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それは起承転結で言うところの、およそ転と結の間(1)

『能力持ち』同士の戦いにもかかわらず、一方的に能力を封じられての絶対的不利なハンディキャップマッチという形で望むことになった彼方との対戦。


さりながら、むしろやはりというべきか、それだけの足枷が付いた状態でも滑は戦闘開始直後から常に優位を保ち続けていた。


初手でいくら相手が自分と同じ『能力持ち』だとはいえ、身体的な構造や耐久度は人間のそれでしかない彼方へ向かい、中身が満タン状態の自動販売機(重量約1トン)を投げつけて直撃させるところから始まり(まあそんな攻撃を受けておいて、目立ったダメージは左腕がグシャッただけで済んでいる彼方も彼方なのだが)、すぐさま反転迎撃に移った彼方お手製、灼熱の炎の壁を、我が身を守る気さらさら無しで突っ切り、二度目の反撃であった火球へ生きた空中炸裂型地雷(ただし炸裂時点では絶命している)に仕立てた鉄道を放り込んで、逆に彼方へ無数のアルミ片を浴びせかけ、恐らく当人も望んではいないであろう防御姿勢を取らせて動きを封じるまでに至ったのは、さすがと褒めて良いかは別として、滑なればこそ出来た所業と言えよう。


そして、

普通に考えればもう、この流れから滑が取るべき行動は、両手を交差させて顎を引き、背を屈めた状態まで追い込んだ彼方へ、守りがどうなど知ったことかとばかり、防御の上からでも構わず、思うさまゲンコツを差し上げるだけ。


普通に考えればもう、そうした流れ。


ところが、

滑はこの期に及んでもなお、その上をゆく。


目先の怒りで頭の中が真っ赤に染まり、理性的な思考などまるでしていないにもかかわらず、滑の体は先天的・後天的に備えられた理屈を踏まえて自動的、最も効率の良い攻撃法を選択する。


ゆえに彼女の振り上げた右拳が彼方へと到達するよりも早く、

まず彼女のもう片方、空いた左手が、


彼方の交差された腕の一方、血塗れの右手首を掴むや、強引に引き剥がす。


無論、こうした守りの上からだとしても、滑の全力を込めた打撃ならばダメージ自体は通る。充分に貫通する。それは分かっていた。


が、それは単にダメージを与えられるというだけ。それでは不足。まるで足りない。


心情的にも、理論的にも。


だからこそ先、攻撃より先、まず守りをこじ開け、吹き飛ばすべき目標をあらわにした。


彼方の頭部を。


二の手、三の手を振るうまでもなく、一撃の威力を最大に活かし、間違い無く相手を絶命させるため。


詰めの甘い攻めなど決してしない。寸分の抜かりも無く確実に殺す。


ある意味、『能力持ち』という部分以上に恐ろしいといってもいい滑の性質。


その性質が導き出した、極めて的確かつ残酷な行動は、そうして無防備状態となった彼方の顔面へ目掛け、致命的な打撃を叩き込む。


本来ならそれで決着していた。他の、別の誰かが相手であったなら。


しかし刹那、


周りにいた蓮春、箍流、靡は揃って、骨の芯まで響くほどの凄まじい震動に、思わず膝が崩れそうになるのを耐えつつ、信じ難い光景を目にする。


あとはただ、剥き出しとなったその顔面へ、滑の右拳が抉り込まれ、また一人分の死体が増えるだけ。


そう思われていたのに、実際には、


滑の右拳は何故か中途、それを阻まれた。


いや、阻まれたという表現は正しくないかもしれない。


何故なら、滑の拳は確かに彼方へ命中していたのだから。


ただ、その命中した場所は、

狙い済ました彼方の左頬ではなく、


彼女の、左拳だった。


そのままでいけば防御を崩され、急所を露出させられ、もろに滑の攻撃を受けるはずだったところを、驚くべきことに彼方は寸でのところで自らも全身全霊を込めた左拳を繰り出し、同じく全身全霊の込められた滑の右拳を、とてつもなくアグレッシブな手段でもって防いでみせたのである。


片や、滑の大和魂(物理)が込められた右拳。

片や、彼方のゲルマン魂(物理)が込められた左拳。


そのふたつが互い、相手の拳を砕かんとする勢いで衝突するや瞬間、電撃のように痺れるほど強烈な衝撃波は、その激突部を中心として周囲の半壊した校舎を揺らす。


瞬刻、


埃の混ざった突風が辺りへ拡散すると、互いに踏み込みの力が強すぎて床材が砕けた足元を、視線は向けずに感触だけで確認しつつ、彼方は薄く開けた瞳で真正面の滑を直視しながら微笑して口を開く。


真正面から、拳と拳。力任せのぶつかり合い。


その緊張感、高揚感、過ぎた現実感が反転した、非現実感に酔いしれて。


「……すごいわあ……やっぱ滑ちゃんは滑ちゃんだわ。どこからでも、どんな立場からでも、確実に殺しにかかってくる……普通のやつは何かひとつ、強力な力を持っていたとしたら、どうしてもそれへ寄りかかっちゃうものなのに……戦い方が一辺倒になるはずなのに……けど、滑ちゃんは何があろうと、手段を選ばない。手段を固定しない。ものすごく思考が柔軟……何にも……自分にすら拘らない……ただその時その時、選ぶことのできるあらゆる策を講じて相手を殺す……考えてるのはそれだけ。思考はシンプルなのに、やることは奥が深い……ああ、ほんと滑ちゃんてば……」


薄気味の悪いほどこころよさげ、吐息交じりの声を漏らす。


だが、


そんな彼方の言葉が終わるのも待たず、滑は、


いつの間にやら後方へと身を大きく反らし、これでもかというほど勢いつけた上体を一気に前方へと、風を切る音もけたたましく押し出すや、まだ口を動かし、しゃべり続けている最中なのは分かっているはずなのに、まさしく馬耳東風。聞きゃあしないで、

笑みに緩んだその彼方の顔面めがけ、火の出るような頭突きを叩き込む。


瞬間、


キューで突かれた球のように頭部を弾き飛ばされ、背骨が折れんばかり後方へ仰け反った彼方は、それでも数瞬と間を空けず、吹き飛ばされたのとは逆方向……前方に向かい、バネ仕掛けのような動きで上半身ごと首を打ち出すと、今度は滑の額へ対し、己が額をぶち当てる。


途端、


滑と彼方。両者の額から火花でも散る如く、ぱっと細かな血飛沫が宙空に、舞った。


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