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それは下級生という名の、歩く絶対危険心霊スポット (2)


その日の昼休み。


珍しくも滑本人が二の足を踏んでいた祟果への「ご挨拶」決行の日の昼休み。


そうはいっても、やはり滑を筆頭にして蓮春、鉄道、箍流の四人は、今日も仲良く上校舎へと向かうドアの前に集結していた。


以前、滑が七雪に会うため破壊したせいで、より強固で無骨な厚い金属製のものへ付け替えられたドアの前に。


余談ながら、


何故、今回はまっとうに昼休みの時間帯などを滑が選んだのかというと、またしても鉄道の怪我(間違いなく怪我なんてレベルで済まされるはずは無いだろうが)を理由に授業を抜け出そうと画策しているのを予見した蓮春が、

「頼むからもう、『とりあえず鉄道かモブ生徒の誰かを撃ったり吹っ飛ばしたりして理由を作ればいいや』っていう流れだけは勘弁してくれ」と、人目も憚らず校門の前で土下座したのが功を奏したのか、


「まあ、恐らく次に巻き添えで天寿を全うするであろうモブは辞意川英知太郎じいかわ えいちたろう君になるでしょうからね。私もあまりこんな語呂の悪いクラスメイトと間接的とはいえ関わり合いになりたくないですから、今回は気分転換の意味も含めて正攻法でいきましょうか」


というかなり薄っぺらな理由で滑が単純かつ、まっとうな手段に切り替えてくれたからである。


昼休みならば純然たる休み時間なわけで、何も無理に理由を作って教室を出る必要は無い。


まさしく正攻法。


というより、正攻法でない手を使うこと自体がまずもって必要なのかどうかで悩ましいのだが、そこは狂人の思考。

下手に深読みしても理解できるはずも無し。


万が一、理解できてしまったらしまったで、その場合はクレイジーサイコピープルの仲間入りをしてしまう。


思考停止することを何かと糾弾する向きもあるが、世の中には時として考えないほうが良いこともあるのである。


さておき、


「それにしてもまた頑丈そうなドアに付け替えられましたね。しかもスライドドアですか。まあ前回の件がありますから蝶番を破壊して侵入されるケースへ対策を取られるのは当然ではありますけど」

「俺の寮の部屋は真逆だけどな……毎朝確実に爆破されるからってんで、もうただベニヤ板一枚を立てかけてあるみてえな状態だぞ……」

「それでもドアノブは取り付けてあるんですから立派なドアですよ。だからこそ私だって毎日きちんと吹き飛ばしているんですから。変な贅沢は感心しませんね」

「……だったら、ドアノブさえ無けりゃ毎朝恒例の爆破は止めてくれんのか?」

「蓮春君、勘違いをしてはいけません。問題なのは『ドアを爆破する』ことではなく、『爆破する』ことなんです。何をし、何を成すべきかの根本を忘れては大義を遂げられませんよ」

「うん……多分そんな感じの返答が来るだろうと思ってたから、無駄だと分かっていても毎度のことながら言うぞ。一回、医者できちんとその頭ん中を調べてもらってこい」


何かに疲れきったような声でそう蓮春が言うのを聞きつつ、滑は返事もよこさず右手へ持ったラージサイズの紙コップからいつものようにルートビア(この日はダッズ)を吸い上げながら、左手へ大振りなドラムバッグをぶら下げて真新しいドアを眺めた。


どこをどう見ても鍵無しで入るのは不可能としか思えない。

そんな堅牢なドアを。


そこへ、


「んじゃ、師匠」


ひどく明るく、あっけらかんとした様子……つまりはいつも通りのノリで、箍流が滑の背中へと話し掛ける。


「ひとつ今日もドカンと派手にいっちゃってくださいよ! やるんでしょ? この前みたいにそこのドア。景気づけに吹っ飛ばしちゃってくださいっ!!」

「あのさ、箍流ちゃん……えらい軽い調子で言ってるけど、この前のも含め、それって立派な器物損壊罪だからね? 犯罪なのに一周回って立派とか言っちゃうくらいバリバリの犯罪行為だからね? てか、ここに入るのだって不法侵入なわけで……何なの? 明らかに自分の主義主張と矛盾してることに気が付かない? 正義の心とかはどこへ行ったの? 旅行中か何かなの?」

「ん? 別に何もおかしいことなんか無いだろ? ヒーローといえば、やっぱ派手な爆発は外せないよ。あ、できれば今度は爆発を背にしてポーズを決めたいかな。贅沢を言えば五色の色違いで……」

「……どこのダイナマンだよ……」


ドアのほうを向いたきりの滑を他所にし、ツッコミも意に介さず物騒な夢を語る箍流へ呆れかえり、嘆息しながらそうつぶやいた蓮春だったが、困ったことに滑の性格を思うとそんな馬鹿げた話も信憑性が出てしまう。


実際、先刻からチラチラと視界に入ってくる滑の持つバッグは、そういった最悪の予想を裏付けているようにしか感じられないのである。


ゆえに蓮春は、


「……時に、滑」


確認せずにはおられなかった。


聞いたところで何らの対処も出来ないと分かっていても、どう滑がこの扉を突破するのかを。


「止めて聞くようなやつじゃないのは知ってっから、そこは諦めてんけど、やっぱアレか? 無理やりドア壊して侵入ってのは変わらずか?」

「うーん……それは少し難しいですね。このドア、恐らく構造的に壁と一体型になっています。壊して入るとなると、それこそ壁ごと吹き飛ばす必要がありますので、ほぼ小規模なビル解体くらいの気持ちで多量の爆薬をセットしないといけません。加減を間違えたら校舎そのものまで倒壊する危険性がありますよ」

「だからそんなデカいバッグ持ってきたのかよ……」


自分の悪い予感が望みもしないのに的中したと思い、蓮春は思わず手で頭を押さえる。


今日も胃痛は絶好調とばかり、みぞおちに走る抉り込むような痛みを味わいながら。


が、


「いえ」


怖いほどに珍しく、蓮春の悪い予感は的を外れた。


「このバッグには何も危険物は入っていませんよ。強いて例えれば……まあ、『お守り』みたいなものですかね」


言いつつ、滑は手に持ったバッグを軽く上下に揺すってみせる。


と、

こうなると逆に蓮春は困惑してしまう。


まず、滑に限って(お守り)などという神妙な観念を持ち合わせているとは想像だにしていなかったことと、それに加えて根本問題が残る。


「……え? じゃあ、お前……今日はどうやって上校舎に入るつもり……?」

「そこなんですけど……」


言うと滑は、やおらバッグを肘まで通してぶら下げると、空いたその手をドアの指掛けに差し込み、


「私の予測が正しければ、恐らく今日は勝手に……」


横へ引くやいなや、


カチャリ。


「開きます」


知らぬ間、開錠されたドアは何の抵抗も無くスムーズに横へとスライドし、壁の中に消えてゆく。


その光景を見ながら、


まさしく絵に描いたような唖然の表情を浮かべる蓮春を、振り返った滑は小首を傾げつつ見つめ返していた。


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