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やくびょうがみとてんし。


 『あるところに ひとりのおとこのこがいました。

  おとこのこは まいにち ともだちがほしいなと

  おもってすごしていました』

 


 『あるひ おとこのこが むらのなかをあるいていると 

  こえをかけられました。

 

  「かみのけが きれいだね」

  「まるで てんしみたいだね」

  「ともだちになろうよ」


  おとこのこは うれしかったけど

  すこしだけ こまりました。

  ぼくは てんしなんかじゃないのに』



 『さいしょは ちょっとこわかったけど

  それでも やっぱりおとこのこは うれしくて 

  まいにち ともだちのうちに あそびにいきました』



 『おとこのこは どうすればともだちを

  よろこばせられるのか かんがえました。

  ともだちが のぞむことは なんでもしようと おもいました。

  でも おとこのこは なにをやらせても だめでした。

  ともだちとの やくそくひとつ まもれません。


  「こんなこともできないの?」

  「こんなことならともだちになるんじゃなかったよ」

  「なにがてんしだ やくびょうがみ」


  おとこのこは もうともだちのうちに 

  さそわれることはありませんでした』



 『おとこのこは しかたなく うちにかえることにしました。

  おとこのこは きれいなおんなのこと いっしょにすんでいます。

  そのおんなのこは いつもあかるくて かがやいていて

  そんな おんなのこのことが みんなはだいすきです。

  おとこのこも もちろん おんなのこのことが だいすきです』

 

 

 『おんなのこの ぽけっとには 

  いつも きらきらひかる きれいなこながはいっていて、

  いつも それをまきながら あるきます。

  それをあびると みんなが しあわせになります。

  おとこのこも しあわせになります

  だから おんなのこは ほんとうの てんしです』



 『おとこのこも おんなのこの まねをしようと

  じぶんの ぽけっとに てをいれますが なかはからっぽです。

  なにもありません。

  なにももっていないので

  だれもよりつきません。

  それどころか なにをやっても 

  みんなに めいわくばかりかけてしまいます


  「てんしだけ いればいいのに」

  「やくたたずの やくびょうがみは いなければいいのに」


  みんな そうおもっています。

  おとこのこも そうおもいます。

  おとこのこが いっしょにいると 

  おんなのこも きらきらのこながまけなくて こまってしまいます。

  そうすると みんなもこまってしまいます。

  せっかくのきらきらが だいなしです』



 『だから おとこのこは 

  だれのじゃまにも ならないように、

  もりのおくで しずかにくらすことに しました。

  もりのおくは くらいかもしれないけど

  どうぶつもたくさんいるのでへいきです』



 暗い夜の森の絵が添えられたそのページには、リスか何かを描こうとして途中で諦めた感じのものがあった。

 そして私がその数ページ先をめくったのは、たまたまだった。

 そのページに挿絵はなく、ページの右角に小さな文字でたった三行。


 『ぜんぜんだめでした。

  ぜんぜんやくにたちませんでした。

  ぜんぜんきらわれものでした』

 

  

 その白いページには、一度紙がふやけて乾いたあとが点々と散らばっていた。


 それが何なのか考えるより先に、

 その点々に重なるようにパタパタと私の涙が落ちる。


 お兄ちゃんと鷲宮達との関係はとっくに終わっていたんだ。

 なのに、私はお兄ちゃんの寂しさも気遣いも知らずに、自分ひとりで楽しんでた。

 お兄ちゃんから解放されたとか、そんな気持ち、全部……全部伝わってた。


 私は最低のバカ女だ。


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