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たりたり。


 お兄ちゃんにああは言われてもさすがに心配で、鷲宮とやらと付き合いだすようになった最初の何日かはお兄ちゃんを尾行した。


 かわいい子には旅をさせろなんていうけど、

 要は少し世間に揉まれてこいってことでしょ? 

 冗談じゃない。

 ってか、お兄ちゃんのどこ揉む気だよ世間は。

 とにかく旅をさせるにはうちのお兄ちゃんはかわいすぎる。


 鷲宮の家はとにかくでかくて、金持ち臭かった。

 敷地の長辺の端から端まで歩くのに小一時間かかる。

 というのは言い過ぎだが、小一分くらいはかかるくらいにはでかい。

 窓ガラスの一枚でも割ってやろうかしらと思うくらいにはでかい。


 そんな屋敷と呼ぶ方が相応しいような家で、

 初日は門扉から玄関までの道のりを、売られていく仔牛のようにドナドナとしていたお兄ちゃんだったが、

 二日目には生後二時間のインパラくらいになり、

 三日目には初めて巣穴から顔を出したプレーリードッグくらいにはなっていた。

 やはり『ダーウィンが来た!』に取材に来てもらおう。


 ちなみに『ダーウィンが来た!』史上一番かわいい動物はスカンクだ。

 そしてそれを見て「スカンクかわいいよぉ~……」と涙するお兄ちゃんが、

 哺乳類史上一番かわいいのは言うまでもない。


 とにかく、鷲宮邸へ向かうときはいつもそんな様子のお兄ちゃんだったが、

 夕方我が家に帰ってくるときには、新しい顔をもらったアンパンマンみたいにピカピカと輝いていたので、それを見て私もようやく安心することができた。


 そうすると、自然と私の方も自分のクラスの友達とばかり放課後の毎日を過ごすようになっていった。


 これがまあ想像以上に楽しく、

 それこそ家にランドセルを置くなりショッピングモールに出かけたり、

 友達の家に遊びに行ってゲームをしたり、

 くだらないトークに華を咲かせたりと、

 たりたり三昧の小学生ライフをフルに満喫していた。


 普段からこういうことにお兄ちゃんを連れていけたらいいんだけど、

 小五は小五でそれなりにコミュニティを築いていて、

 そこではムーミン谷からやって来たようなお兄ちゃんはなかなか入っていけない。


 それでも何度かお兄ちゃんを連れてクラスの友達と遊んだことがある。 

 お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに一生懸命周りにテンポを合わせようとしているんだけど、途中であきらめてしまい、

 最後にはいつも隅っこでひとり本を読んでいたり、

 皆と離れたところでひとり遊びしていたり、

 アリの行列にビスケットをあげていたり、

 そんな残念ないたりいたり具合になっていしまう。


 夕陽の中、ひとりジャンケンをして勝った負けたと笑っているお兄ちゃんを見つけたときには、その顔が本当に楽しそうで、私はマジで泣きそうになった。


 だから、私はそんなお兄ちゃんを見るのが忍びなく、

 早めに友達の輪を抜けてお兄ちゃんを連れて帰るようにしていた。

 しかし、じきにそれも気まずくなってきて、

 いつの間にかお兄ちゃんと遊ぶ日と友達と遊ぶ日を分けるようになった。


 それがここ最近は、

 「私のいない間お兄ちゃんはどうしてるだろう」など一切気にせずに、

 腹の底から目の前のことにバカ笑いして楽しんでいる。


 そういうのは本当に久し振りで、

 正直私はどこかで解放された気持ちだった。


 一日が終わるのが本当に早く、私は毎日家に帰るころにはくたくたになっていた。


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