっており。
特にパニマの加護持ちは、大体地球系転生者ばかりであった。
何処かでそれが判明したのだろう。
結果、要らない動乱を巻き起こす者達が時代の節目に現れる様になってしまったのだ。
今回、とうとう大きな動乱を発生させた為。
基本的に地上に介入し無い神々の、人族史上主義者集団への介入が始まった。
大元の原因を作った者達は、既に魂の転生を封じられたり消滅させられた。
魂の再利用をしても又色々やらかす事が判明したのと。
大元の異世界でも色々やらかす魂を、手違い譲渡してしまったという詫びも入った為の措置だ。
本来、新しい異世界への初期段階魂譲渡。
特に危険思想の者達の魂譲渡は、折角の新たな新世界を破滅させかね無い為、神々の間では罰則事項にあたる。
現在その他世界の神様は、罰としてファーブラの神々の手伝いと。
上位神になるはずだった神格を降格され、初期神の地位に戻ってしまい。
半泣きで、お仕事デスマーチ待った無しだったりする。
まあ、そんなやんごとなき方々の事はともかく。
そんな様な経由で地球の神に手伝いを頼んだパニマ神様。
その関連でストレンジャーの会社の方に強制依頼が来て、政宗が呼ばれたのだ。
そう、次の日のクリスマスに、幼馴染にプロポーズする予定が潰れたのだ。
口にしたら死亡フラグ過ぎるだろ。
俺、異世界から帰還したら。
幼馴染にプロポーズするんだ!
くそう!スゲぇダメっぽいじゃねーか!
はい、深呼吸。
落ち着け、俺。
政宗は、脳内モノローグを止めてクレアの方を向いた。
まだクレアが、飛ばしたアイテムは、帰還して無いみたいだ。
気晴らしに別のことを考えてみる。
クレアは着飾ったら、多分お姫様みたいに綺麗な顔立ちな女の子になるだろう。
いや、すっぴんで質素な服装であれなら、相当なのが出来上がるな。
ここの転生者特典なのか、異世界転生者達でブサイクとか見た事無いな。
他の異世界だと、まるでダイスでランダム設定なんじゃね?って言うくらい色々なのに。
どんだけ日本人好きなんだろ、パニマ神様。
凄くキラキライケメンショタ風なのに、秋葉原系のネタに精通し過ぎて吹いたけど。
あの神様、池袋に行ったら多分きっと囲まれて攫われるな。
お持ち帰り的な意味で。
そうこうしているうちに、コンっとクレアの頭に先程の棒、と言うか小枝が落ちて来た。
苦い顔をして居るから、想定したポイントとズレたのだろう。
「何処に出すつもりだったの?」
「あー、えっと手の平です。」
成る程、まだ集中の練りこみ足らずか。
「時刻設定は?」
「そっちは誤差二分、です。」
「昨日よりは、マシだけどまだまだだね。」
「はあ…すみません。」
語尾に向けてもごもご言ってる。
可愛いなあと思うけど、ここは甘やかす場では無いから無言で頷く。
「さあもう一回やってみようか。」
「は、はい!」
元気に返事をして又修行にもどった。
彼女の修行中は、何も妄想ばかりして居たわけではなく。
周辺に索敵魔法や結界を張って居た。
その日は特に問題は無く過ごせたのだが、たまに敵の追手が近付いて来たり。
魔物が此方を狙う時が有るので念の為だ。
生活魔法で出した炎で鍋を温めながら、焦がしたり鍋を沸騰させ溢れさせ無い程度にぼんやりとクレアは今日の反省点を考えて居た。
時計塔の魔法は、時魔法では上位になる。
けれど、先程のような時間と空間を指定して何かを移動させる、と言う術はクレアは使用した事が無く。
時魔法修行を行う事に、少しワクワクして居たりする。
塔から余り外出する機会が少なかったクレアにとって。
この政宗との冒険自体が夢の様に物語めいて感じられるのかもしれ無い。
チラリと盗み見た政宗の姿。
異国風の顔立ちだが、とてもカッコいい。
鍛えた引き締まった身体。
漆黒の髪と、何でも見通してしまいそうな深淵のような漆黒の瞳。
なのに怖さは無い。
彼は物腰柔らかで、修行以外何より優しい。
あの腕にお姫様抱っこされて移動した事を思い出すたびに、顔から火が出る。
吊り橋効果も有るのだろうが、家族を亡くしたクレアが政宗に依存し始めるのに時間はかからなかった。
しかし、鈍感な政宗はクレアの淡い恋心に気付くことは無かった。
パニマたんマジ日本スキー