ハナサキ ミチル。
二時間目。
私は算数の授業を受けながら、窓際の席でぼーっと校庭を眺めていた。
学校の授業のペースは遅いので、夏休みに入るころには教科書に載ってるような内容はどの教科も最後のページまで頭に入っている。
ってか、こんなところでつまずいている奴は、この先どうやって社会に貢献していくつもりなんだろうかと不思議で仕方がない。
校庭では四組が体育で男女混合ドッジボールをやっている。
いや、正確には混合できていない。
ドッジボールのコートの中で男子達が揉めているのだ。
声は聞こえなくても原因はわかる。
お兄ちゃんだ。
「姫宮さんはウチのチームだ!」
「何言ってんだよ! セイラは俺が守るんだっての!」
「お前、どさくさに紛れてセイラとか呼んでんじゃねぇよ!」
「僕は前回姫宮さんと違うチームだったからいいよね」
「勝手に決めんなよ」
「じゃあ一層、姫宮さん以外の女子チームVS男子チームwith姫宮さんでどう?」
目下、私のそんな脳内アテレコがピタリとはまる争いが繰り広げられている。
あいつら皆バカだ。お前達が大好きなお兄ちゃんがすぐそばで困っていることに全然気付いていない。
男子というのは、いつだって目の前の欲望に対して直接手を伸ばす以外に頭が働かない低脳な生き物だ。
サルだサル。
そして案の定、女子から刺すような視線を浴びるお兄ちゃん。
こんな感じだからお兄ちゃんは、下心のある男子を数に入れなければクラスではぼっちだ。
給食の時間はいつも私が出張サービスで一緒に食べている。
私が同じクラスだったら、アホな男子どもからお兄ちゃんを守り、もう少しうまく女子の輪の中に入れてあげることもできるだろうに。
ちなみに、お兄ちゃんは世の中的に女子なので体育の着替えももちろん女子と一緒だ。
ただ、五年生ともなると個人差はあれど、女子は部分的にそれなりに成長してくるわけだけど、
そんな中で平然と着替えているお兄ちゃんは、もしかしたらもう男の子として手遅れなのかも知れない。
そのまましばらく校庭を眺めていると、ひとりの男子が割って入り、
お兄ちゃんの手を引いてコートの外に連れ出した。
なるほど、確かに外野ならどっちのチームだろうがいさかいも起きにくい。
花咲充。
あのクラスでお兄ちゃんを意識しないただ一人の男子だ。
逆を言えば、あんなかわいい子相手に何も感じないなんて、どうなんだろうとも思う。
花咲はそのすらりと長い手足に、耳が隠れるぐらいのサラサラヘアー、スポーツ万能、イケメンと揃えばそりゃ女子からも大層な人気で、
じゃあウザいワンマン野郎かというと、サッカーやバスケなどの団体競技では一歩引いたところから指示をとばし、見事な采配を振るう。
その為、花咲のいるクラスは球技大会では負けたことがない。
よってからに、男子からの信頼も非常にぶ厚いという出来杉くんだ。