おふるぉ。
ショッピングモールから帰っての夕食終わり。
お風呂が沸き、いつも通りお兄ちゃんに一番を譲ったところで、
ふと私の頭の中で今日の花咲の言葉がリフレインする。
「セリカもセイラと風呂に入るだろ?」
だろだろだろだろ……(リフレイン)。
そう言えばいつからだろう? お兄ちゃんと一緒にお風呂に入らなくなったのは。
昔はお風呂が沸いたら当たり前のように二人でお風呂場に向かっていたはずなのに……。
もしかしたら意識してるのは私の方だけで、お兄ちゃんは何とも思ってないのかも。
「久しぶりにどう?」みたいなノリでいけるんじゃない?
ほら、今日超ごきげんだし。
お兄ちゃんの反応がノーだったら、それはそれで「冗談ダヨ!(てへぺろ☆)」って済ませればいいし。
構えることないって、
小五だよ?
兄妹だよ?
フツーフツー。
…………。
小五で。
兄妹なのに。
すげぇ……。
そうこう考えている内にリビングを出たお兄ちゃんを私は慌てて追いかける。
そして、お風呂場へ向かって廊下を進むその背中にナチュラルに声をかける。
「お、お、お、おでぃっ」
……いきなり噛んだ。
「なにぃ?」
その邪気のない声に、私の中で後ろめたさがむくむくと湧き出す。
「あの、その……ね」
……何だ私、手のひらにものっそい汗かいてる。
「い、い、いっしょに、」
ここで急遽私の中で妹裁判が開廷される。
裁判参加者はいつものごとく、
『妹としての私』『小学生としての私』『淑女としての私』
通称、妹議システム。
淑「はい、そこまで。今なら引き返せるわ」
妹「うるさい黙れ!」
小「お前こそ黙れ! よく考えろ、しくじったらもう二度と兄妹に戻れないぞ!」
妹「わかってるよそんなこと……私を誰だと思ってるんだ」
小「わかってるんだったら……」
妹「それでも……それでも! 夢ってのは口に出すところから始まんだよ!」
淑「口に出したら終わりってこともあるでしょ」
妹「…………」
小「おい、なに弱気になってんだよ!」
淑「はげますの!?」
小「ちょっと言われたぐらいであきらめんなって!」
妹「でも、ほら別に今日だけってわけじゃないしさ……」
小「今日やらない奴は明日もやらねぇんだよ!」
淑「……(ドキッ)」
大混乱だった。
ダメだ。
心を無にしなきゃ。
――――シャワー。湯気。背中。お腹。肩。うなじ。腰。お尻。もも……。
全然ダメだ! 私の欲望、果てしない!!
「セリカちゃん?」
そのとき、私の中でなにかがプツンと切れる音がした。
「お、おにいひゃん! い、いいいいっひょに、お、お、おふるぉに入っ――」
「セリカちゃん!」
「ごめなひゃい!」
淑「そりゃダメだよ」
小「何考えてんだよお前」
妹「オワタ……」
泣きそうだ……。
恥ずかしさと絶望に俯くと、廊下の床に雫がぽたぽたと落ちる。
その雫は透明ではない。
私の穢れた心をそのまま絞り出したかのように赤く濁って見える。
ってか、実際赤い。
なにこれ?
「セリカちゃん、は、鼻血ぃ!」
へ?
お兄ちゃんに言われて鼻の下を拭うと、手の甲に薄く赤いのが伸びた。
「ティ、ティッシュ! ティッシュ持ってくるからね! 待っててね!」
そう言って、お兄ちゃんは着替えを放っぽりだすとリビングへとペタペタと走っていった。
お兄ちゃんが来るまでの間、私は鼻血を垂らしながら、
ほっとしたような情けないような気持ちでひとり廊下に佇むのだった。




