表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/48

大切なもの。

 

 その日、晩ごはんを食べ終わり、

 リビングのソファでバラエティ番組を子守唄にうつらうつらとしているところに、


「セイラ、ストーップ」


 というお姉ちゃんの声で、私は目を開いた。


「ふぇ?」


 とかわいい声のした方を見ると、

 お風呂に向かうべく着替えを抱えたお兄ちゃんの姿。


 あぶない。うっかりタイムをうっかり寝過ごすところだったよ。


「うしろ、何かついてるよ?」


「うし……ろぉ?」


 お姉ちゃんにそう言われて、着替えを抱えたまま、

 くるくるとその場で回転しだすお兄ちゃん。

 バカな犬みたいで非常にかわいい。


 お姉ちゃんがお兄ちゃんの肩を掴んで回転を止めると、

 スカートの裾んところにしゃがみこんで何かをはずす。


「何これ? クリップ?」


「ああー。えと、今日学校で使ってて、ずっと探してたんだよぉ。こんなと

ころにくっついてたんだねぇ。へへへっ」


「セイラらしいね」


 そう言って笑ったお姉ちゃんがローテーブルの上に置いたそれは、

 プリントの束なんかを挟むために使う黒いダブルクリップだった。


 こんなもん何に使うんだろうと思いながらも、

 お兄ちゃんがお風呂に旅立ったので四十秒カウントを始める。


 ――――。


 二十五秒ぐらいまで数えたのは覚えている。


「セリカちゃん。セリカちゃん」


 二の腕の辺りを暖かい感触に揺さぶられて目を開けると、

 湯上りほかほかのお兄ちゃんの姿が目の前にあった。


「お風呂空いたいよぉ」


「寝過ごした!?」


「え、わかんないけど。何か見たいテレビあったのぉ?」


 テレビなんてどうだっていいんだ!

 世の中にはもっと大切な尻があるんだ!!


「お兄ちゃん、もう一回お風呂入ってきなよ!」


「な、何でぇ?」


 最近の私は弛んどる。

 ここ数日、遊び疲れてはお兄ちゃんの脱衣シーンを見逃し続けている。 


 今日という日は二度とやってこない。

 今日というお兄ちゃんも二度と戻らない。

 自分専用のデジカメを持たない今は、一日一日の成長を丁寧に網膜に焼き付け、

 脳内メモリーに蓄積していかねば。


 お兄ちゃんの出汁がきいたお風呂の中で、私はそうケツ意を新たにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ