絵本ノート。
しばらくしてお姉ちゃんがお風呂の支度をしに下に降りていく。
部屋の時計を見上げると、もう八時を回っていた。
時計からふと視線を落としたとき、
床に置かれたままのお兄ちゃんのランドセルが目に入る。
私はそれを持ち上げ、お兄ちゃんの机にのせると自分もイスに座る。
ランドセルの中には教科書は入っていなかった。
代わりに中から甘い香りが漂ってくる。
中に入っていたのは、
食パン一斤
苺ジャムとブルーベリージャム各一瓶
カップ麺二個
チョコレート一枚
ポテチ一袋
バナナ三本
甘い香りの原因は少し皮が裂けたバナナだった。
そして、おやつというより食糧をかきあつめたようなこのラインナップに私は首を傾げる。
他に何かないかとランドセルを覗くと、底の方でノートが一冊たわんだ状態で貼りついていた。
取りだ出したノートを開いて、私はすぐにそれが何なのかわかった。
お兄ちゃんの絵本ノートだ。
悪いなと思いながら、少しだけ見せてもらうことにする。
最初のページからパラパラとめくっていく。
色鉛筆で描かれた明るく柔らかいタッチで、
ページの左側に挿絵、右側に文章が添えられている。
絵はお姫様や王子様を始め、アリスのような女の子が出てくる話、
ネコが出てくる話、頭に紙袋をかぶった人が出てくる話。
どれも、その時その時お兄ちゃんが心を動かされたと思われるものがお話の中に登場する。
それは絵本というよりは、脚色された絵日記のようだった。
お姫様は少し花咲に似ていた。
そのままページをめくり続けると、後半のページで手が止まった。
過ぎたページを戻る。
そのお話が始まる最初まで。
最初のページはすぐにわかった。
今までの絵と色使いが全然違う。
黒と紫をベースにした背景。
それにミスマッチな金色の髪をした女の子が寂しげに描かれていた。
タイトルページはなく、いきなり話は始まる。




