ダーウィンが来た。
その日。
十一月も最後の週を迎えたある木曜日。
「セリカちゃん、今日もボク鷲宮さんたちと遊んで帰るからねぇ」
「あ、うん」
そう言うと、お兄ちゃんは女の子の集団に向かって走っていく。
――――――。
驚いたことに。
まことに驚いたことに。
お兄ちゃんに友達が出来た。
一般女子の。
それも同クラ。
と言ってもだ。
お兄ちゃんも昨日今日始まったぼっちじゃない。
それが急に解消されるには、何らかのきっかけがあるわけで。
お兄ちゃんは全然気付いてないだろうけど、そこはやっぱり『花咲君』の存在だと思う。
何てったって今まで数々の女子が挑んでは無残に散っていったあの花咲と、
給食を食べたり、日によっては一緒に帰ったりしているのだ。
ここは無駄に嫉妬するよりお兄ちゃんと仲良くなって、花咲にうまく自分を売り込んでもらおうという算段だろう。
その考えを私は決してせこいなどとは思わない。
あざといメス犬とは思うけど。
お兄ちゃんはお兄ちゃんで、人気者の花咲といつも遊べるわけではないし、
花咲以外からの友達申請は天地がひっくり返るような気持ちだっただろう。
お兄ちゃん曰く、友達は『友』『達』で複数系だから二人以上で初めて友達なのだそうだ。
「花咲さんは、し、親友だけどぉ……」
そうもごもご言って顔を赤らめた。
少しイラッとしたので、じゃあ私はなにかと訊いたら、
「妹だよぉ?」と普通に返ってきた。
せめて頭に、「かわいい」とか「かけがえのない」くらいは付けて欲しかった……。
まあそんなこんなな具合で、お兄ちゃんのいくところに妹の影有り。
私もその仲間に入ろうと思ったのだが、お兄ちゃんは私の両肩に手を置くと、ふんすとわずかに鼻息を荒くして真剣に言ったのだ。
「あのね、今までセリカちゃんのお友達と遊んだことはあったけどね、ボクひとりでお友達をつくったことなかったからね、えっと、まずボクがちゃんとお友達になってから、それからね、セリカちゃんがボクのお友達のお友達になって欲しいんだよぉ」
そう言いきってから、
「えと、言ってることわかるかなぁ?」
と弱気に訊いてきた。
普段、他人に意見を述べることが極端に少ないせいか、お兄ちゃんのその日本語表現は幼稚園児並みだったが、そこは私もお兄ちゃん暦十一年なのでだいたいのニュアンスはわかった。
要は誰かのおまけではなく、自分ひとりの力で、自分の魅力で、友達を作りたいとそういうことだ。たぶん。
まあ、きっかけは花咲なんだけど、この際そこはどうでもいい。
そんなことよりお兄ちゃんが自立しようとしていることが、とんだ感動ドキュメンタリーだ。
切ない気持ちと嬉しい気持ちと心配な気持ちとが私の中で綱引きならぬ、棒倒しをしている。
言うなれば、巣立ちを見守る親鳥の気持ち。
ぜひ、『ダーウィンが来た』で取りあげて欲しい。




