俺、気付いちゃったみたい
「佐奈ーー!!」
「ん?」
走って幼馴染の佐奈の元に駆け寄る。
付け加えるなら美少女で、俺の家の隣に住んでいる、かな。
今は下校の時間。
部活に入っていない佐奈と俺はすぐに帰るのだ。
帰り道が一緒だから一緒に、と思ったのだが佐奈はいつも俺を無視していく。
目を話していたらすぐに教室からいなくなっていた。
「げっ」
佐奈は俺の姿を見ると、低い声を出した。
女の子がそんな声を出しちゃいけないと思うな。
「聞いて聞いてーー!!」
佐奈の横に並び、話しかける。
「誠也、最後の授業からホームルームにかけてずっと寝てたでしょ」
睨みつける佐奈の目からは、若干諦めの色が見える。
「え? 俺のこと見てたの?」
「当たり前でしょ。目の前なんだから」
「あははっ」
数学の授業なんて寝ちゃうに決まってるじゃん。
あんなに数字見てたら目が回っちゃうよ。
そもそも大人になって確率なんてどこで使うのさ。
「ってそうじゃないよ」
俺が走って佐奈の所まで来たのは雑談するためじゃない。
重要なことを知らせに来たんだった。
「実は俺、気付いたんだ」
「……」
「……」
「……」
「……なんだよー、その目」
「だって誠也、この前は「神様と会ってきた」とか言ってきたし、その前は「透視能力を手に入れた」とか……。厨二病も程々にしなさいよね」
中二病って……現に中二なんだからそれって良い事なんじゃないの?
中学二年生にかかるものが、しっかりと中学二年生にかかってるんだから。
ってそうじゃなかった。
「全部成功したじゃん」
「してないわよっ!!」
叫ばなくても良いじゃん。
怖いな~。
「神様とか言ってただの野良猫見せてきたり、透視能力とか言って私の、し、下着の色を適当に大声で叫びまくったじゃない!!」
「え? そうだっけ~~?」
たしかあれは……目を瞑ったら、黒が見えたから「下着の色は黒だー!」って叫んだら蹴られたんだっけ。
そしたら今度こそ、水色が目に入ったからそれ言ったら、また蹴られたんだった。
理不尽だよね。
「ま、それは置いといて」
そう、俺は報告しなきゃいけない。
「実は俺……人の心を読むことが出来るんだ!」
「へ~」
「あ、信じてないだろ!」
これだから佐奈は。
「証明として、佐奈の心を読んでやる」
「あ、誠也、後で数学のノート貸すからちゃんと写しなさいよ」
「え~」
「置いてかれるわよ」
「分かったよ~」
授業を聞くよりはましだけど、写すのもつらいんだよな。
佐奈が書いてくれれば楽なんだけど、それ言うと怒られるからな~。
「ってそうじゃない」
佐奈はすぐ話を変えようとするんだから。
全く。
「今から佐奈が考えていることを当てるからね」
「はいはい」
目を瞑って……って思ったけど、歩きながらだと危ないから開けたままでいいや。
「分かった!!」
「早っ!?」
「凄いでしょ?」
ふっふっふ。
俺の読心術の凄さは、その速ささ。
チーターにだって勝てちゃうぞ。
「今佐奈が考えてることは……」
「考えてることは……?」
「ずばり、ダイエッムグッ!!」
急に佐奈に口元を片手で抑えられた。
と言うより口を鷲掴みされた!?
「んんッ! んー!」
「何で知ってるか知らないけど……その話題出したら……殺すよ?」
怖い怖い怖い。
まるで魔王だ。
魔王佐奈の誕生だ!
とりあえず今は頷こう。
佐奈の目が怖い。
「分かったら良いのよ」
「……はぁ、はぁ。魔王、恐るべし」
「ん? 何か言った?」
「まるで佐奈は魔王だなぅべッ!!」
蹴られた。
丁寧に解説してあげたのに蹴るなんて、やっぱ理不尽だ。
本当に佐奈は魔王だ。
……また蹴られそうだから言わないけど。
「そ、それより!」
そうだ!
魔王がなんだとかどうでもいい。
今はもっと重要なことがあったんだ!
「これで俺が心を読むことが出来るって分かったでしょ?」
「因みにどうやってその能力を使ったの?」
「佐奈の身体を見てたら、ビビって来たんだ!」
「ふ~ん」
「信じてくれた?」
「……」
「……」
「……ってそれ私が太ってるとでも言いたいのかぁー!!」
「えぶはっ!!」
また蹴られた。
理不尽だ。
今蹴られた理由が全く持って理解できない。
酷いや。
「俺はただ、最近佐奈が痩せてきたな~って思ったらビビっと来ただけで、そんな──」
「──え!? 今なんて?」
おおおぅ……。
いきなり詰め寄ってきてどうしたんだろうか。
ちょっと怖い。
魔王よりは怖くないから、門番さんくらい怖い。
あれ?
門番さんって怖いか?
「門番さんは怖くない」
「んなことどうでも良いのよ! さっきなんて言ったかって聞いてんの!」
なんか佐奈が怒りそうだけど嬉しそう。
よく分かんない表情してるよ。
「最近佐奈が痩せてきたなって思ったら──」
「──そ~お~?」
あれ?
いきなり機嫌が良くなった。
よく分かんないけど、取りあえずもう一回言ってみよう。
「佐奈最近痩せたなぁ」
「本当に~?」
口では疑っているようにしているけど、頬ゆるめ過ぎ。
なんか面白い。
もっと言ってやろっ。
「佐奈最近痩せたなぁ! 佐奈最近痩せたなぁ! 佐奈最近やせべっ!」
蹴られた。
何故だ。
佐奈の顔を見てみると……
魔王が再臨していた。
あー。うん。
これは……やりすぎたかな?
「あ! あんなところに不良に絡まれてるクラスメートが!!」
丁度目の前でクラスメートが長身の男に絡まれていた。
佐奈もその方を見た。
「え? ……あれ知香だ」
よしっ!
上手く話を逸らせた。
佐奈チョロいな。
「あ、さっきの仕返しは後でね」
「えっ……」
振り返って言う佐奈。
あ、全然チョロくなかった。
「お~い」
なんか怖いから逃げるようにクラスメートの所に走った。
見つけた時は分からなかったけど、本当に小倉さんだった。
小倉さんって、小さいし大人しいし可愛いから、結構ナンパされそうだよね。
と言うか今されてるか。
「小倉さん、どうかしたの?」
「あ、み、水沢君……」
おどおどしながらこっちを見た。
小動物みたいどなぁ、本当に。
それに顔を動かす度に揺れる髪って凄い綺麗だよねぇ。
今度なんでそんなに綺麗なのか聞いてみようかな。
ってそうじゃなかった。
小倉さんの目の前にいる男を見た。
背が大きいと思ったら、その制服、近くの高校じゃん。
遠目からだと不良に見えたけど、案外違うかも。
ピアスしてないし、タバコ吸ってないし。
制服を乱してるだけだから不良じゃないかなこの人は、うん。
でも不良じゃなくてもナンパはするのかな。
「ねえ、これってナンパですか? ナンパしてたんですか?」
「んだよお前……。彼氏か何かか?」
「いや、違いますけど……?」
と、そこで佐奈が追い付いてきた。
小倉さんに大丈夫?とか話してる。
「なんだ、他に彼女がいんのかよ。しかも結構可愛いじゃねえかよ」
「いや、佐奈も彼女じゃないですけど?」
「あー。姉か?」
「いや。……と言うよりそこは妹? って聞いて欲しかったです」
「いや知らねえよ」
何で俺が弟に見えたんだ?
普通なら兄に見えるでしょ。
だってほら、俺佐奈よりしっかりしてるし。
「それで、ナンパしてたんですか?」
「そればっかだなお前」
「気になるんですよ!」
「ちっ。……してたよ。悪いかよ。ってかお前にカンケーねーだろうが」
やっぱりナンパだったのか。
初めて見た。
生ナンパだ。
スゲー。
「ナンパってどんな感じなんですか?」
気になるなぁそれ。
もしかしたらいつか俺もやることになるんだろうか。
「面倒くせぇ奴だな。何で野郎なんかにと話さなきゃいけねぇんだよ」
「ねえ誠也」
「ん?」
急に佐奈が声をかけてきた。
もしかして、佐奈も気になるんだろうか。
「気持ちを知りたいんだったらさっき言ってた読心術でも使えば?」
「あ、確かに」
そうだな。
今の俺には読心術というものがあったじゃないか。
忘れてた忘れてた。
もう一度佐奈の方を見ると、小倉さんに違う違うと言っていた。
何か誤解でもされている感じだった。
ま、それは別にいいや。
「んで偽不良さん」
「もしかして俺のこと言ってんのか?」
「はい」
「ふざけんなよ!」
あれ?
もしかして偽偽不良だった?
いやいや、そうじゃなくて、偽不良=良だからそれに直せってことかな。
「じゃあ真良さん」
「……どうしてそうなった」
真良ってなんかゴロ悪いな。
じゃあやっぱり偽不良で。
「まあそれは置いといて」
「あーもうどうでもいいや。てか俺ナンパとかもういいから、帰るんで」
「まあまあそれは俺の読心術を見てから。…いや、聞いてから、になるのかな?」
「読心術だぁ?」
まあ驚くよね、普通。
だけど、本当に心を読まれたら、もっとビックリするだろうな。
「じゃあいきますよ?」
「お、おう」
なんだかんだで去らないでくれるし、やっぱり不良じゃないな。
「分かった!」
「早いな、おい」
「驚くのは早いよ」
なんせ今から思っていたことを当てちゃうんだから。
「考えていたことは……」
「……」
「……そこの女子がダイエブルァッ!!」
佐奈に蹴られた。
あれ?
小倉さんと話してたはずじゃ……。
「誠也……?」
怖いよ佐奈。
出来れば二撃目はなしの方向で。
無理?
「ぶへッ!」
「お、おい」
とここで、心優しい偽不良さんが止めてくれた。
でも……
「気にしないで偽不良さん。いつものことだから」
「お、おう。ドエムだったか……」
「え!? そうなる?」
ドエムだなんて心外だ。
俺はただ佐奈が楽しそうに蹴るのを見るのが好きなだけだ。
あ、でも他の人に蹴るのは可哀想だから蹴るのは俺だけにしといてね。
「そうそう、誠也が蹴られるのは日常だから」
「お、おう。ドエスだったか……」
「私ドエスじゃないですよ」
そんな笑顔で言っても説得力ないよ。
まあ佐奈がドエスでも別に気にしないけどね。
「学校でも……いつもこうだから……」
温かい目で見ている小倉さんが付け足した。
なんかその言い方だと本当に俺がドエムみたいじゃないか。
「あ、あぁ」
それを聞いた偽不良さんは引き気味だ。
「俺、もういいか?」
そしてもう関わりたくないようだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
そこで俺は引き止めた。
後少しだけ待って欲しい。
「最後にもう一度、偽不良さんの考えてることを当ててあげます」
「あ、ああ」
佐奈に背中踏まれた状態だけどまあいっか。
このままいこう。
「……」
「……」
「……」
「ズバリ……
『変な奴に絡まれたな』
」
「自覚はあったんだな」
……うん。