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四枚税込990円。


 朝、学校の正面玄関で靴を履きかえていると、お兄ちゃんが一通の封筒を手にしきりにに首を捻っていた。


「どしたの? セイラ」


 学校ではお兄ちゃんとは呼ばない。

 何でかって、お姉ちゃんがどうやったのか、お兄ちゃんを女の子として入学させたから。

 何より、お兄ちゃんがあんな人間形成が未熟でがさつな男子供と同類なんて断じて認めないから。


「また、下駄箱にお手紙が入ってたんだよぉ。誰かポストと間違えたのかなぁ?」


 何だその発想。

 私はお兄ちゃんの手から手紙を奪い取ると、わたわたするお兄ちゃんをよそにその場で開封。検閲。

 いいのだ。これはお兄ちゃんを守るために必要なことなのだから。

 えっと何だって、


 『はいけい 姫宮星良さま ぼくはきみが好きです。

 きみのことをかんがえるとむねがどきどきしてしまいます。

 きみはきっと天使の生まれ変わりだと思います。

 毎日毎日きみのことをかんがえてしまいます。

 よかったらぼくと恋人になってください。 

                   五年四組 吉永大地』


 近年稀に見るひどいラブレターだ。

 ひらがな多すぎだろ? 『かんがえる』ぐらい漢字で書けっての。

 ラブレター書くのに辞書引く手間も惜しむような奴が、お兄ちゃんを好きになるなんて厚かましいにもほどがある。舌噛め。

 毎日考えてしまいます? 私なんてこの世に生を授かったその瞬間、いや、お母さんのお腹の中にいるころからずっとお兄ちゃんのこと考えてるっつぅーの!

 あと、生まれ変わりじゃなくて、天使現役だっつぅーの! 氏ネっ!


「誰宛てだったぁ?」


 そう言って、シャンプーの香りと共に私の手元を覗きこんでくるお兄ちゃん。

 あんた宛だよ! という突っ込みは心のポッケにしまって、


「ん? ああ、何か間違いみたい。間違い手紙。間違い電話的な?」


「やっぱり。じゃあ、ボク返して来」


「ダメ!」


 これには思わず強い口調になる。

 前に私のいないところで告られたことがあったのだが、そのとき散々困った挙げ句に俯いてしまったお兄ちゃんの態度に、それをOKサインだと勘違いした男子がいた。

 そしてその誤解は光の速さで全校に広まり、その日の放課後にはお兄ちゃんの元に学校の約半数の男子が訪ねてきた。

 土下座して涙ながらに懇願する者。

 親の預金通帳と印鑑を持ってくる者。

 彫刻刀(丸刀)片手に自殺をほのめかす者まで現れて、ちょっとした問題になってしまった。

 小学校の校則に、『生徒同士の交際を禁ずる』というものを加えさせたお兄ちゃんはすでに生きる伝説となり、それがまたお兄ちゃんの神聖化に拍車をかけている。

 そんなこんなな具合なので、私はこの場で地雷を撤去しなければならないのだ。


「あ、ううん。私が封開けちゃったんだし、あとは私が何とかやっとくからセイラは気にしなくていいよ。早く教室行こ」


 手紙の吉永とやらにはあとでスクールカーストというものについて話さねばなるまい。



 学校の階段をあがる時、私は必ずお兄ちゃんの後ろに立つ。

 外でエスカレーターに乗るときもそうする。

 なぜか。

 もちろん、それはお兄ちゃんのパンツをのぞかれないためだ。

 だって、こんなかわいい子のパンツなんてみんな見たいに決まってる。

 なのにお兄ちゃんはそこら辺ほんと無防備だから、見ていてハラハラするし、ハアハアする。

 今日だって、なにこのフリルスカートにフリルパンツ。フリフリじゃないですか。ここにお姫様がいるよ?

 ってかお姉ちゃん、私のパンツは四枚税込990円のプリントパンツ買ってくるのに、お兄ちゃんのこれ、私のパンツ四枚がかりで挑んでも負けちゃうんじゃないの?


 三階にあがるとお兄ちゃんは五年四組、私は三組に別れる。

 突然だが、実は四組には呪われた伝説がある。

 このクラスの男子は全員二十歳を迎えずに死ぬ。

 もしくは酒と薬と借金に溺れた、真っ暗闇のどん底の掃き溜めの、とにかく何だか最低な人生を送る。

 そんな伝説。

 私が今作った。

 だってこんな仕打ち、そうでも思わないとやってらんないじゃない!


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