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しめきり。

 十二月。

 今年も一年で最も気を遣う季節がやってきた。


「セリカちゃんはサンタさんになにお願いするのぉ?」


 目の前の無邪気な発言に胸が苦しくなる。

 真実を隠している自分への罪悪感と、この歳になってまだサンタの存在を疑わないお兄ちゃんの純真さにキュン死にしそうだよ。


「ああ、うーん。何にしようかな。お兄ちゃんは何にすんの?」


「ひみつぅ。へへへっ」


 へへへ……かわいいな。お譲ちゃんパンツ何色?


「去年って何お願いしたんだっけ?」


「去年はユキだったじゃない」


 テーブルの上にシチュー鍋をどっかと置きながら、私の質問に答えるお姉ちゃん。


「あ、そうだっけ?」


「そうだよぉ。ボクがウサギが欲しいですってサンタさんにお手紙書いたら、セリカちゃんもウサギって書いててびっくりしたんだよぉ。やっぱり双子だねぇって」


 ああ……思い出した思い出した。

 お兄ちゃんの無垢で高価なクリスマスプレゼントにお姉ちゃんが頭を抱えていたもんだから、私もお兄ちゃんに合わせてプレゼントを変更したんだった。


「でもセイラ。そろそろサンタさんにお手紙出さないと、クリスマスに間に合わなくなっちゃうから早めにお手紙書こうね」とはお姉ちゃん。


「そうだよねぇ。でもボク何て書けばいいか迷ってるんだよぉ……お手紙の締切りは二十日なんだよねぇ?」


「あ、えっと、そういえば、今年は温暖化の影響もあってサンタさん早めに出発するみたいだから十五日までがいいって言ってたかな~?」


 お姉ちゃん、今年はあせってんなぁー……。

 温暖化でサンタに困ることがあるのかはさておきだけど、

 そこまで勘ぐらないのがお兄ちゃんだ。


「そっかぁ。わかったよぉ~」


 「十五日十五日……」と口の中で歌うように呟きながら、

 お兄ちゃんは少し背伸びしてカレンダーの『15』を赤丸でぐりぐりと囲むと、

 その下に『サンタさん お手紙しめきり!』と書いた。


 かわゆ過ぎる……。

 もう後ろから抱きしめて、この腕でラッピングしてしまいたい。



 晩ご飯の後、自分の部屋に引っ込んで間もなくすると控え目にドアがノックされる。


「セリカ、ちょっといいかな」


 予想していた訪問者の声に、どうぞと返事をする。

 お姉ちゃんはお盆に紅茶とクッキーを載せて入ってくると、それを床に置いた。


「プレゼントのことでしょ?」


「さっすが、我が妹」


「お姉ちゃんがわざわざお茶をいれて私の部屋まで来るなんて、頼みごとするときだけだもん」


「ままっ、そう言わず召し上がってくださいな」


 二人分のクッションをだして、お姉ちゃんの向かいに女の子座りする。

 普段はあぐらだけど、それはお姉ちゃんがものすごく嫌がる。 


「いやぁ、実はというか何というか」


「お兄ちゃんの欲しいものを探れって言うんでしょ」


「いやぁ、去年はバタバタしちゃったからね、早めに手を打っときたいのよ」


「それは別にいいんだけど、もうそろそろお兄ちゃんに現実を教えてあげるべきなんじゃない? もう来年小六だよ?」


「だけど、あんな無垢な瞳で『サンタさん』なんて言われたら、これは守っていかなくちゃってなるよね!」


「わからなくもないけどさぁ……」


「なによ? んじゃ、セリカが教えてあげなよ。お兄ちゃん、実はサンタっていないんだよーって」


「なにそれ? 私に舌噛んで死ねって言うの? そんなひどいこと言うくらいなら、私今からフィンランド行って本物のサンタの育成に励むよ」


「ああー、そうやってセイラは妖精になっていくのね」


 もう、妖精王でも大魔法使いにでもなればいい。

 今想像してみたらすごくかわいかったし。


「そう言えばセリカはいつからサンタクロース信じなくなったの?」


「え? ああ、お姉ちゃんとお兄ちゃんと三人で過ごした最初のクリスマスからかな」


「うぇ、初っ端から?」


「覚えてる?」


「そりゃ覚えてるわよ。後にも先にもあんなめんどくさいクリスマスなかったもの」


 そう言ってお姉ちゃんは困った顔をしながら懐かしそうに笑った。


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