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オンリーワン。


「あんたやる気あんの?」


 私は玄関のドアを開けるなり、そこに立つ花咲に言い放った。


 今日は花咲が密かにあこがれていたという、『女子同士の休日の過ごし方』というやつを経験させるべくスケジュールを組んだ。

 というのに、我が家に集合した花咲の格好といったらいつも通りの『男の子』なのだから、こちらのやる気もなくなるというものだ。


「か、借りてる服はリュックに入れてある。向こうに行ってから着替える」


「何でそんな面倒くさいことすんのよ」


「学校の奴らに見つかったら困るだろうが」


「いいでしょうが、もうこの機会にカミングアウトしなよ」


「タ、タイミングってもんがあるだろ」


「まあいいよそこは。どれ、リュックの中見せてみ」


 花咲が降ろしたリュックを開けると、グレーのシンプル目の袖なしドレスが出てくる。

 胸のところにラインストーンをお花に見立てたワンポイント、ウェストのところはリボンで後ろで絞れるようになっている。

 そんな一着。

 以上。


「おい花咲、他には?」


「え、これだけだけど」


「…………」


「な、何だよ。何で黙るんだよ!」


 私は首をこきこき鳴らすと、


「まず訊くけど。靴はどうすんの?」


「履いてるだろ」


 花咲の足元を見ると、「俺、早く走れるぜ!」って感じの銀色のごつめのスニーカーに、くるぶし丸出しソックスの足が突っ込まれてあった。


「あんた、この服にその靴履いていくの?」


「ちょっと合わないか」


「ちょっと? あんたのちょっとはどんなだ? どんだけスケールでかいんだコラ」


「く、靴なんて何だっていいだろ」


 ああ……ダメだこいつ。


「お兄ちゃんパス」


「え、あ、う、うん」


 後ろで今のやり取りを見ていたお兄ちゃんが、少し戸惑いながら私と入れ替わりに前に出てくる。


「え、えっとね花咲さん。靴はね、スニーカーじゃない方がいい……かも知れないよぉ? せっかくかわいいお洋服着てもね、靴がそのダ……違ったらお洋服も靴も……そのぉ~……。そう! 両方が可愛そうでしょぉ?」


 可愛そう? と眉根を寄せる花咲。

 しかし、ものっそい言葉選んでんなぁお兄ちゃん……途中の『ダ』はなんて言おうとしたんだろ。


「あとね、靴下もそれじゃちょっと寒いかなぁ……って」


「あ、全然平気!」


 何の元気アピールだよ!

 じゃあもう裸足になれよ!!


「あ、うん。えと……でも、何かもう少し長いのを履いた方がいいかなぁ……って。見てる人がちょっと寒そうだなぁって思っちゃうかもだから。あとね、上も寒そうだから何か足した方がいいかも知れないかもなぁ……って」


 さりげなく小分けにして喋っているお兄ちゃんだが、これをひと言でまとめるなら「全部ダメ」ってことだ。

 しかし、そんなお兄ちゃんの気遣いを悟れるような花咲なら、そもそもこんなことにはなってないわけで、


「あ、寒くないかってこと? 大丈夫大丈夫。この服の下にちゃんとシャツ着るから」


 そう言って、今着ている赤と黒のブロックチェックのネルシャツをつまんで見せる。


「あ……う……」


 お兄ちゃんが花咲のあまりのダサさに次に発する言葉を失う。

 おそらくいくらオブラートに包んだところで無駄だと悟ったのだろう。

 さすがのお兄ちゃんも何かをあきらめたように目を伏せる。

 花咲はとんでもないファッションモンスターだった。


「花咲。ちょっと上あがれ」


「いや、でも買い物……」


「いいからあがれ」


 私は花咲をお兄ちゃんの部屋にあげると、レジャーシートを広げて、頭からつま先まで花咲のコーディネート通りに着替えさせると姿見の前に立たせる。


「ほら、よく見ろ。これがあんたの今日のおしゃれコーディネートだ。どうだかわいいか?」


「う、うぅ……」


「あと、最後にこのリュックを背負えば完成だ。ほら、背負え」


「か、勘弁してください……」


「隣駅のショッピングモールに行くだけとはいえ、こりゃないだろ? ナンバーワンにならなくてもいいけどオンリーワン過ぎんだろ? 世界にひとつだけのなにこれ?」


「セ、セリカちゃん、言い過ぎだよぉ~!」


「お兄ちゃんだって、さっき諦めてたじゃん」


「いや、あれはそのぉ……。とにかく、花咲さんは頭の中でお洋服が合わせられないだけなんだよぉ。鏡で見て、これが違うってわかってるなら大丈夫だよ花咲さん」 


 それから私とお兄ちゃんで花咲の持ってきたドレスに合わせるものを用意すると、持って歩けるようにそれらをリュックの代わりにブランドの紙袋に詰めた。


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