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Twin Crew Little Star

 三十分後、並んで眠る二人を起こすと、お姉ちゃんが肩やら首やらを怖いぐらいにバキボキ鳴らして撮影の準備にとりかかる。


 お姉ちゃんは自分で子供服を作ってはネットで販売している。

 ブランド名である『Twin Crew Little Star』

 という名前はもちろんサンリオのあの双子キャラクターから拝借して、

 さらに星良と星里香をかけたもので、やたら長いのでいつの間にかお客さんからはTCLと略されるようになった。

 小さなブランドだけどご贔屓さんもそこそこついてきて、姉妹<でいいのだ>三人何とか生活するにも困らずにやっていけている。


 ネットショップは写真が命なので、撮影には照明機材も使って本格的に撮る。

 撮影場所は全てがお姫様仕様のお兄ちゃんの部屋で、カメラマンはお姉ちゃん。モデルは私とお兄ちゃんで賄う。


 正直、お兄ちゃんだけででいいんじゃないかとも思うけど、

 サイトの写真が全部金髪美少女だと濃度が濃すぎて、違うニーズに応えてしまうらしい。

 ちなみにお兄ちゃんが学校に着ていってる服は全部うちの在庫品で、

 特に線引きはしていないけど、基本的にふわっとした甘い雰囲気の服が多い。 


「セリカちゃん、クーラーもうちょっと下げていい?」


「賛成賛成。さっきから頭ん中蒸れてかゆいし、かけないし」


 季節は十一月も半ばだけど、撮影の時はクーラー&扇風機は必須。

 狭い部屋で照明を使うので室温がぐんぐん上がるからだ。

 そんな中、照明のハレーションで表情が消えないためのメイクをして、

 お姉ちゃんの注文にしたがって髪型をつくる。

 細かなこだわりなんかはお姉ちゃんだけど、基本的には自分ひとりで全てやって、

 あとはお兄ちゃんとお互いチェックし合う。

 小二の時分からやっているので二人とももう馴れたものだ。


「セリカちゃん、首のところボタンとまってないよぉ」


「いいのいいの。どうせファー巻いたら見えないんだし」


「ダメだよぉ。上のボタンがとまってないと、下の方がたるんじゃうでしょ」


 もぉー、と言いながら私の着ているベロアワンピースのボタンをとめてくれる。

 普段のお兄ちゃんはあんなだけど、撮影となるとちょっと気合いが入る。

 私がちょっとでも手を抜いたことしているとこうやって目ざとく指摘してくるのだ。


「お兄ちゃんは撮影になると厳しいなー」


「も、もぉー! それはお仕事だからでしょぉー! いっつもいっつもセリカちゃんはぁー!!」


 そう言って、照れ照れで怒る様子がかわいいので撮影の度に私は、あえて手を抜いてみせる。


 そして、いつも天使天使と(私が)言っているお兄ちゃんだけど、モデルをするときのお兄ちゃんはそれとはまた質の違ったものになる。

 おそらく本能なんだろうけど、カメラに前に立つと潜在するかわいさをすべて引き出してくる。

 商品として見せる百パーセントの仕草と表情は、迂闊にかわいいなどという言葉で括るのがためらわれるほどに幻想的だ。

 それは天使の「はね」というよりは、「つばさ」という表現がしっくりくる。

 絵本作家もいいけど、やはりお兄ちゃんにはモデルが一番向いていると思う。


「いいよセイラ。今度はオシャマな笑顔ちょうだい。いいね、かわいい。じゃあ、今度はカメラの向こうに目線はずして、少っしだけ目を細めて……そうそう。セリカ、ぼっとしてないでブーツも履いてスタンバっててよ」


「あ、うん」


 いかん。うっかり見とれてしまった。

 普段、お兄ちゃんに対する愛情表現はかなり過ぎたものを感じるけど、仕事の時はお姉ちゃんも別人になる。

 お姉ちゃんも、モデルとしてのお兄ちゃんには刺激を受けている。

 モデルを始めたころはかわいく着せることがメインだったが、いつのころからかお兄ちゃんの輝きに負けないような服を作ることが課題のひとつになった。

 ある意味お兄ちゃんとお姉ちゃんの真剣勝負だ。

 だから毎シーズン、目玉になるメインの商品のモデルは必ずお兄ちゃんがこなす。

 ただ、そこにとらわれ過ぎてお兄ちゃんにしか着こなせない服を作ってしまい、泣く泣く手直しを入れることもある。

 まあ、そういう意味では私は蚊帳の外なわけだけど。

 しかしファインダーとお兄ちゃんしか見ていないのに、真後ろの私の状態まで把握してるとは、昨日一昨日とミシン踏みっ放しで寝ていない人間の感覚とは思えない。


 撮影は冬物ということでベロア生地のものが多く、スカートの下も見栄えがするようにパニエで膨らませていたりして通気性が悪い。

 少し下品だけどお股が蒸れる……。


 きれいなお洋服が着れて嬉しいなんて余裕はない。

 撮影中はただの作業。あくまで仕事。

 今回なんかはお姉ちゃんの作業工程が大きくずれ込んだからこんな時期にやってるけど、本来季節を前倒ししての作業なので、いつもならこれ九月末とかにやるから、命からがらだ。


 日が暮れ始めるころ、ようやくすべての撮影が終わり、女子三人(何か?)キャミソールにパンツ一丁でぶっ倒れる。

 普段だとこういうだらしないのは絶対に許さないお姉ちゃんだけど、

 冬物の撮影の時だけは「何ならパンツ脱いじゃってもいいからね」となる。

 それぐらいに過酷な現場なのだ。


 順番にシャワーを浴び、晩ご飯は私とお兄ちゃんの好きなものを出前でとるというのが撮影の報酬。

 お寿司とピザ、それに冷蔵庫に作り置きしてあったポテトサラダを前に、お疲れ様と乾杯。


「いやー、本当に毎度のことだけど二人ともお疲れさん。感謝感謝だよ」


「本っ当にこんな季節に熱射病とか笑えないからね。児童虐待だよ」


「でも、お姉ちゃんがお仕事してくれてるから生活できるんだし、これぐらいは平気だよぉ」


 出たよ。ナチュラルいい子ちゃん。


「ほんと、同じ双子なのに天使と悪魔だね」


「本当にセリカちゃんは天使だよぉ」


「お兄ちゃんごめん。ピュア濃度高すぎて私消えちゃいそうだから」


 私にそう言われ、碧い目をパチクリ、「?」と金髪を揺らす天使ちゃん。


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