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花咲改造計画。


 花咲にキャミとスパッツをはかせると、私達の着せ替え祭りが始まる。


「は、花咲さん、こ、ここここのブラウス着てみてよ! あとねあとね、こっちのミニとね――」


 お兄ちゃんですら、こんな状態なので誰も止める人間はいない。


「ショートパンツ……ミチルちゃん、そっちのショートパンツはいてみよう。ううん短い方の」


「だったらその前にタトゥータイツ穿こうよ。お兄ちゃん持ってなかった?」


「持ってるぅ! ちょっと待っててね花咲さん」


「ミチルたんは足長いねぇー。すべすべだねー」


「セリカちゃん、メガネも出てきたんだけどどうかな?」


「いいね。そっちの赤いのがいい!」


「ミチルたんはおっぱい大きいねー。ふわふわだねー」


 お姉ちゃんが若干危うい気がするも、欲望の赴くままに私たちは花咲の着せ替えを楽しんだ。

 後半はコスプレ色が強くなったがそのまま突っ走った。

 二時間近く花咲を弄び、床が洋服で見えなくなったころようやく私達は満足した。


 部屋の中の空気が色んな意味で悶々としている中、花咲が声をあげる。


「あのぉ……」


「いいよ。素敵だよ。花咲」


 いつの間にかスパッツも脱がされ、今の花咲は網タイツ姿のバニ―さんになっている。

 こんな衣裳どこから出て来たんだろ?


「いや、俺、全然自分の格好見れてないんだけど」


「もういいじゃん。そんなの」


「おい」


 花咲がブーブー非難の声をあげるので、仕方なく少しまともな路線に戻ってみる。

 シャギった毛先をまとめて内側にカール。

 上は白のブラウスに赤のタータンチェックのネクタイ。

 スカートも同じタータンチェックで揃える。

 足元は黒タイツ。

 仕上げにブラウスの上には三つボタンのベージュのジャケットを着せる。

 その胸のところにはうちのブランドロゴが刺繍されたエンブレムがついていて、コンセプトはお嬢様学園のフォーマルスタイルだ。


「んー、もうワンアクセント」


 そう言うとお姉ちゃんはヘアピンで花咲の髪前髪を少し持ち上げ、最後にリップグロスを薄く引いた。


 ……何ちゅーか。


 同級生に見えん。

 ってかもう、小学生に見えん。

 思わず敬語で話してしまいそうだよ。

 隣を見るとお兄ちゃんもぽかんとしていた。


 そんな花咲を、私は姿見の前に立たせる。


「あ、えっと、ど、どうかな?」


 鏡の中の花咲が訊いて来る。


「自分で見てどうなのよ」


「何か、自分じゃないみたいで、これを見てどう言ったらいいのかわかんない……」


「花咲さん、すごくかわいいよぉ」


「あ、ありがとう」


 お兄ちゃんの言葉に顔を赤くする花咲。

 そんな様子をお姉ちゃんが難しい顔で見つめている。


「あの……どこか変ですか?」


 自信なさげに問う花咲に、お姉ちゃんが意味深に小首を傾げる。


「……いや、とりあえずミチルちゃんさ」


「はい」


「唇、舐めていいかな?」


「え? あ、はい」


 花咲はお姉ちゃんの真剣な変態発言に何を勘違いしたのか、ペロリと自分の唇を舐めてみせた。


「たまらんな」


 そう言って近づこうとする姉を私は全力で引きとめる。

 保護者が逮捕者になったら色んな意味で学校に行けない。


「まあ、冗談はこれくらいにして」


 お姉ちゃんは、そう言って不自然に仕切り直すと、


「ミチルちゃんさ、うちのモデルやってみない?」


 と切り出した。


「この子達二人だとカバーできない部分あるし、ミチルちゃん見てるとムラムラしてくんのよね。服のイメージが」


 最後の倒置法は危ない。


「いや、でもあたしは……」


「ギャランティ的な話は無理なんだけど、その代わりうちの在庫品ならいくらでも貸し出すし、好きなように着てもらっていいから」


「ほ、本当ですか!」


「それは交渉成立ってことでいいのかな? じゃあ気が変わらない内に、家に送りがてら親説得しにいくか」


 時計を見たら九時前だった。

 さすがに花咲のお父さんも帰っているだろう。


 大量の赤飯をタッパーに詰め、着てきた私服に着替えようとする花咲を引きとめるとそのままの格好で自分の家まで案内させる。


 市営住宅のマンションの一階。

 インターホンを押すとスーツ姿のお兄さんが出て来た。

 と思ったら。


「父です」と花咲が紹介したので、私たちは口をあんぐりした。


 中でお茶でもと言われたが、時間も時間なのでと断りつつ、お姉ちゃんは玄関口で花咲のモデルの話を手短にしどろもどろに説明した。

 話してみると、説得どころか花咲のお父さんは、花咲が女の子らしい格好をしてくれることを手放しで喜んだ。

 そして花咲の無用な気遣いを少しだけ叱った。


 結局、何だかんだで玄関先で三十分近く喋ったその帰り道、私達は花咲父の話題で盛り上がった。

 花咲の父だけあってかなりのイケメン男子なのはもちろんだが、それが童顔とくればお姉ちゃんのはしゃぎようったらなかった。

 あんな父親が家にいたら、お姉ちゃんを初めて見たときにお母さんだと勘違いしたのも仕方がない。


 あと余談だけど、この日からお兄ちゃんは月に一度体育の授業をお腹痛いと言って休むようにお姉ちゃんに命じられた。


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