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天使の休息。


 土曜日。

 学校が休みなので、昼前に起きて一階のリビングに下りる。

 テーブルの上にカップ麺とコンビニおにぎりがふたつずつ並んでいるのを見て、

 お姉ちゃんの仕事が修羅場を迎えているのを察す……ん?

 何だあれは。

 うちのリビングに天使が寝ている。

 それは日だまりの中、長い金髪をフローリングに広げ、白いワンピース姿で幸せそうにすーすーと寝息をたてている。

 お兄ちゃんだった。


 そばに本が開いた状態で置いてある。

 おそらく日光浴をしながら本を読んでいるうちに眠ってしまったんだろう。

 秋の日差しが、広がった金髪を後光のようにきらきらと輝かせている。

 出そうになった溜息を飲み込むほどに美しい。

 こんなに美しいものが、我が家のリビングでこんなに無防備な姿で……。

 けしからん。


 触れるのもためらわれるその姿をひとしきり網膜に焼き付けると、

 私もその足元でごろんと横になる。

 なるほど、程良く暖まったフローリングは思った以上に心地良い。

 眠たくなるのも無理はない。

 しかし、私は眠るために横になったわけではない。

 高鳴る胸を押さえると、いちにのさんで、ごろり寝返りを打つ。


 純。

 白。


 ラッキーパンツだ。

 お姫様パンツではなく、お尻にフィットした質感の木綿パンツを私はラッキーパンツと呼んでいる。

 白い生地の向こうには、これまた白っぽいお兄ちゃんの肌色が透けて見える。


 しかしこうやって間近でパンツ眺めながらいつも思うんだけど、

 お兄ちゃんは本当に男の子なんだろうか?

 もしかしたら知らない間になくなっちゃってるんじゃないだろうか?

 お兄ちゃんにはいつまでも変わらぬままでいてほしい。

 魔法でも呪いでも薬でもいいから、変声期も成長期も何事もなかったかのように今のまま無事に乗り越えてほしい。

 そのせいで将来お兄ちゃんが働けなかったとしても私が食べさせる。

 そう考えると、今からしっかり勉強して、後々は上場しているような大きな会社に勤めなけらばなるまい。

 夢だけでは食べていけないのだ。

 

 そんな未来予想図を描いているときだった、

 「ン……う~ん」と悩ましげな声をあげてお兄ちゃんが寝返りを打ったのは。


 なんてことだ。 

 咄嗟にお兄ちゃんの足をかわしたら、スカートの中、視界が白一色になってしまった。

 お家で手軽に雪山遭難。

 ホワイトアウト。

 一足飛んでここは天国。

 お尻から桃のボディソープの匂いがするけど、どういうことですか?


 ってか、こんなところこんな距離で見たことないよ!

 なにこのひだまりクロッチ!

 そしてこの距離からでも判明しないお兄ちゃんの性別!

 誰だ! こんなのつくったの! 逮捕だよ!! 


 しかし何にしてもこのチャンス……ものにしなきゃ妹が廃るよね!

 お兄ちゃんだけど意識さえなければ関係ないよねっ!

 見た目は子供、知識は大人の妹探偵がたったひとつの真実を見抜いちゃうんだからね!!


 そうやって私の盛り上がりが頂点に達したところでタイミング良く、

 いや悪く、リビングの電話がトゥルルと鳴く。

 やばい!

 いくらお兄ちゃん相手でも、こんなのいいわけできない!

 私はスカートから脱出すべく慌てて頭をあげ……おっ?

 そのとき、一瞬何かふにゃりとした感触が頭の先に当たった。

 ワンピースのスカートから頭を抜くと、目の前で股間を押さえて悶えている天使がいた。


 どうやら『ある』ようだ。



 一時を回ったころ、お姉ちゃんがふらふらと部屋からリビングに出てきてテーブルに突っ伏す。

 私はカップ麺にお湯を入れ、三分後に揺すり起こしてそれを食べさせる。


「セリカ、私もうダメかも知れない」


 麺をすすりながらお姉ちゃんがつぶやく。


「どうしたの?」


「うちのリビングに天使が見える」


「大丈夫。私にも見えてるから」


 ひとしきり悶絶したあと、お兄ちゃんは再び昼寝を続行した。

 野生だと真っ先に死ぬタイプの動物だ。


 そして野生だとそういう動物を見逃さない肉食動物もいる。

 お姉ちゃんはカップ麺をすすり終えると、

 三十分後に起こしてと私に告げてお兄ちゃんの横に寝そべると、

 躊躇なくお兄ちゃんのお尻を擦りながら気持ちよさそうに眠りに落ちた。


 裏山けしからん。


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