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僕と猫と煙と  作者: ささ
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桐生駅から街に向いしばらくすると細い1本道がある。その道を通れば伊田芽麻友の家が見える。伊田芽の家は淡いオレンジ色の家とだけ言っておけば誰もが一目でわかる家だ。道中に多少家などもあるがコンビニやスーパーがないために、人通りも少ない。誘拐するにはもってこいの地形ではあると思う。

 …僕は今その田んぼ道を30分ほど歩いていた。


 30分ほど前に、伊田芽の家の近くでタクシーから降りたのはよかったが、着いたときには夜も更けていた。

 さすがにこの時間になって伊田芽の家にいきなり行くのは気が引けてしまったため。

伊田芽の両親と会い、事情を聞くという予定から。夜の伊田芽の家周辺を調べてみることに切り替えた。

 この30分間、辺りを歩いても変わったものは特になく、わかったことは車でいける街への道は1本しかないという事、夜は静かで街灯も少ない。など誰にでもわかる事がわかり、わざわざ来た意味を考えずにはいられない結果になってしまっていた。

 これ以上歩いても仕方ないことを悟った僕はその場に座り込み、伊田芽麻友との思い出を習性的に思いかえしていた。

 毎日麻友のことを考えるぼくにとってこの作業は自然なことであったが、伊田芽の家の近く、伊田芽の生まれた土地、伊田芽の行方不明になった土地で思い返すというのはいつもと違う悲しさがあった。

 伊田芽麻友との思い出は思い返せば思うほど、重くて仕方がないものだ。そして僕の分岐点となる女性。惹かれてしまった女性。魅せられた女性。とても心の優しい女性。……魔性の女性。

 唯一僕が忘れられない人だ。365日毎日名前をつぶやいていたり、怨んだり、会いたいと思ったり、そんなわけのわからない感情をずっと煮込んでいたら今の僕が出来上がってしまった。

 僕がその場にいてどれくらいが経ったのだろう、何か後ろから声がしてくる。

「すいません、ちょっといいですか?」

 懐中電灯をもった男が近づいてくる、よくみると警察官であった。20代後半だろうかメガネをかけた細身の男で見た目は若い。その警察官はものすごく怪しそうな眼で僕を見ている。

「君ここでなにしてるの?」

「えっと……干渉にひたってたというかなんていうか」

僕の挙動がおかしかったのだろうか、警察官の疑いの目がさらに強くなっている

「こんな時間に一人でいるのはおかしいよね?」

 現在深夜になろうとしている時間だ。真っ暗闇で場所が場所なだけに言い訳が思いつかず正直に僕は伝えることにした。

「あの……伊田芽さんの事件を知ってそれで現場に行ってみようと思って……」

「あの事件もう半年もすぎてるのに?」

「今日知ったんです」

「最近とりあげられないのにねえ」警察官は腕を組みながら僕を見る、明らかに威圧的だ。ニュースをほとんど見ないためにその辺りは本当に無知な自分を呪いたい。

「えっと今日警察の方がうちにきて……あのなんていうのか、僕を疑って聞きにきたっていうんでしょうか、僕はなんもしてないんですけど……」言ってから気づくありのままを話し過ぎた…人間冷静さは大切だ。

「……ちょっと署にきてもらえる?」

かなりまずいと思った僕は財布から運転免許を取り出そうとしながら弁明を続ける。「いやいや僕あやしいもんじゃないですよ、ほら運転免許だって……ないし……」

 警察官は応援呼んでいるようで、諦めた僕は体育座りをして道の端に座っていた。

しばらくするとだんだんとパトカーの音が近づいている。

 随分大がかりだとは思ったがこの警察官はたぶん新人で、伊田芽麻友を誘拐した犯人らしき男を見つけたみたいな事を言ったのであろう、きっと彼は僕と違って正義感が強くて……

 正義感の強い警察官の声とパトカーの音に反応したのかさっきまで人の気配がなかった場所には野次馬達が集まりだした。さすが田舎だ。

 「お前がやったんか」「麻友ちゃんを返して」など聞きたくない声が僕の耳に入ってくる。

 めんどくさくなってきたので僕の体育座りはより一層丸くなった。しばらく丸くなっているとものすごい衝撃が僕の背中を襲う。

 地面に倒された僕は状況把握しようと眼を開けると、泣きながら僕を殴りかかろうとしている男が目の前にいる。「早く麻友を返せ」男は必至の形相で僕を睨みつけている、よく見ると初老を迎えたくらいであろうか、だいぶ年をとっているように見えた。

その初老の男性は倒した僕に対して馬乗りになってさらに殴りかかろうとする。何発か殴られたあとに、その男性は警察官に取り押さえられ

無実の僕はパトカーに乗り警察署へ連行させられた。



無機物な部屋、あるのは味気のないねずみ色の机と椅子。眼の前にには小太りの男と奥に何かを書いている男。火曜サスペンスでよく見る世界だが本当に想像した通りである。眼の前にいる男は僕を永遠と睨んでいるため僕は自分の服についているしまった汚れを落とそうと必死になっていた。

「おい、なんか言うことはないのか」目の前にいる小太り男が怒鳴りだしてきた。

怒鳴りだす男は好きじゃない、うるさいし何より僕の心臓に悪い。思わずビクッと体は反応してしまった。


「だから、本当に伊田芽さんを見つけようと思ってここにきたんですよ」

「うそつけ、こんな遅い時間にそんなことするわけないだろ」

小太り男はもの凄い形相で否定をしてくるので僕はすぐに顔を下に向けた。

「今日知ったから急いできたんですよ。志村さんいなんですか?それか加藤さん」

ぼくも必死であった。加藤に対してさんをつけてしまうほどに。

「…なんだ警察に知り合いがいるのか、ここにはいないからとりあえず今日は泊まれ」小太り警察官は少し驚いたような表情をしていたが、ほとんどどうでもいいのであろう僕の話しはすぐに流された。その後しばらくこの平行線の会話が繰り広げられる。

「ほんとなんも罪ない人間いじめて楽しいですか?訴えますよ」

「お前が怪しい行動するのがいけない。普通あんなところで泣かないだろ。やましいことがある証拠だ」

干渉に浸っているときの鳴き声を聞かれていたのか。最悪だ。

「あの、先ほど僕を殴った人は……」僕は諦めてきていたために他の話題に移すことにした

「あーあの人は伊田芽麻友さんのお父さんだよ。まあ犯人目の前にしたら殴りたくわなるわな。」だから犯人ではない。まあ殴りたくなる件に関しては同感である。僕も犯人を見つけたらどうにかしてやりたい。とりあえず僕も1回は殴るだろう。

伊田芽がもし無事だったらの話しではあるが…


「だから僕は違いますよ」僕が怒鳴った瞬間電話が鳴りだした。小太りの警察官んは受話器を取り応対をしたあとわかりましたと言い受話器を置いた。

「……もう帰っていいよ。すまんかったな。先ほどお前の事を見ていたという人がうちの若い警官に証言をしてくれたのと、加藤から連絡があったようだ。よかったな。」さっきまでの鬼の形相が嘘のようだ…加藤ありがとう。

 太った男はそっけなく部屋から出ていこうとした。あれだけ威圧して疑っておいてそれはないだろう。

 僕は小太り男が部屋から出る前に急いでしゃべりかけた。「あの、伊田芽のお父さんってここにまだいますか?」

「いるけど、なんで?」不思議そうに小太り男は僕を見る。「…少しだけ聞きたいことがあって」少し悩む小太り男は「…本来はダメなんだけど、これで今回の件チャラな」交換条件か…

「…ありがとうございます」

「じゃあこっちこい」

 太った男につれられ、しばらく歩くとそこには保護室と書かれた部屋があった。 保護室へ入ろうとすると、太った男は「お前のことは別のやつがたぶん話してあるから普通に接しろよ」と言い残しさっていった。

 ドアを開けるといくつかのベッドが規則的に並んで置いてあり、奥の片隅のベッドで横になっている男、先ほど僕を殴った初老の男性。伊田芽麻友の父親がいた。

僕は恐る恐る声をだす「こんにちは」

僕の声に気づいた伊田芽の父親は体を起こし僕の方へ向いた。僕に気づいた伊田芽の父親は少し驚いた顔をしたあと頭を下げた。

「……さっきはすまなかった」

「いえあんなとこにいた僕がいけなかったので」

 少しの沈黙が流れると伊田芽の父親が話しをきりだした。

「ところでなぜ君はあんな場所に?」誰もがこの質問だ。ただこの人の質問は重みが違う。世界中で唯一人が得る事ができる権利、だれもその権利は奪えない。恋人でも愛人でも、勿論夫になってもできない。血のつながり。

それ程重い。この男性にだけは偽ってはいけない。まあ、あくまで僕個人の意見ではあるが…

「……伊田芽麻友さんを見つけたかったんです」

 僕は床を見つめつづけた。

「大変失礼なことなんですが、僕は今まで伊田芽さ……麻友さんが行方不明になったのを知らなくて…今日の昼に警察の方から教えてもらいました。それでいてもたってもいられなくなってこの場所まできました。」

「ありがとう、気持ちはうれしいよ。君は麻友の友達かい?」僕を殴った男の声とは思えないような声だ。そして僕にとっては辛い質問であった。

「…いえ、もう連絡先も知らない、ほぼ他人のような関係です。」

 僕は伊田芽の父親を見ることができない。それでも言っておきたい。言いたい事が…いつか言いたかった、言うべきことが。たくさん…

「……ですが大学時代は友人以上の関係であったと僕の中で勝手に思っています。……とても大切な人で僕にとっては今も大切な人で……。…ただ伊田芽さんにとっては昔いた友人の一人であったと思います。それでも僕は彼女に活かされていました。僕を活かしてくれた彼女を探したかった。そして…」

 僕はその一言が言えず終始うつむく。しばらくすると伊田芽の父親は何かを思い出すようにしゃべりだした。

「……麻友は君のこと話してたかもしれないな、麻友が大学のとき嬉しそうに話していたよ。君は狭山君かい?」

「……はい」

予想外の問いかけに、驚いた僕は伊田芽の父親を見た。伊田芽の父親はとても穏やかな表情をしている。

「そうか麻友はいい友人をもっていたんだな。君達の関係はそれなりに知ってるよ。あのときは麻友が悪いことをしたね。母さんから詳しく聞いてる。君が少し気の毒だったよ。でも愛情表現はほどほどにしないといけないお酒もな。要は男は引き際も肝心だ。」

少し説教が入ってきた。

「いえでも悪いのは僕です。」

「浮気をしたのはうちの子だ。…君は何かあったみたいだが、麻友もそのときはしばらくふさぎ込んでいたよ。」…父親には言わなかったのか。

「………」

言葉が出てこなかった、絶対に知られていると思っていたことだけに伊田芽の父親が知らなかったのは予想外であった。「…ぼ」何かを悟ったのだろう僕が言葉をだした瞬間伊田芽の父親は僕の言葉を遮ってしまった。伊田芽の父親に対して僕の声はあまりに弱弱しかった。

「早く君も麻友のことは忘れなさい。さっきも言ったが男は引き際が肝心だよ」

伊田芽の父親は笑ってくれた。



「……嫌です。忘れません。麻友には笑っていてほしいから。だから僕は麻友を探します。」僕はその微笑を受け入れることができなかった。

伊田芽の父親を見ると少し呆れたのか、諦めたかのように伊田芽の父親はしゃべりだす

「来年の2月麻友の誕生日だ。その日に結婚式をあげる予定なんだ。今麻友が付き合っている彼と。それでも麻友を見つけるかい?」

 僕では平生を装えていただろうか、きっと動揺はしていたのだろう。僕の手には力が入っていた。

「……見つけます。夜分にすいませんでした。では失礼します」

 そう言い僕は椅子から立ち上がり部屋からでていく。僕の許容がオーバーしたのだろう、僕は足早に部屋から去って行った。

 

 部屋からでて時計を見るとは時間は午前3時をすぎていた、終電が過ぎていることに気づき、しかたなく僕は再び太った男に警察署に泊めてくれないかと懇願をしに行くことにした。


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