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プリクラ。

 ピロピロと色んな音が混じるゲームコーナーで、

 いざプリクラ機(以下プリ機)を前にして緊張のご様子の花咲さん。


「何もそんなガチガチになんなくても……」


「ぜ、全然余裕だし。証明写真で試したことあるし」


 そもそも余裕アピールの意味がわからんし、証明写真て……。


「大丈夫だよぉ。楽しいよぉ。ほらぁ」


 そう言ってお兄ちゃんが、かわいらしいシールでデコった自分のプリ帳を花咲に見せる。


 それを受け取りペラペラと数ページめくると花咲は、


「あ、うん。楽しそう」と棒のような声で、すぐにそれをお兄ちゃんに返した。


 花咲もお兄ちゃんのプリ帳を見て気付いたのだろう。


 お兄ちゃんのプリ帳に貼られてあるシールを分類すると、


 『A・私とお兄ちゃん』


 『B・お兄ちゃんとお姉ちゃん』


 『C・私とお兄ちゃんとお姉ちゃん』


 『D・私とクラスの友達』


 以上、この四パターンしかない。


 中でもDの占有率が異常に高く、言われなければ誰もが私のプリ帳だと思うだろう。

 それでもお兄ちゃんが欲しがるので、私が友達と撮ったシールをあげるのだが、

 毎回「ありがとぉー!」と喜ぶと、早速それを自分のプリ帳に貼り付け、その微妙なコレクションを最初のページから幸せそうに眺めるのだ。

 そんなお兄ちゃんを見てると胸がきゅーっとなって、めちゃくちゃに抱きしめたくなる。

 世界のどんな名作劇場の主人公よりも健気で、かわいい。


 ちなみに過去に一度だけお兄ちゃんを連れて、クラスの友達何人かと一緒にプリクラを撮ったことがある。

 でも、それが最初で最後だった。

 理由は簡単で、他の子がどんだけかわいく盛ったところで、お兄ちゃんが純度100のかわいさがそれらをねじ伏せてしまうからだ。


 どう撮ったところで、自分たちがお兄ちゃんというお姫様を際立たせるためのモブキャラに見えてしまうため、多感な時期の女子たちは皆そこで、これから先の自分の「女としてのあり方」について考え込まされることになり、そんな見たくもない現実を毎回お金を払って突き付けられるなんてまっぴらということになるのだ。


 しかし、お兄ちゃんにそんな面倒な乙女心を読み取れる処世能力が備わっているはずもなく、お兄ちゃんはそのとき撮ったシールはプリ帳には貼らず、クリアファイルに挟んで大切にひきだしの奥にしまってある。


 時々それを引っ張り出してきては、何回も同じ思い出を私に語って、「またみんなで行きたいねぇ」と言ってくる。

 そんなお兄ちゃんに「そうだね、また行こうね」とその場限りの返事する私は悪い子でしょうか?

 もう不憫過ぎて、お兄ちゃんの頭の中に小さな消しゴムをかけてあげたい。

 プリクラにひとりだけ不細工に写る機能があればいいのにね。



 さてと、いざプリ機の中に入ると、花咲が目をきらきら乙女にしながら、「すっげぇー」を連発する。


「しかしさぁ、花咲なら一声かければ一緒にプリクラ撮りたい女子なんてごまんといるんじゃないの?」


「いや、なんかあいつらギラギラした目で見てくるから恐いんだよ。やたら触ってくるし。それになんか恥ずいし」


 そこら辺はお兄ちゃんと似た境遇なんだな。


「お兄ちゃん、あれ出して」


「あ、うん」


 返事をしたお兄ちゃんが服とお揃いの花柄の手提げバッグから、大きめの布を一枚取り出すと、それをひとつの照明を隠すようにひっかける。


「何してんだ?」と花咲。


「この機種、明るさを一番低くしても全然明るいから照明隠すの。このままだと表情が照明で飛んで真っ白になるからね」


「俺は飛んだ方がいい」


 ここで私は溜息ひとつ。


「さっきも家でも言ったけど、学校以外で『俺』は禁止。あと、さっきお兄ちゃんのプリ帳見たでしょ? あんな顔真っ白だったら誰が誰だかわかんないじゃん。お兄ちゃんは別格としても、私もあんたもそれなりの器量に生まれて来てんだから恵まれない連中と同じようにごまかす必要はないの」


「恵まれないって……」


「さて、一回四百円だから、ひとり百円ずつ出してください。足りない百円は私が立て替えるから、あとで小数点以下を切り捨てて私に返してください。さて、ひとりいくら返せばいいでしょう? はい、花咲さん」


 私に指差され、あからさまに苦い顔をする花咲。


「あ、えと、ご……」


「ご?」


「いや、ろく……」


「ろく?」


 すごいなこいつ、どんどん釣り上がっていくよ。


「ひとり三十三円だよぉ!」


 まるでお利口な犬がご主人のフリスピーをキャッチしたときのように、嬉しそうに答えるお兄ちゃん。

 さすが授業中に「算数大好きです!」と答えて、女子から良い子ちゃんビッチのレッテルを貼られてるだけのことはあるね。


 いざ料金を投入して、スタートすると花咲が不思議そうな声で訊いてくる。


「この『デカ目』ってボタンはなんだ?」


「よけいなとこ触るなよ花咲。それしたらグレイ星人か入学前にプチ整形にしたけど失敗した女子大生みたいな目になるぞ」


 という私の言葉と同時に、ぴろりーんという間抜けな音がする。


「あ、押しちゃった」


「ひとりん時に試せよ! キャンセル効かないじゃないこれ!」


 そしてその後、出来上がったシールに愕然とする私をおいて、大喜びする二人。


「すげぇ! やっぱ証明写真とは全然違うな!」


「ねぇー? すごいねぇー、面白いねぇー、花咲さんもセリカちゃんも目おっきぃよぉ!」


 ……いや、むしろなんでこれお兄ちゃんだけ目変わってないの?

 この神の申し子の美しさは、機械のセンサーすら欺くことを拒むというのか。

 もうお兄ちゃんがプリクラだよ。

 プリティークラッシュだよ。

  

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