スロースターター。
カタログから何点か選ぶと、とりあえず着てみようじゃないかということになり、
花咲は着ているネルシャツを脱ぐのにボタンをはずしていく。
――――。
花咲さん。まさかのタオル一本巻き。
せめて上にキャミぐらい着てくれ。
ふとお兄ちゃんの方を見ると、無意味に自分が載っているカタログを熟読し始めていた。
おそらく、お兄ちゃんの頭の中はこうだ。
「ボク部屋の外に出た方がいいのかなぁ、
でも急に部屋を出たら花咲さんの着替えを意識してるみたいだよぉ、
早く着替え終わってよぉー……。
ふぇーん!」
体育のときだって女の子の着替えなんて何ともなかったのに、花咲にだけこの反応は何かなぁ……。
「お兄ちゃん、これ空いたケーキのお皿、流しに置いて来てくれる」
「あ、うん。わかった! わかったよぉ!! お皿ぁわかったよぉ!!」
私が自然な感じに出した助け舟に、これ以上ないくらい不自然に反応するお兄ちゃん。
まだ食べかけの自分のケーキを鷲づかみにして、それを大事そうに胸に抱えると、皿を置き去りにして慌てて部屋から出ていった。
どんだけテンパってんのさ……。
しかし、花咲も花咲だ。
「花咲あんたもそれ、もうブラしなって」
「はあ? い、いやに決まってんだろ! ブラなんて着けたらばれるだろ!」
「ばらせよ。もう無理だろ。いつまで隠すつもりなんだよ」
「中学……まで」
「絶対無理。卒業まであと一年以上あんだよ? その間にあんたの成長がそこ止まりだと思ってんの?」
「でもセリカはそんなに成長してないみたいだし、大丈夫だろ」
「よし。お前表出ろ」
「いや、そういう意味じゃなくって、その、俺は早くスタートしただけで、もうここでストップだ。セリカはこれから大きくなる。そういう……何て言うのか、早いか遅いかの違いで小学生の内に大きくなる分量はみんな一緒なんだ。たぶん」
「私はスロースターターってことか。お互いに希望に満ちた理論だな」
根拠ゼロだけど。
「でも、くそっ……何で胸なんて大きくなるんだよ」
「やっぱ表出ろコラ」
そのあと、着替えが済んだ花咲を見て、お兄ちゃんとん~と首を捻る。
「やっぱ似合わないよな」
花咲がバツ悪そうに笑う。
「いや、似合わない。ことはないんだけど……」
「何だろぉー。何か……だよねぇ」
いやまあ、甘ロリに身を包んで恥ずかしそうにする花咲はある意味かわいい。
しかし、花咲という素材的には何か足りないというか、違うというか……。
その後、お兄ちゃんの服や私の服を合わせてみても同じような結果で、
結局何かわからないモヤモヤした感じを残したまま、第一回花咲改造計画は幕を閉じた。