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僕と猫と煙と  作者: ささ
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警察官の二人が帰ったあと僕は携帯を取り出し、大学時代の知人にメールを送ってみることにした。

 メールを送ると、すぐに返信がきた。どうやら知人は外人になってしまったようで文章は「MAILER-DAEMON」と書かれていた。

 その文章を確認して、僕は携帯電話からその知人の勤め先を調べる。データの中にあったか不安ではあったが電話帳内に書かれていて、そこへ電話をしてみる事にした。

頭の中で軽くシュチュレーションを考え、8年ほど前に彼が入社したと言っていたK社へ電話する。

「私、株式会社Cの狭山蒼生というものなんですが、吉田陽様いらっしゃいますでしょうか?」

「はい、なんの御用でしょうか」

 あ、すぐに吉田に変わってくれないのか…この切り替えしは考えておらず、僕は適当な返事を返す。

「……以前吉田陽様から頼まれていた、発注の件なんですけど…」

「…お名前をもう一度伺ってもよろしいでしょうか?」

「狭山蒼生と申します。」

「はい少々お待ち下さい。」

 僕が以前1年ほどやっていた僕の営業の仕事が初めて役にたった瞬間である。


「はい、お電話かわりました。営業部長の後藤です」

 営業部長という言葉に驚きながらも僕は要件を伝える。

「久しぶり、仕事中悪いね。ちょっとさ今からお前んち行くから住所教えてくれない?」

 吉田は会社にいたせいもあり気を使いながらしゃべりだす。

「…………はい、では繰り返させていただきます。群馬県高崎市○○町3-×となります。あ、あと連絡先もお伝えしときます0××-4×××-24××ではよろしくお願いします」

やはり、部長ともなるといろいろ大変なんだろう。とは感じられずにはいられなかった。

「ありがとさん。ではまた」

 久々に話しては見たが、声からはあまり変化というものは感じられず、なつかしさも感動もなかった。

 電話を切ったあと、僕は作りかけのデータをノートパソコンに移動させ外出の準備を始めた。タンスの奥にある服をとりだし学生時代に着ていた服に着替える。久しぶりに着た服はタンスの中の独特な匂いを纏っていた。ノートパソコンをバッグに入れ携帯電話から次に出る電車を調べる。

いつもと違う僕を見ているよもぎとかなでにひとなでをし、僕は5年ぶりに昼間の世界へのドアを開けた。



 電車に乗り30分程すると辺りはすでにビルが多くなってきていた。都会というほどではないが、僕の今住む街に比べると人も多く僕個人としては思い出もあるためか居心地もあまり良くはない。

昔住んでいたので懐かしい気持ちが先行しながらも電車から降りたくないという気持ちも近づくたびに大きくなっていた。

目的の駅で降りた僕はタクシーを拾い、車で約10分ほどかかる住宅街の一軒家に訪れた。表札に吉田と書かれているその家は白と黒の色をメインにした縦長の長方形の今風な形をした住宅であった。僕は家の目の前にあるインターホンをためらいながらを押すとしばらくして「はい」と若い女性の声が聞こえてきた。

「すいません、私吉田陽さんの大学時代の友人の狭山蒼生というものなんですが、陽さんいますか?」

「……主人は今仕事中でまだ帰ってきていないのですが」警戒心のある声である、見知らぬ男がインターホンごしにいればそうなるのが普通な対応だ。

「何時くらいに帰るとかわかりますかね?」

「たぶんそろそろ……また来ていただけないでしょうか?」

「わかりました。えっと伊田芽蒼生がきたとご主人に伝えていただけないでしょうか。」

「はい、わかりました。」

 少しめんどくさそうに女性は答えてくれた。たぶん吉田の奥さんなのであろう

「ありがとうございます。では失礼します」


 しかたなく来る途中に見かけた道沿いのカフェに行くことにした。あの頃の僕だったらきっと来れなかっただろう。その店はこじんまりとしていて、一見さんお断りのような敷居の高さを感じた。カウンターの向こうには高齢の男性が一人雑誌を見ながら座っている。あたりを見ると他に人はいないようだ。「いらっしゃい」と男性は僕を少し見て先ほどまで見ていたであろう雑誌に目を向けた。

店の中は広いというわけではなく、木の色を基調とした落ち着いた雰囲気の店であった。照明は薄暗く、客にもあまり干渉しないスタンスのマスターがいる。よくある喫茶店の一つの店だろう。ただ久しぶりの人ごみで疲れていた僕にその無干渉さはありがたかった。

僕は部屋の隅に座りコーヒーを頼むと、男性は雑誌を閉じコーヒーを煎り始める。その後ノートパソコンを開きまだ残っている依頼された作業を始めた。数時間もすると仕事も終わり納品日にはどうにか間に合った。

コーヒーのおかわりを注文したあと、各社にしばらく耳の手術で仕事を受けられないという適当な嘘を各社に伝えノートパソコンの電源を落とした。

 携帯の時刻を見ると午後8時を過ぎたところで、その液晶画面には5年振りに親以外からの着信履歴が5通ほどのこっていた。

 リダイヤルを押すとその携帯番号の持ち主は、昼に聞き覚えのある声で怒りをあらわにしている。「おまえ今までなにやってんだよ!」昼の丁寧な対応が嘘のようだ。

 「近くのカフェにいるよ。ここコーヒーがうまいね。店の名前は……四角カフェってとこ」 僕はメニューから店名を見て答える。

「そうじゃなくて……そっち行くからちょっとまってろ」と吉田はあきらめたようで、大きくため息をついた。

「あいよー」と僕は適当に返事をしておく。

 5分ほどすると小太りで中年に差し掛かろうとしている男が現れた。吉田陽だ。最初はだれかと思ったがよく見ると大学時代の面影が顔にのこっていた。

 僕は昨日会ったかのように「おつかれー」と言いながら手を振ってみる。

 吉田はものすごい勢いで僕に近づき

「おうおつかれ、それで……今まで何してたんだよお前は連絡もよこさないし」

 吉田は僕を睨みながら僕の目の前の椅子に座った。

「いや……ほらメールしても返ってこなくてさ、なんていうか……その……」

「お前が先にメールアドレス変えたんだろ、俺が前アドレス変えてお前に送ったらメッセージエラーだし、電話をしてもまったくでない。明らかにお前の問題だ。」

 …そういえば、そんな時期の記憶があるようなないような……と僕が思い出していると、吉田はメニューを見てカフェラテを注文していた。

「そっか、まあいいじゃんまた会ったわけだし」僕が適当に話題を変えてはみたが

「よくねーよほんとに、連絡ぐらいよこせ。」と、彼の怒りは収まっていない様子であった。「うん、ごめん」素直に謝ると、彼はため息をついてあきれ返っていた。

「……それでいきなりどうした。昔のことまだ気にしてるのか?」

「いや、それは……まあ気にしてるけど、その件じゃない。伊田芽の行方不明だっていう件なんだけど」

「あれ、お前が犯人?」

 自然の流れで発せられた言葉ではあったが、冗談だとしてもひどいのではないだろうか。

「違う」

 僕は断固として否定した。

「そんなことするくらいならもう一回告白してくるよ」

「お前はかわんねーなー」吉田はさらに呆れてるように見える。

「どうにかしたいもんだよ…それでさちょっと協力してくれないかな」

「嫌だ、俺は伊田芽のことあんま好きじゃないし、何より仕事ある」

 即答であった期待はあまりしていなかったが断られてしまった。それでも他にあてがないので僕はお願いを繰り返す。

「時間はそんなにとらせないからお願い。

川井さんと安達の連絡先と今住んでる場所教えてくれない? ね?」

僕は手を合わせながら下を向き、吉田をちらちら見ていると彼は何かを察して寂しそうな顔付きになった。たぶん呆れた向こう側の感情なのだろう。憐みだろうか…

「……安達のは知ってるけど、川井さんはわかるか微妙なところだぞ。ってかお前2人と話せるのか?会いづらいってレベルじゃないだろ」


「まあね確実に嫌われてるし、でも一番近い二人ではあるから話し聞きたいんだ。」


「…1週間くらい待ってろ、とりあえず安達には言っとくから。どうにか川井さんの連絡先も入手しておく」

 少し悩んだあと吉田は安達の連絡先と住所を紙に書き僕に渡してくれた。

「ありがとう、吉田今日はお詫びに俺がおごってあげるよ」

「いやいいよ、お前どうせ無職だろ?」

 吉田は少し笑みを浮かべながら僕を見下している。やはり体格は変わっても性格は昔と変わらない。

「残念。今はフリーでいろいろ仕事してるよ。ほれ名刺。ただしばらくは休業だからよろしく。ではまた一週間後に」僕は名刺を吉田に渡しお会計をすませ、急いで伊田芽の実家がある桐生市に向かった。


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