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天使の給食。


 四時間目の授業が終わり、その日の給食の時間。

 机をくっつけた私の向かいで、お兄ちゃんは黒糖パンを両手で掴んで小さなお口でモフモフくわえている。

 さっきから全然減ってない。

 ずっと眺めてたいぐらいにかわいい。


「ねえ、セイラ」


「ふぁに?」


 パンとじゃれあったまま、お兄ちゃんが目線をこちらに向ける。


「花咲と友達にならないの?」


「ふにぃー」


 何その返事。

 りんごジャム塗ってパンと一緒に食べるよ?


「それはお友達になりたいけどぉ、ボク花咲君に嫌われてるみたいだからぁ……」


「なんでよ?」


「そんなのわかんないよぉ……」


 そう言って、またパンにかぶりついては、ふにぃーと鳴いた。


 私は黒糖パンをリスのように抱えるお兄ちゃんを置いて、アルミトレ―に給食を載せるとそのまま席を立つ。


「セ、セリカちゃん、どこ行くのぉ……」


 目を潤ませ、捨て犬のような目でこちらを見上げてくるお兄ちゃん。

 そんな顔にくじけそうになる心を剛鬼にして、私はそのまま花咲の真向かいとその隣りに座っている男子の元まで行くと、席を譲ってくれるようお願いする。

 最初は嫌な顔をされたが、セイラのお願いだというと気持ち悪く頬を染め、快く譲ってくれた。


「何だよお前」


 さっきまでドッジボールの話で盛り上がっていた花咲は不機嫌な声をあげるが、

 それには答えず私は斜め向かいの席でもくもくと黒糖パンを齧る。


 しばらくすると、ぼっち給食に耐えきれなくなったお兄ちゃんが、

 自分の給食を載せたトレーを手に恐る恐る引っ越してくる。

 空いている席は私の隣り、即ち花咲の真向かいしかないので仕方なくそこに座る。


「だから何なんだよお前らは!」


 ますます苛立つ花咲に対して、私はそこで初めて切り出す。


「ねえ、セイラと友達になってよ。あ、でも付き合えとか言わないでね。無理だから」


「言わねぇよ!」


「よかった。じゃあ、早速だけど何の話しよっか? ドラマ、アニメ、グルメ、ショッピングあと何?」


「どこの衛星チャンネルだお前は! だいたいそいつとは友達になんねぇよ!!」


「だから恋人とかは無理なんだって」


「そうじゃねぇよ! ってか誰だよお前」


「それマジで聞いてんの? セイラとセリカ、双子の美人姉妹って言えば小一から大学生まで男子学生の憧れの的だよ?」


「後の方それやばくないか?」


「セイラの友達がムリだって言うなら、下僕でいいよ。上履き舐めて、ランドセル持って、給食のデザート差し出して、あと何できる?」


 そこまで言ったところで袖口をちょいちょいと引っ張られる。


「セリカちゃん、そういうこと言うのやめてよぉ」


 お兄ちゃんにそう言われ周りに視線を向けると、他の男子供がデザートのグレープゼリーを手に、ギラギラとした眼差しでお兄ちゃんを見ていた。

 中には自分のはすでに食べ終えたため、隣りのクラスにまでかき集めに走るバカもいる。

 それはさて置いて、私はもう一度花咲に突っかかる。


「なんで? この美少女のどこが気にいらないの? もしかして好きな女の子には意地悪しちゃう系?」


「そうじゃねぇよ。はっきり言うけどな、そんなふわふわした格好で学校に来るのも気に入らないし、そんな恰好しておきながら自分のことを『ボクぅ』とか言うのも、正直頭おかしいんじゃないかって思う」


 そう言われたお兄ちゃんは、器の中の里芋の煮っころがしを寂しそうに転がしている。

 ってか今日の給食、黒糖パンに煮物ってどういう食べ合わせなんだ?

 ビタミンだけが食事じゃないぞ。 


「ご、ごめんね花咲君。ボ……ワタシもう自分の席に戻るねぇ」


 そう言って、トレ―を持って申し訳なさそうに立ち去ろうとするお兄ちゃん。

 私はお兄ちゃんがトレーを落とさないように片手でそっとその肩を引きとめると、もう片方の手で机をばんっと叩く。


「ちょっと今の言い方ってないんじゃない? ふわふわした格好って随分と雑な言い方してくれるじゃない。女の子が自分に似合うおしゃれして何が悪いの? セイラにこの服が似合ってないっていうならその言い方も受け入れるけども、そうじゃないよね? ジャンパースカートとニーソのこの絶対領域の神々しさがあんたにはわかんないの? この下のパンツだってもっのすごっくかわいいんだから。それと、セイラがボクっ子で何が悪いんのよ。こーんなにかわいいのに『わたし』じゃなくて『ボク』なんだよ? このかわいさがあんたにはわかんないの? あんた本当に男なの?」


 さすがに最後のセリフには、花咲もイラッとした反応を見せる。


「も、もういいよぉセリカちゃん。それに何でボクのパンツのことまで知ってんのぉ……」


 モジモジしちゃって。んなもん、見たからに決まっているでしょうに。


「わかった」


 そう言って花咲は腕を組むと、


「確かに見た目だけで好き嫌いを決めるのは俺のポリシーにも反する。友達になるかどうか、考えてやらんこともない」と続けた。


「ほ、本当ぅ!?」


 お兄ちゃんの顔にパッとお花が咲く。


「その代わり」


 そう言ってにやりと笑う花咲。


「帰る時、俺のランドセル持て。あと毎日給食のデザート俺にくれ。ってか俺の言うことは何でも聞け」


「ちょっと、それさっき私があんたに言ったまんまじゃない! 何よ俺の言うこと聞けって! そんなの……」


「いいよぉー」


 おい。

 お兄ちゃんは、早速、目の前のグレープゼリーを気前よく花咲に差し出す。


「ちょっとセイラ!」


「いいんだよぉ、セリカちゃん。花咲君。上履きも舐めるぅ?」


「お前プライドとかないの?」


 花咲に言われ、「何々、それおいしいのぉ?」と言わんばかりに、

 にへらと首を傾げるお兄ちゃん。

 

 その日の放課後から早速お兄ちゃんは自分のランドセルを背中に、

 花咲のランドセルをお腹に抱えながら下校する。

 もちろん、それで花咲がお兄ちゃんに愛想よく話しかけるなんてことはなく、

 ただ男子の集団の後ろをお兄ちゃんがへろへろへらへらついて歩いてるだけだった。


 何度もやめさせようとしたけど、お兄ちゃんは頑なに私の言うことを拒み、

 逆に花咲の仕打ちをものすごく嬉しそうに受け入れるのでどうにもできなかった。


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