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都心の通勤ラッシュは恐ろしい。特に電車の中は恐ろしい。我先にと人を押し退け、降りる人優先というルールを無視し、人の足を踏んでも平気な顔で、座りながら化粧をする人もいる。正に地獄絵図。
そんな地獄だが、ある人にとっては天国と呼べるのかもしれない。本当に呆れる。
「ちょっとおじさん。なにそこの女子高生のお尻触ってんの?痴漢だよ。犯罪だよ」
私は見知らぬ中年男性の腕を取り、上に持ち上げた。この人が痴漢ですよー、とアピールするために。
この男、先程から目の前にいた可愛らしい女子高生の尻を触っていたのだ。初めこの女の子が震えていたからどうしたのかなって観察していた。すると後ろの男の手が怪しい動きをしていることに気付く。
「なっ、私は何もしていないぞっ!」
「嘘言うんじゃないよ。証拠だってある。この腕は、あんたのだろ。もう誤魔化せないよ」
気付いた私は、即座に男の手を取ったりしない。まず携帯で、男が尻を触っているところを写真に収めた。袖の色と腕時計から、「その腕は自分じゃない」と、まず言い逃れはできないだろう。
「さっ、次の駅で一緒に降りようか。おじさん」
男は顔を青ざめ、今にも死にそうな顔をしていた。慈悲は無い。
◇◇◇◇◇◇
次の駅に降りると直ぐに、駅員に痴漢男を受け渡した。
「あ、あのっ」
さて次の電車に乗るかと回れ右をすると、そこには先程の女子高生がいた。背は私より一頭身低く(私の背は170cm)、ライトブラウンのパッツンロング、目はタレ目。どこぞのギャルゲーから出て来た女の子のようだ。
「助けてくれて、ありがとうございましたっ」
「いいのいいの、同じ女として、痴漢にあっているあなたを見捨てるなんてできないしさ。それに、同じ学校みたいだし」
「あっ…本当だ」
彼女と私の制服は同じ高校のものだった。白いブレザーとスカートに、青いリボン。そして黒いニーハイは「春妃已女子高校」の物だ。
「えっと、その、もしよかったら私と登校しませんか?」
「いいよ。でも行き先同じだから、そう言わなくても一緒に登校することになるけどね」
「あっ、それもそうですね!私ったら!」
天然なんだろうか。動作がいちいち可愛い。
「わ、私、一年A組の本田花音といいます。よろしくですっ」
「おー、私と同じクラスじゃん。私は藤華零。よろしく」
季節は春。今日は入学式を終えての次の日だった。そんな直ぐにクラスメイトの名前を覚えられる訳もなく、改めて自己紹介から始まった。
「その…できれば、私と友達になってほしいな」
「喜んで」
私は即答した。
実は春妃已女子高校に進学したのは、母校の中学校からは私一人しかいなかった。友達もゼロからのスタートで心細かった私には、嬉しいことだ。しかもこんな美少女が。
花音も私と同じ境遇らしく、一層絆が深まった。
因みになぜ私がこの女子校に進学したか。その理由はまた今度話そう。
はじめましての方ははじめまして。
そうじゃない方は明日あなたの家に私が行きます。嘘です。
どうも、Onyxです。
二作品を並行して書いているため、私が受験生であるため、更新が遅い時もあります。それを踏まえた上で、この小説をよろしくお願いします。